第36話 「邪魔しないで欲しいですわ」
「ラミス、無事だったのね……。良かった。」
クリストフを支え、ベッドに戻した後。ラミスが振り向くと、お姉様と呼ばれたその女性は瞳を潤ませてラミスを見つめていた。
「ナコッタお姉様!」
ラミスも、すぐに瞳を潤ませ姉に飛び付く。
「お姉様。……ご無事で、本当に良かったですわ。」
妹ミルフィーに続き、二人目の姉妹である姉ナコッタと再び出逢えた事に……。ラミスは、涙を流して心から喜んだ。
「ねえ、ラミス……。リンお姉様は、ご一緒ではないの?」
──!?
「いえ、私はてっきり……。ナコッタお姉様と、ご一緒なのだと思っておりましたわ。」
……それでは一体、姉リンは何処に居ると言うのだろうか?
いや、敵の魔の手が迫っているのだ。今この状況の中、急いでやるべき事と確認すべき事があった。
「ナコッタお姉様。お姉様は古の神々から、一体どの様なお力を授かったのですか?」
「……え?一体何の事なの、ラミス。」
そう聞かれナコッタは、キョトンとした顔をして聞き返した。
「……?」
ラミスは後ろに回り込み、ドレスを引っ張りナコッタの背中を確認する。
「えっ!?ちょっと、何してるの?ラミス。」
──!?
……いる。
姉ナコッタの背中には、やはり神々が宿っていた。そこには、ラミスが今まで一度も見たことがない獣の姿が浮かび上がっていた。
……初めて見る神の姿に驚くラミスだが、その動物には見覚えがあった。
「……亀さんが、いらっしゃいますわ。」
「ねえ、ラミス。一体さっきから、何を言っているの?……亀?」
「お姉様……。よく聞いて下さいませ。私とミルフィーの背中にも、お姉様と同じ様に背中に神々が宿り。古の神々から、お力を授かっているのです。ナコッタお姉様も、神々から何かしらの力を……。」
──ドガッ!
話を遮るかの様に、二人のヘルニア兵が部屋に入り込んでくる。
「ヒャッハー!見つけたぜぇ、姫さんよぉ。……ぐへぅぇあ!!」
──ガコォ!!
「プリンセス"延髄"!!!」
先手必勝!油断しているヘルニア兵の頭に、ラミス渾身の蹴りが炸裂する。
「き、貴様ぁ!」
もう一人の兵士が、ラミスに斬りかかる。
──ギャギャッ、ギャイン!
が、それを全て脚で捌くラミス姫様。
──ドガガガガ!
「プリンセス"連脚"!!」
怒涛の四連撃が、ヘルニア兵に襲いかかる。……流石にラミスのこの技を、まともに喰らって無事に済まされる人間など存在しないだろう。
「え?……ええっ!?」
「……ひ、姫様??」
──もうヘルニア兵が!?
……残念ながら、話をしている時間は無いらしい。
「……お姉様、こちらの兵の数は?」
とりあえず落ち着いて、この状況を把握しなければならない。……しかし姉ナコッタは色々と戸惑い、混乱している模様である。
「こちらの兵の数は、五人です。……姫。」
ベッドからクリストフの声が聞こえる。
……五人?
たった五人?ラミスが最初に見た時には、既に負傷しているヘルニア兵が、既に二十数人も居た筈なのである。たった五人で、そこまで戦えるものなのだろうか?……それとも、かなりの手練れでもいるのか?
「グレミオが居ります、しばらくは凌げるでしょう。ぐふっ、ゴホゴホッ……。」
「もういいわ、もう喋らないで。クリストフ……。」
慌ててクリストフの元に駆け寄る、姉ナコッタ。
「…………。」
……ラミスは建物の外に近付いてくる足音に気が付き、急いで外に向かうのだが。外はヘルニア兵士が待ち構え、既に建物は囲まれていた。




