第50話 「放課後お仕置きお茶時間〈ティータイム〉ですわ」
よく見てみると、戦が終わり安心してるからなのか。鎧を身に付けているヘルニア兵士の姿は少なかった。
正直な話、非力でか弱いラミス姫様が倒せるヘルニア兵士の数は、精々五、六人が限度だろう……。
しかしそれは、剣や槍を持ち鎧を身に付けた場合である。ヘルニア兵士達が鎧を身に付けていない、この状況下。
それ即ち、ラミスの独壇場であると言わざるを得ない。
──ガスッ!
ラミスの拳が唸る。
──ゴスッ!
ラミスの蹴り技が、空を裂く。
今までの敵は皆、鎧を身に付け頭部しか狙えなかったのである。そのラミスにとって、鎧を身に付けていない兵士程、戦いやすい敵はいない。
ラミスは瞬く間に、二十数人のヘルニア兵を地に沈めた。
「きっ、きさまぁ!」
ようやくラミスの実力に気が付き、全力で大男がラミスに掴みかかる……。
──ゴスッ!
「プリンセス"水月"!」
「がはっ……」
ラミスの強烈な三日月蹴りが、大男に炸裂する。
「ぐわぁぁぁぁぁ!」
大男はたまらず崩れ落ち、のたうち回る。
「フフフ……。この蹴りを喰らった人は皆、いい声で鳴きますわぁ……。」
ラミスはそう言いながら、冷ややかな笑みを浮かべた。
ラミスは頭に来ていた。我が愛する民達を奴隷の様に扱い、しかもこんな年端もいかない小さな子供達を縄で縛るとは。
断じて許すわけにはいかない。
「今日の私は少々、頭に来ていましてよ!」
断じて許してはならない!
「ぐっ……。」
流石に三十人近くも倒せば、鎧も無く素手のヘルニア兵はラミスを恐れ、近付かなくなった。代わりに剣や槍を構えた兵士達が、じりじりとラミスに集まって来る。
ラミスはそれを横目で数を確認しながら、身構える……。
数は十数人……。やはりラミス一人では厳しい。
ラミスは覚悟を決め、身構えた。
──ゴゴゴゴゴ。
突如城門が開かれ、大量のヘルニア兵士達が城門より入って来る。
数は優に千を超えていた……。
…………。
「……流石にこれは無理ですわね。」
ラミスは頬に手を添え、ため息混じりに呟く。
──ピコーン!
ラミスの頭に豆電球が浮上し、ぽんと手を叩く姫様。
「そうですわ!」
ラミスは先ほどの書物の内容を思い出す……。戦い方には様々な戦い方がある、その一つ『兵法』。ラミスが先ほど読んだ書物には、戦いの一環として、ある程度の兵法の知識が記載されていた。
「こういう時は、確か……。」
一旦引く、狭い通路に誘き出す、建物を利用する、建物の影などの死角も利用する、足で稼ぐ……等々。
とにかく多対一はなるべく避け、一対一に持って行く事。ラミスは書物に記された兵法を試そうと、後ろを振り返った……。
「…………様。」
──!?
「えっ……!?」
ラミスはそのか細い声を聞き、立ち止まった。
「…………え様。」
ラミスは急いで振り向き、その声の主を探す。
「……まさか!?」
開け放たれた城門が東である事に、もっと速く気が付くべきだったかも知れない。
「ミルフィー!!」
「お姉様ーー!」
ラミスのその視線の先には、縄で両手を縛られた妹ミルフィーの姿があった……。




