第48話 「準備運動は大事ですわ」
ラミスは書物を読み終え、元の棚へと戻した……。
ふと、ラミスはある事に気づく。
──あら?
「…………。」
ラミスは改めて、父の書斎にある本の題名を注視する。
「…………。」
戦争の書物、戦略の書物……。
他には、古の魔獣の書物、古の魔獣との戦い方、格闘技の書物、剣術指南の書、魔導書……等々。
やたらと魔獣や戦の書物が目立つ。
……父はこの様な趣味を持つ、人物であっただろうか?
それは、まるで古の魔獣が復活するのを、予見していたかの様な……。
「…………。」
「気のせいですわね。」
ラミスは父の書斎を後にした……。
外へ続く廊下の途中で、ラミスは考える。
蘇生……。
死から黄泉返る力……。
「恐らく、これが私に宿った神の力ですわね。」
実際生き返っているのだから、間違い無いだろう。
法術……。
将や民を助ける力……。
「これはミルフィーの癒しの力、ではないかしら?」
ミルフィーは兵士の傷が癒えたと、言っていた。恐らくそう考えるのが妥当だろう。
幻術……。
敵を葬り去る力……。
すると残りは、必然。姉ナコッタとリンの力となるのだが。
……幻術。
「もしかすると、リンお姉様が見付からないのは、この幻術の可能性も考えられますわね。」
幻術で隠れているのだろうか……?しかし、敵を葬り去ると記載があるのだ。若干の違和感があるのは否めない。
猛将……。
敵を葬り去る力……。
残すは後、姉ナコッタの力になるのだが……。
「ナコッタお姉様に剣をお渡しして、素振りをして頂く……というのはどうかしら?」
背中に神々が宿っている以上。何かしらの力は使える筈なのだ。
剣が使えないのなら、必然残りの「幻術」の力になるだろう……。
……しかし姉ナコッタが剣を携え、戦う姿はあまりラミスには想像出来なかった。姉妹の中で一番運動が出来るのは、妹のミルフィーである。次いでリン、ナコッタ、ラミスの順になる。
姉リンならまだしも、文系であり頭脳明晰な姉ナコッタが剣を持って戦う姿は、ラミスには想像出来なかった……。
「うーん、あまり想像出来ませんわね。」
ちなみにラミスが一番運動神経の無い、ドジっ子なのは言うまでも無い。
「ですわー。私が一番華奢でか細くて、弱くて運動神経が無くて、争い事は好まなくて、弱くて虫も殺ない淑女ですわぁ……。」
四姉妹の中で、一番か弱く。そして運動神経が無いドジっ子。
つまり必然的に争い事とは全く無縁なのが、このラミス姫様なのである。
ラミスは本来なら、戦い等全くの無縁のお姫様なのだ。
「ほんと、私は野蛮な事は苦手ですわー。」
頬に手を添え、溜め息を深く付き……。つくづくしみじみ思い改めるラミスであった。
ラミスは扉を開け外に出る。
そこには当然の如く、ヘルニア兵がたむろしていた。
大勢のヘルニア兵……。そして奴隷の様な扱いを受けている愛する民達……。
ラミスはその中の一人に目が行った。奴隷商人なのだろうか……?
かっぷくが良く、太ったお腹で長い髭を蓄えた商人らしき人物が、年端もいかない子供達を縄で縛り、拘束していた。
ラミスはとりあえず邪魔な鎧を脱ぎ捨てる。
「脱ぎ脱ぎしますわ。」
そしてしゃがみ、軽く準備体操を始める。
「おいっちにーですわ。」
そして、走り出す。
「オルラァァァァァアアアアアア!!」
──ドゴォ!!
「プリンセス"旋空"!」
ラミスの豪快な真空飛び膝蹴りが、華麗に決まる。
空中を華麗に舞い、くるんと一回転をし、そこから放たれるその強烈極まりない一撃は、真空を走らせ空を切り裂き絶大なる衝撃を放つ。
姫神拳九式改プリンセス旋空脚。ラミスのこの渾身の一撃をまともに顔面に喰らっては、例えどんな屈強な大男でも耐えられないだろう。
「この様な所業、非道、悪行の数々……。」
ラミスはしゅたっと、着地する。
「例え天が許しても……この。」
ラミスはくるくると回り、ポーズを決める!
「この私が……ゆるちまちぇんわ!!」
噛んだ……。




