第133話 「ミルフィーを怖がらせた豚さんを、私〈わたくし〉は許しませんわ」
しかしヘルニア帝国軍がこちらに迫っていると言うラミスの話に、ミルフィーは怯え恐怖のあまりに泣き出してしまう。
「……お姉様。」
──!?
……あわわわわわわ。
泣き出すミルフィーの姿に、酷く慌てふためくラミス姫様。
「だだだだだだ、大丈夫ですわー!そんなに怖い豚さんでは、ありませんわー!」
ラミス姫は妹ミルフィーの涙を見て、酷く混乱しくるくる回って踊りながらミルフィーを宥める。
少し話が違う様な気がしないでも無いが、それは置いといて。
ラミス姫はこの長く苦しい戦いの中で感覚が少し麻痺し、おかしくなっているのかも知れない。
……しかし、それは仕方がない話なのだ。ラミス姫にとって、城が落ちたのは体感的には百二十年以上前の話になり。そしてその間、ラミス姫は祖国解放の為に力を尽くし今まで必死に戦い抜いて来た。
そして祖国解放まで後一歩の所まで迫る中、豚王と言う壁の前で足踏みしている状態なのである。今のラミス姫にとってヘルニア帝国兵など恐るるに足りない存在であり、ラミス姫の敵とは豚と豚王だけになったのだから。
ラミスは決して、あっけらかんと言ってるのでは無い。……それは、必ず祖国を救うと言うラミス姫の決意の現れなのである。
……多分。
そう思うんだけどなぁ……少し不安が過らない事も無い。
そしてヘルニア帝国の一軍が到着し、その一報を受け隊長や兵達に緊張が走る。
「…………。」
「姫様、我々が時間を稼ぎます。その隙に、姫様方は脱出を図ってくださいませ。」
そう。ヘルニア帝国軍に囲まれている、この緊迫した状況の中。戦いはガルガ隊長や兵士達に任せ、戦う事の出来ない足手まといな姫君達は脱出しなければならない。
……ならないのである!!
「……ほえ?」
「お前達!早く姫様方を馬車へお連れしろ!!」
「……あの、ガルガ隊長?」
「帝国兵達は、すぐそこまで来ているのだ!……急げ!!」
「あの程度なら、私一人でも何とかなりますわよ。」
……ですよねぇ。
「さあ姫様方、早く馬車の中へ……は?」
頬に手を添え困ったご様子のラミス姫様、と困惑したご様子のガルガ隊長。
「……姫様、今何と?」
先程からおかしいラミス姫の態度に困惑し、姫の事がだんだん心配になってくるガルガ隊長。
──すたすたすた。
ラミスは一人洞窟の外へと歩き、そしてガルガ隊長の方を振り返る。
「ガルガ隊長もまだまだですわね、ギリアムはすぐに気が付きましたわよ?ふふふ、ガルガ隊長。兵士の皆様にお伝え下さいます?……一歩も動くなと。」
「……姫様。」
迫り来るヘルニア兵達を前に悠々と佇み、ラミス姫は不敵に微笑んだ。




