第40話 「失礼しましたわ」
──すたすたすた。
おもむろに敵陣営の真っ只中に、突き進んでいくラミス姫様。
……悠々と粛々と。その姫の姿に、敵も目を奪われ驚き戸惑っていた。
「へっへっへ、どうした?嬢ちゃん。来る所間違えてるんじゃねぇのか?」
当然の様に何も知らないヘルニア兵達が、そのラミスの麗しい姿に惑わされ。へらへらと笑いながら、ラミスの元に歩み寄って来る。
にっこりと微笑むラミス姫様。そして……。
──ドガガガガッ!
ラミスはヘルニア兵士達の不意を付き、凄まじい連撃を浴びせていく。
右ストレート、裏拳、回し蹴り、真空飛び膝蹴り……。
瞬く間に、地に沈むヘルニア兵士達。
「四人……。いえ、三人ですわ。私も、まだまだですわね。」
「きっ、貴様ぁ!」
ラミスの実力にようやく気が付き、ヘルニア兵達は殺気立ち剣を構える。
「判断が遅いですわよ?」
──ガガガガッ!
更にヘルニア兵士を一人、怒涛の四連撃で地に沈めていくラミス。
「ラミス姫!……えっ!?」
慌ててラミスの元へ走り出すが、グレミオはその光景に思わず立ち止まってしまった。
「んー残念ですわ、四人だけでしたわね。後は、よろしくお願い致しますわ。……それでは皆様、ごきげんよう。」
そう言い残し、ラミスは脱兎の如く走り去って行った。
──びゅーん。
……すたこら、すたこらですわ。
──したたたたた。
「早くお姉様の所に、急がねばなりませんわ。」
ラミスは姉ナコッタの居る建物へと、急ぎ走って行った。
……しかし、先程のは本当に時間稼ぎになっていたのか?と、言うのは多少疑問は残らないでもない。
「お姉様!」
「ラミス?……ラミスなの!?」
ナコッタは瞳を潤ませながら、ラミスに抱き付いた。
「……どうして疑問形ですの?お姉様。私は、きちんとラミスですわ。」
「…………。」
「何だか、私には……。何時ものラミスとは顔つきも雰囲気も、全く別人の様に思えましたの……。」
──!
流石はラミスの姉である。ラミスの微かな変化にも気が付いてしまう様だ。
「本当に……。本当に、色々ありましたから……。」
……そう。ナコッタにとっては"それ"は一日でも。今のラミスにとっては、それはそれは約三十年にも及ぶ長い年月なのだ。
ラミスはその長い年月の間、たった一人で戦ってきた。そのラミスが纏う雰囲気の違いに、姉であるナコッタ以外も気が付いてしまう事だろう……。
「お姉様、積もる話は後ですわ。……今は時間がありませんわ。」
ラミスは姉ナコッタの元を離れ。前回同様、ベッドで伏せているクリストフを手厚く抱擁する。
そして、ラミスはあの件の事を尋ねてみた。
「クリストフ将軍。……大事なお話があります。鉄よりも鋼鉄よりも堅い魔物の倒し方を、私に教えて頂きたいのです。……私では、あの化け物を倒す事が出来ないのです。」
「姫様?……一体、何のお話を!?」
驚くクリストフだが、あまりにも姫の真剣な表情と眼差しに……。
……クリストフは語り始めた。




