第21話 「聞かないで、ですわ」
「私……。お姉様が心配で、心配で……。ぐすっ、ご無事で良かったですぅ。……ぐすっ。」
「私も貴方の元気な顔が見れて、一安心ですわ。」
周りの兵達は皆、姉妹の感動の再会を涙ぐみながら暖かく見守っていた。
この兵士達は、ツインデール公国第四公女ミルフィー姫の護衛部隊である。数は約五十名。ヘルニア帝国侵攻の一報を受け、その帰還中に帝国兵と遭遇し、この山中に身を潜めていたのである。
ミルフィーは涙を拭いながら、ラミスに尋ねた。
「ラミスお姉様……。リンお姉様とナコッタお姉様は……。ご一緒では、無いのですか?」
「無事らしいのですけれど、今の所それだけしか情報が無くて。ごめんなさい、私にも分からないの……。」
ラミスは俯き二人の姉を心配しながら、そう答える事しか出来なかった。
「……きっとご無事です。」
ミルフィーは少し震えながらも話始める。
「お姉様、私魔法が使える様になったんです。……伝承の神々が私に力を与えて下さったのです。きっと神々が、お姉様達やこの国を守れと仰られてるに違いありません。だからきっと……。きっと、お姉様達も無事に違いありませんわ。」
「……ミルフィー。」
自分の妹ながら、何て健気で可愛らしいのでしょう?とほっこりすりラミス姫様だが、一つ気になる言葉があった。
「……え?魔法!?」
ミルフィーの話によると……。
ヘルニア帝国兵との戦いで傷ついた兵士達を心配そうに見ていると。突如、手と背中が光出し兵士の傷が癒えたのだと言う。
「自分では見えませんが……。メイド達が言うには私の背中に龍が宿っていると……。」
「どれどれ……。」
「おおおおお姉様!?」
ドレスを引っ張り、中を覗き込むラミス姫様。
「……あら?大きなドラゴンさんがいらっしゃいますわね。」
ドラゴン……。確かにドラゴンと言ったのだが、ラミスにはそれが少し引っ掛かった。ドラゴンと呼ぶよりは、どちらかと言えば蛇の様に思えたからだ。例えるなら、古の時代の怪物リヴァイアサンの様な……。
「あっ……。」
そういえば……。と、ラミスは背中の違和感の件を思い出す。
「ミルフィー、私の背中も見て下さる?」
……そう言いながら、おもむろにドレスを脱ぎ始めるラミス姫様。そして、それを急いで止めに入る妹ミルフィー。
「おおおお、お姉様。」
「フェニックスの様な……。これは、火の鳥なのでしょうか?」
ミルフィーは先程のラミス姫同様に、上からちょこっと覗き込む。
「…………。」
「お姉様。やはりこれは伝承に伝わる神々のお力、なのでしょうか?」
恐らくそうなのだろう……。もしかすると姉達も同様に、何かしらの神々の力を授かっている可能性がある。
「所でお姉様、私は回復の魔法を授かりましたが……。お姉様は一体どんな魔法を?」
ラミスは、その質問に手で顔を覆った。
「……お姉様?」
ラミス姫の脳裏に、幾度もの辛い過去が……。ごろごろした過去が鮮明に甦ってくる。
「…………。」
両手で、顔を覆うラミス姫様。
「……お姉様?」
頭の中に様々な考えが交錯し……。その体勢のまま、固まってしまうラミス姫様だった。




