第149話 「ナコッタお姉様も心配ですわ」
──!?
グレミオは動けなかった。
その男が放つ恐ろしい迄の殺気を前に、その強烈な殺気に気圧され……。恐怖から、グレミオは全く動く事が出来なかった。
──ざっ、ざっ。
静かに歩み寄る、ゲイオス。
「……死ぬがいい。」
ゲイオスの刃が、妖しい光を放つ。
近付くゲイオスに対し、グレミオは震える手で剣を構えるが……。
グレミオは既に己の死を覚悟し、それを受け入れていた。それ程までにグレミオの目にはゲイオスが恐ろしく映り、その実力差に怯えていた。
「はは、すまないラミス。どうやら俺はここまでの様だ……。君を助ける事が出来なくて、本当にすまない……。あの日の約束を果たせなくて、ごめん。でも俺は心から君を、あ……。」
…………。
「あ……。」
──ヒヒーン!
「あ……。」
……あれ?まだ、死んでいない?グレミオは生を諦め、瞼を閉じていた。だが未だに奴が斬り掛かって来ない為、少し不思議に思うグレミオ。……しかも、何やら息の荒い馬の鳴き声が聞こえてくる。
「ヒヒーン。」
……?
グレミオは恐る恐る、その目を開けてみる。すると、何故だか分からないが……。ゲイオスは恐怖に怯え、その身を震わせていた。
──!?
「一体、何が?」
……理解出来なかった。あれ程までに恐ろしい殺気を放つ、"凄腕の剣士"が……。強敵である筈のゲイオスが。
一体何にそんなに怯えているのかが、グレミオには全く理解出来なかった。
「…………。」
「遅れてすまなかった、グレミオ。ナコッタ姫は、ご無事であらせられるか?」
──!?
「……なっ!?」
グレミオは、その人物の登場に酷く驚いた。この戦争で既に、戦死したと聞かされていたからである。
そもそも、このツインデール公国の敗北の決定打となったのが、この将軍の死が決め手なのだから。
「ま、まさか……。生きていたのか?バラン将軍。」
「フッ、死んでいたさ。だが姫様に叩き起こされてな……。おちおち、死んでなぞ居られぬわ!」
「……はは。」
この絶望的な状況の中、公国最強を誇る将軍の登場に。グレミオは一気に肩の力が抜け、そして安心し笑った。
劣勢に次ぐ劣勢のこの状況、これ程までに頼もしい人物など居ないのだから……。
……しかしグレミオはバラン将軍の言葉に、一つ引っ掛かる所があった。
「バラン将軍、一つお尋ねしたい。……その、姫と言うのは第一公女リン姫の事か?」
グレミオはラミス姫の事が気になり、それを聞かずにはいられなかった。今のグレミオはラミスの事が心配で、頭の中が一杯だったからだ。
もしかするとバラン将軍が、既にラミス姫の救出に成功しているのでは……?そういう淡い期待を持たずには、いられないグレミオだった。
「……いや、今は公国第三公女ラミス姫の下で。この剣を振るっている。」
──!?
「なっ!?……ラミス姫は、ご無事なのかっ?」
「……ああ、今の所はな。」
「そうか、ラミスは無事なんだな……。良かった、本当に良かった。ありがとうバラン将軍、ありがとうございます……。ううっ。」
将軍の言葉に涙を流して、ラミス姫の無事を喜ぶグレミオだが……。
「…………。」
バラン将軍は目を閉じ、ラミスの身を案じていた。
「だが、姫様は……。奴と戦っておられる。」
バランは遠く離れた、東の山の方角を見る。
「あの怪物と……。」
──ドガッ!!
古の怪物と死闘を行う、ラミス姫様。
「姫、どうかご無事で……。」




