第143話 「どきどきですわ」
このバラン将軍の強さなら、例えあの豚王に勝てなかったとしても。何かしら突破口が、この公国を取り戻せる解決の糸口が見付かるのではないだろうか?と、ラミスは希望に胸が膨らんだ。
「……流石、バラン将軍ですわ。」
「はっ、恐れ入ります姫様。」
……バラン将軍なら、もしかするとあの豚王にも勝てるかも知れない。そして、公国を取り戻せる事が出来るかも知れない。ラミスは、その日が近い事を肌で感じ取り勝利を信じて微笑んだ。
「えっ?……あれ?何でだろうヘルニア兵達が全員一斉に倒れたよ?」
「あれー?ほんとだー。何でだろー、お腹でも痛いのかなー?」
「…………。」
ユリフィスとユミナの二人の会話に、ほっこりと和むラミス姫様であった。
──ざっ。
山の如き怪物を前に、全く臆する事無く悠然と大剣を構える一人剣士。その巨大な怪物に挑む将軍の名は、"剣王"バラン。
「…………。」
先程ラミスはユミナとユリフィスに、城に居る人達を全員北の街まで逃がす様に頼んでいた。
そしてラミスはバラン将軍に、こう伝える。
「申し訳ありませんが、バラン将軍。一度、私にバラン将軍の闘いを見せて頂けるかしら?……豚さんに勝つ為に、どうしても一度バラン将軍の実力を知っておきたいんですの。」
「……はっ、このバラン。姫様の御命令とあらば、例えどんなご命令であろうと喜んでお引き受け致します。」
バランは神経を研ぎ澄まし、豚王の前で大剣を持ち身構える。そして、それを祈る気持ちで見守るラミス姫様。
……クリストフ将軍もレティシア将軍も全く歯が立たず、豚王の大木の様に巨大な戦斧の前に為す術も無く散っていった。
その攻撃を見切る事が出来ずに、一度も回避する事すら出来ずに敗れ去っていった。
……"王の名を持つ獣"、豚王に。
……しかし、バラン将軍なら。
公国の誇る最強の将軍、"剣王"の称号を持つバラン将軍なら……。
ラミスは瞳を閉じて、バラン将軍の勝利を祈った。
──ガキィン!!
辺り一面に、鈍い金属音が響き渡る。……一度、二度、三度。豚王の繰り出す高速の攻撃を、あの大木の如く巨大な戦斧を……。
バラン将軍は完璧に見切り、その全ての攻撃を大剣で弾き返していた。
──!?
ラミスは驚かずにはいられなかった。バラン将軍がこれ程までに強さだとは……。あの豚王の高速で繰り出す全ての攻撃に反応し、大剣で捌いていくバラン将軍の凄さに……。
ラミスは、バラン将軍のその強さに震えずにはいられなかった。
……そして。
──ドシュ!!
「プギィィイ!」
バランは、豚王のその身に一刀を叩き込んだ。




