第142話 「またまた数が合いませんわ」
「…………。」
ラミスの問いに、バランは少し俯きながら考え始めた。
「……恐らく。」
「わー凄い!四人も倒せるだなんて、君とっても強いんだねー。」
「えへへへ……。そうかなー?……あれ?でも僕、四人も倒したかなぁ?三人しか、倒した覚えが無いんだけど……。」
ヘルニア帝国仲良し四人組を成敗し、一安心してにこにこ笑顔のユミナ嬢。仲良くお話しをしている二人だが、それを全く気にせず話を続けるバラン将軍と姫君。
「……恐らく、不可能でしょう。」
──!?
「俺では……。俺では奴に、豚王に勝つ事など決して敵わないでしょう。」
「…………。」
ラミスは、その言葉を聞き悲しそうに俯く。そしてにっこりと笑い、バラン将軍に微笑んだ。
「それは残念ですわね。でもこれで漸く公国の戦力が、元通りになった訳ですから、ここから皆さんで……。そうですわね、何かしら勝つ方法を。……勝利を導き出す、策略を考えますわ。」
「姫様、申し訳ございません。この俺が不甲斐ないばかりに、姫様に辛い思いをさせてしまいました……。」
「……バラン将軍。」
バラン将軍のその言葉に、ラミスは少し寂しい笑顔で微笑む。健気に振る舞うラミス姫だが、やはりその顔からは落ち込む色が隠せないでいた。
……しかし、落ち込んでばかりはいられない。ラミスは、皆を奮い立たせる為精一杯の笑顔を見せる。
──だが。
扉の先に待つ、公国の惨状を目の当たりにした三人の表情が、険しい表情へと変わる。
ユリフィスもユミナも、皆肩を震わせながら涙ぐみ。バラン将軍もまた目に涙を浮かべ己の弱さを悔い、拳を強く握り締め怒りに身を震わせていた。
「申し訳ありません、姫……。俺が、俺が……。奴に敗けさえしなければ、こんな……。くっ、こんな……。申し訳……ううっ。」
「…………。」
ラミスは何も話さずに、そっと三人の肩に触れる。
そして、公国の為に涙を流す三人にラミスは心から感謝し、その瞳に涙を浮かべた。
──ザシュ。
音は聞こえた……。何かしらを、斬る音はラミスの耳にも確かに聞こえたのだ。だがラミスには、一体何が起こったのかすら理解が出来てはいなかった。
──ドサッ。
確かにゲイオスは強かった。その斬撃の速さにラミスは幾度も苦しめられ、未だにラミスはその剣速を見切れてはいない。姉リンもクリストフ将軍も同様に、今のラミスでもその剣速に全く反応が出来ないだろう。
……だが、その三人が幾ら速いとは言え、三人共剣は抜刀していた筈なのである。三人共その剣を鞘から抜き、剣を構えていたのだ。
……しかし、ラミスが気が付いた時には既に。その斬撃の音と共に数百人のヘルニア兵達は倒れ、地にひれ伏していたのである。
「…………。」
絶句するラミス。ラミスの目にはバラン将軍が、一体何時斬撃を放ったのか……。いや正確には一体何時大剣を抜いたのかすら、ラミスは気が付いていなかった。
……そのあまりにも速い、抜き身を目にしたラミスは震えが止まらなかった。
──これが"剣聖"の称号を上回る"剣王"の称号を持つ公国最強の男、バラン将軍の実力なのである。
「…………。」
バラン将軍のその恐ろしい迄の強さを前にして、またその頼もしさに。
……ラミスは、笑っていた。




