第134話 「うっかり眠ってしまう所でしたわ」
いや実の所、ガルガもまたラミス姫の放つその異質な闘気を感じ取っていた。
そのラミス姫の身に纏う、恐ろしくもあり又優しい闘気を……。その凄まじい闘気を、感じ取れないガルガ隊長では無かった。
しかしガルガ隊長はそう言う事を軽々しく、ましてや一国の姫様に物を言う気質では無かった。
……だが、迫り来るヘルニア帝国軍を前にして尚。凛々しくそして勇ましく、兵達の先頭に悠然と立つその姫の姿に。
ガルガ隊長も、ラミス姫を一人の戦士なのだと認識を改める。
「全員その場から一歩も動くな!お前達は、ミルフィー姫様の護衛に専念しろ!!」
部下に大声で指示を出すガルガ隊長に、ラミス姫は振り向きにっこりと笑う。
「……助かりますわ、ガルガ隊長。」
ヘルニア帝国軍による総攻撃が始まり、ヘルニア兵達は押し寄せる波の様に全軍で突撃を始め。ラミス姫達が居る洞窟目指し、一斉に山を駆け上がり襲い掛かって来た。
──ドドドドドドドド!!
ヘルニア兵の雄叫びと地響きに恐怖し、味方の兵士達に戦慄が走る。
「……お姉様。」
恐怖に駆られ不安の声を漏らすミルフィーの姿に、ラミスはにこりと笑い優しく声を掛けた。
「大丈夫よミルフィー、貴女の事は必ず私が守るから……。すぐに終わるから、だから……。」
ラミス姫は、少し寂しそうな笑みを浮かべ妹にそう告げる。
「……そんなに、哀しい顔をしないで。」
ラミスは襲い来るヘルニア兵達の前に臆する事無く悠々と佇み、その瞳をそっと閉じて呼吸を整える。ヘルニア兵士達が襲いかかり、ラミスに向かってその剣を振り下ろすその瞬間まで。
……ラミス姫は微動だにせず、ただ集中し気を高めていた。
──シュ!
ヘルニア兵士の刃が振り下ろされ、その刃がラミス姫の髪に触れるその刹那──。
「お姉様ー!!」
「姫様ぁ!!」
堪らずに叫ぶ、ガルガ隊長と妹ミルフィー。
……ラミス姫は、そっとその目を見開く。
──カッ!!
────────。
「うっ!?」
「きゃあぁぁー!!」
ラミス姫が目を見開いた、その瞬間。
凄まじいまでの轟音が鳴り響き、そして眩しい閃光が辺りを包み込む。その場に居た者は皆驚き悲鳴を上げるが、その声は全て雷音によってかき消されていく。
──バチッバチバチ!
ミルフィーはともかく、その場に居た全員が"それ"を理解する事は出来なかった。ガルガ隊長ですら、一体何が起こったのか全く見えてはいなかった。
……ただ、雷が落ちただけなのだと。稲妻が走り、ヘルニア帝国軍が殲滅したとしか捉える事は出来なかった。
大地と木々が焼き焦げ、殲滅した多数のヘルニア兵士達が横たわる焦土の中。雷を発しながら、一人悠々と佇むラミス姫の姿に。
……味方である筈の、ガルガ隊長でさえ恐怖した。




