第52話 「ばたんきゅーですわ」
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…………。
リンは改めて、辺りを見回す。
……縄で縛られ、倒れ込んでいる妹。ミルフィー。
そして背中を斬られ、うつ伏せに倒れ先ほどからぴくりとも動かない妹。ラミス。
…………。
リンは俯き、奥歯をギリギリと噛みしめ……。
「貴方達……。」
わなわなと震えだす。
「貴方達、絶対に許さない!!」
リンは双剣を構え、駆け出した。
──ダッ!!
リンが振るう刃により、次々と斬り裂かれ倒れていくヘルニア兵士達。
ミルフィーを縛っていた縄も斬り裂かれ、自由になった途端に駆け出すミルフィー。
「お姉様!ラミスお姉様ー!!」
ミルフィーは転けそうになりながらも、姉ラミスの元へと走り出す。
うつ伏せに倒れ、背中からは血を流し、全く動かない姉の姿を見て青ざめる……。
「いやっ!……死なないでっ、ラミスお姉様!!」
ミルフィーは必死で姉ラミスを抱き抱え、祈る様に手をかざした。
ポウッ……。
ミルフィーの手が光輝き、ラミスを包み込む……。
「げほっ……。」
ラミスが意識を取り戻す。
「良かった……。」
姉の意識が戻り、最悪の事態にならなかった事に涙を流すミルフィー。……背中の傷も、失われた右足も、見る見るうちに回復していった。
…………。
ラミスは泣いている妹を、心配そうに見上げる。そしてそっと、ミルフィーの頬に手を寄せる。
「凄いですわね、ミルフィー……。助かりましたわ。流石、私の自慢の妹ですわね……。」
ラミスの傷が癒え、姉に飛び付きさらに泣き出すミルフィー……。
「良かった……。お姉様がご無事で……。私、私ぃ……。」
ぐすぐすと泣き崩れる妹に、微笑ましい顔でラミスは見つめた。
──ザシュ!!
「……それにしても。」
──シュバババババッ!!
「凄いですわね……。これがリンお姉様に宿る神々のお力なのかしら?」
ラミスの目には姉リンの姿が、何人にも居る様に映っていた。
いや、実際に姉リンが増えている訳ではない……。あまりにもリンの動きが速すぎて、残像の様に見えているだけなのである。恐らく姉リンに宿る、神々の力の一端なのだろう。
「凄いですわ、まるでリンお姉様が何人にもいるみたいですわね。」
背中から白銀色の闘気が揺らめき立ち、双剣を手に次々と敵を屠るその姿は……。まるで神話やおとぎ話に出てくる、天上人を思い起こさせた。
「流石リンお姉様ですわ……。」
ヘルニア兵を次々と斬り裂き、倒していく姉の姿を誇らしげに見守るラミスだが……。
その一方で、西の村で出会った"あの剣士"と比べている自分が居た。
「……お姉様と、一体どちらが強いのかしら?」
まあしかしそれは、ラミスとは全く関係のない話である。争い事を嫌い華奢でか弱く、暴力とはほど遠いラミスには、全く無縁の話だろう……。
「一度お姉様と、お手合わせをお願いしたいですわ。」
うずうずラミス。……ラミス姫様?




