第145話 「バラン将軍が強過ぎますわ」
「……え?」
バラン将軍は、そう言うと恐ろしい速さで斬撃を繰り出し豚に斬りかかる。そのあまりの速さに、ラミスはバラン将軍が一体何をしているのか、理解が出来なかった。
──ザシュ、ザシュザシュ!!
「…………。」
ただ、ひたすら斬撃を放つバラン将軍。
ラミスは良く目を凝らし、その動きに注視する。バラン将軍は、その場をあまり動かずに攻撃している様なのだが……。
ラミスはバラン将軍の位置、バラン将軍の放つ斬撃の音それと豚王の傷口等から、バラン将軍の剣筋を予測する。
「…………。」
──ザシュ、ザシュ!
「プギィ、プギィィ……。」
バラン将軍の猛攻に悲鳴を上げる豚王。
──ザシュ、ザシュ!!
「…………。」
──ザシュ!!
「プギィ……。」
「…………。」
──!?
──全て同じヵ所を狙っている!?
ラミスはそれを理解した瞬間、バラン将軍の恐ろしさに背筋が凍り付く程の寒気が過った。
バラン将軍は、その放つ大剣を全て同じヵ所に叩き込んでいた。それも一寸の狂いも無く正確無比に……。
常に同じ角度で一寸の狂いも無く、正確に叩き込んでいた。
──ザシュ、ザシュザシュ!!
「プギィ、プギィ……。」
バラン将軍の恐ろしい迄の強さに、ラミスは震えが止まらなかった。ラミスはそっと瞳を閉じ、バラン将軍が敵で無かった事に感謝をする。
「……これなら。」
──勝てる。
ラミスは震えながら拳を握り締め、バラン将軍の強さに希望を感じていた。
──ざっ。
しかし今回もバランは攻撃の手を止め、ラミスの居る後方へと下がる。
「…………。」
……え?
「あの……バラン将軍?一体、何故……。」
──ギリッ。
ラミスの問いに、バランは悔しさに歯を噛み締めていた。
「……ご覧下さい、姫様。」
「……え?」
ラミスは、倒れている豚王の様子を見る。
──!?
「自分の身を……。守っているの?」
「プギィィィィィィィイ。」
豚王は一切攻撃をする事も無く、守りを固めていた。特に先程バラン将軍が攻撃していたヵ所は、巨大な戦斧で防ぎ、完全に防御に徹する豚王。
「我々、人には体力の限界と言う物がございます。食事もしなければなりませんし、睡眠も必要です。それに傷も、すぐには回復致しません。勿論休まずに戦い続ければ、その分疲労も蓄積します。」
「……将軍。」
「……しかし、奴にはそれが無い。一日程度飲まず食わずでも、あの化け物には何ら問題が無いのでしょう。……奴の最大の強さは、あの強靭さです。奴はこちらの体力が尽きるのを、ただ防御に徹し待っているのです。」
「……そ、そんな。」




