第158話 「次々と、豚さんがお空の彼方に飛んで行きますわ」
「……え?」
「……は?」
何も知らない兵達は驚き、戸惑いの声を上げる。グレミオが、何かを叫んでいた様なのだが……。ラミスは気にせず、鼻歌を口ずさみなながら豚の元へと進んで行く。
千のヘルニア帝国軍兵士と、古の怪物豚の前に。……悠然と立ち構える三者。
「クリストフ将軍、豚さんを半分程お任せしてもよろしいかしら?」
「はっ、姫様。承りました。」
「バラン将軍は、その後で後方に居るヘルニア兵をお願いしますわ。」
「はっ、姫様。了解致しました。」
巨大な壁の如く、ラミスとクリストフの前に豚の大群が立ち塞がる。
──バチッ、バチバチバチ!
「……では、参りますわよ。」
ラミスは自らの拳に、闘気と雷を収束させる。
──ギュオ!!
ラミスの拳の前に、豚達は一撃で粉々に砕け吹き飛んでいく。
──ズガシャーン!!
ラミスの放つその拳は、空を引き裂き、竜巻を巻き起こす。その風圧により、まるで龍が這いずり回ったかの様に、次々と地面が削り取られていく。その直撃を喰らった豚達は、体に大きな風穴を開け。
……そして、大地へと還っていった。
ものの数秒で、豚三十体を地に沈めるラミス姫様。
「あら今日は"マグナム"の切れが、よろしいですわね。」
──ザシュ、ザシュザシュ!!
こちらも豚二十体を、一瞬で仕留めるクリストフ将軍。
「……流石、クリストフ将軍ですわ。」
「ひいぃぃぃぃ。」
ラミスとクリストフ将軍の恐ろしさに、ヘルニア兵士達はがたがたと震え上がる。ヘルニア兵達は腰を抜かし地面に倒れ込み、北の街へと攻め込んだ事に後悔した。
……すたすたすた。
バランは、静かに歩み寄る。
剣を投げ捨て、慌てて逃げ出していくヘルニア兵達。
──ザシュ!
しかし、ヘルニア兵達は逃げるのが遅すぎた。……本当に逃げたいのならばバラン将軍の視界に入るその前に、逃げ出さねばならなかったのだ。
バラン将軍の剣閃により一瞬で斬り裂かれ、そして塵となるヘルニア兵士達。
……たかが千如き、バラン将軍の前では敵では無い。
「オオオオオオオオオオオ!!」
ヘルニア帝国軍を撃ち破り、味方の兵達が大歓声を上げる。ヘルニア帝国撃退の報せにより、その歓声は街全体を包み込んだ。
その歓声の中、ラミスは遠く離れたツインデール城を見ていた。
「…………。」
……後は。
「豚王、オークキングのみですわよ。」
ラミスの……。いやラミス達の、祖国を取り戻す最後の決戦が始まる。




