第157話 「それがいいですわ」
ラミスは今日、ヘルニア帝国の軍勢が攻めてくる事をすっかりと忘れ。今日侵攻がある事を、皆に伝え忘れていただけだったのである。
お口をあんぐりと開け、ぽかんとするラミス姫様。まさか、こんな騒ぎになってしまうとは……。
あちゃー、寝ぼけてマシタワー。てへっ、と笑って誤魔化すラミス姫だが……。
こうなってしまった以上、騒ぎを抑えるのは非常に困難と言える。
ラミス姫が一人一人丁寧に声を掛けて回り、説明するよりも……。
「大丈夫ですわよ皆様。だから、ご安心なさって。 ̄▽ ̄∩」うふふ
ラミスがヘルニア兵達を、一人残らずぶちのめした方が何かと手っ取り早いだろう。
「おらー。>△<」ばちこーん
奥義でさくっと、纏めて片付けた方が話が早いと判断するラミス。……そう、判断してしまったラミス姫様。
……そうですわー、それがいいですわー♪
ラミスはふふふーん♪と鼻歌を歌いながら、スカートを両手で掴み意気揚々と駆け出して行った。
ヘルニア帝国の軍勢が、今日攻めてくる事をラミス姫が忘れていたのは。……少し、仕方が無い事なのかも知れない。
こちらには既に、バラン将軍とクリストフ将軍が居るのである。ヘルニア兵士三千だろうと、豚だろうと将軍の敵では無い。ものの数秒で、蹴散らしてくれる事だろう。
……なんなら、ラミス姫一人だけでも楽勝なのかも知れない。
つまり……。何一つ心配はいらず、民の避難も必要無いのである。
……したたたたたたたたっ。
「少し、肩慣らしをして参りますわー。」
──しゅばばばばばばっ。
ラミスは高速で市街を走り抜け、階段を使わずに城壁の上へ飛び上がる。
──ぴょんこ。
「あら、豚さんが沢山いらっしゃいますわ。」
ヘルニア兵士の数は少ない。……千も居ないだろう。しかし兵士の数が少ない分、豚の数が五十体とかなりの数であった。
「……な、何だあの怪物は!?」
「か、かなりの数だぞ……。」
初めて見る古の怪物の、その異様な姿に驚く味方の兵士達。
──ガチャリ。
少し遅れてラミスの下に、バラン将軍とクリストフ将軍の両名が駆け付ける。バランは一礼をし、ラミスの顔をまじまじと見つめた。
「姫様、少し会わない内に随分と見違えましたなぁ……。今の姫様の拳からは、以前まであった迷いが消えております。」
「あらぁ、分かります?」
……うふふ。
ラミスはまるで髪型変えた?香水変えたの?等を聞かれた様ににっこりと微笑み、少し照れくさそうに返事をする。
……うふふですわ。
横に居たクリストフもまたラミスの実力に気が付き、自分の実力に迫っているのを感じていた。
ラミスは城壁の上で、その美しい髪を風で靡かせ、下に居る豚達を見下ろす。
「では参りますわよ、バラン将軍。クリストフ将軍。」
「はっ、姫様!」
「はっ、姫様!」
そう言って、ラミス達は城壁の上から飛び降りて行った。




