第136話 「お紅茶のお時間〈ティータイム〉は、大切ですわ」
──ドスン。
既に動かなくなった、姫の見るも無残なその姿に。ガルガは絶望し、がっくりと膝から崩れ落ちる。
──ズシン!
そして大地が揺れる程の、その足音と共に"奴"が姿を現す。
「ブヒィ!!」
初めて見る、その古の怪物"豚"の姿に。味方の兵士達は恐怖に震え上がり、皆言葉を失った。
「…………。」
隊長であるガルガもまた、その怪物の異様な姿に怖れ恐怖に慄いていた。
「何だ、あの化け物は……。」
──むくり。
「あれは、豚さんですわ。」
「はっ!?姫様?……え、あれ?」
豚さんだけでは説明にすら、なっていないのだが……。それはまあ、置いといて。
遂先程まで、まるで死んでいたかの様に、無残な姿で横たわっていた筈のラミス姫様。それがいきなりむくりと起き上がり、ガルガはその平然と話す姫君の姿に酷く驚き、自分の目を疑わざるを得なかった。
「姫様、お怪我は……。ん?」
ラミス姫の容体を心配するガルガ隊長だが、ラミスの姿を見て更に驚く事となる。
「姫様……。か、髪が!?」
黒く焦げていたラミスの髪は、既にすっかりと元の美しい姿を取り戻していた。その焼け爛れていた筈の皮膚も、じわじわとゆっくり回復して行き、元の姿へと治り戻っていく……。
「これくらい、すぐに治りますわ。」
……恐るべし、神々の力"再生の力"である。
「……は、はあ。」
ただただ、唖然とする事しか出来ないガルガ隊長。
「あの程度で、あばあばするなんて……。私もまだまだですわね。」
と頬に手を添え、ため息混じりにそう呟くラミス姫様。
──ズシン!
「ブヒィ!!」
のんびりと話をしているラミス姫とガルガ隊長の前に、豚が立ちはだかり。その棍棒を、ガルガ隊長目掛けて振り下ろす。
「なっ!?」
──ブォン!!
何とか間一髪で、それを回避するガルガ隊長。ガルガはすぐに身を翻し、その豚の巨体に鋭い一撃を叩き付ける。
──ガキィン!
鈍い金属音が響き、ガルガが放った渾身の一撃は。その強固な外皮に阻まれ、豚の体には傷一つ付ける事が出来なかった。
「なっ、バカな……!?」
そのあまりの強固さに、渾身の一撃を喰らっても微動だにしない、古の怪物の恐ろしさに……。
ガルガは恐怖に震え、その場から動く事が出来なかった。
──ドゴォ!!
怪物は大きく振りかぶり、全力の一撃をガルガ隊長に叩き付ける。
──ぴょーん。
両手でガルガ隊長を持ち上げ、天高く飛び上がりその場を脱出するラミス姫様。
「…………。」
ガルガはまたもや唖然とし、一言も喋る事が出来なかった。ガルガは、このツインデール公国でも。一、二を争う程の巨体の持ち主である。その巨体を軽々と持ち上げ、あまつさえ飛び上がる姫君に。ガルガを始め味方の兵士達も皆、唖然としぽかんと口を開けていた。
──すたっ。
「あの豚さんは強敵ですわ。豚さんのお相手は私に任せて、皆様は紅茶の時間でも楽しんでらして?」
そう言って、ラミス姫は雷の如き速さで駆け抜け豚に一撃を放った。




