第144話 「感謝しますわ」
「プ、プギィィィィィ……。」
体を斬り裂かれ、怒りに任せて戦斧を振り下ろす豚王。
──ガキィン!!
バランはいとも容易く戦斧を弾き返し、目にも止まらぬ速さの斬撃で豚王を斬り刻んでいく。
──ザシュ、ザシュザシュ!!
尚もバラン将軍の攻撃は続き、一方的に豚王の体を斬り刻んでいく。
「バラン将軍は、ここ迄……。ここ迄の、強さを持ってらしたの?」
ラミスは、そのバランの強さに体の震えが止まらなかった。
あの豚王の高速の攻撃を、難無く捌ききるバラン将軍の強さに。そして、その豚王に次々と目にも止まらぬ速さの斬撃を繰り出していく、バラン将軍の恐ろしさに……。
ラミスは震えながら感謝した。ここ迄の強さを誇るバラン将軍が、このツインデール公国に居る事を天に感謝をした。
──ドシュ!!
ラミスには全く見えない高速の斬撃を、次々と繰り出し豚王に叩き込んでいくバラン将軍。
その姿は、明らかに豚王を圧倒する物であった。
「プギィィィ……。」
堪らず悲痛な叫びを上げる豚王。
──勝てる!
バラン将軍の強さなら、あの怪物豚王に勝てるのでは?
……ラミスは、拳を握り締めでその目を輝かせた。
それはラミス姫で無くとも、誰が見てもバラン将軍の勝利を確信するだろう。あの豚王を一方的に切り刻んでいくバラン将軍の勇姿に、そして豚王が悲痛な叫びを上げる程のバラン将軍の恐ろしい斬撃の数々に……。
誰の目にも、バラン将軍が勝利する姿が映し出されているに違いない。
「ご覧下さい、姫。」
……しかしバラン将軍は攻撃の手を止め、ラミスの心の中を読んでいるかの様にそう答える。
──!?
「えっ!?そっ、そんな……。」
ラミスは、驚きのあまり顔が引きつった。
「……傷が、回復している!?」
その豚王の驚異的な迄の回復速度に、驚くラミス。通常の豚とは比べ物にならない程の速さの再生力に、ラミスは絶望を感じずにはいられなかった。
豚との闘いと、全く同じなのだ。その恐ろしい再生力と強度を誇る豚の前に、幾度となく敗れ去る自分の姿と……。
ラミスは、後一歩の所で敗れ去る自分の姿と重なって見えた。
ラミスは悔しかった。一歩、後一歩の所で何時も足止めを食らう歯痒さに……。もう、ほんの後一歩で祖国を解放出来ると言うのに。
その立ち塞がる壁の厚さに、ラミスは瞳を閉じて涙を流し悔しさに震えていた。
……後一歩。
──ザシュ!
バランは大剣を振り払い、素早くラミス姫の居る場所迄下がる。
「…………。」
悔しさに俯くラミス姫に、バランはこう話始めた。
「しかし、奴に勝つ方法が無い訳ではありません。」




