第129話 「私〈わたくし〉の考え方が、間違っていたのかも知れませんわ」
自分の非力さに嘆いていた。そして自分の未熟さに失望し、自分の鈍さに哀しんでいた。
……ラミスは、自分の弱さに絶望を感じずにはいられなかった。
その立ち塞がる壁を前にして為す術が無く、何も出来ない自分が悔しかった。
……何故、自分はこんなにも遅いのだろうか?
もっと速くなりたかった……。誰よりも速くゲイオスよりも速く、そして姉リンよりもクリストフ将軍よりも速く。
ラミスは自らの弱さに絶望し、生を諦めて死を受け入れた。何度も死に戻りを経験しているラミス姫にとって、それは何時もの事なのである。
……しかし、今回は少し違っていた。
ラミスは自分の考えが、何処か少し間違っているのではないか?と、ふと疑問が頭を過る。自分の考えに、何か間違いがあるのだろうか?
……自分は何か大きな点を見落とし、重大な勘違いをしている事は考えられないだろうか?
ラミス姫は一度、自分が使っている技の考察してみる事にした。
ラミスは自らの体に雷を纏わせ、速度を飛躍的に上昇させている。……もしかすると、この方法がそもそも間違っているのでは無いだろうか?
自分の体に雷を纏わせ速度を上昇させる。当然だが、人間の速度より雷の速度の方が遥かに速い。それは必然であり、自然の摂理である。
それは、変わる事の無い事実なのである。
……そう、人が光の速さを超えない限りは。
ラミスは、そこで少し考え方を変えてみる事にした。
人と馬では、どちらの方が速いのか?
と人に尋ねた時その答えは当然、大半の人が馬であると答えるだろう。
では、人が馬と同じ速度で移動出来る方法はあるのか?
と言う質問なら、その答えは簡単である。
……人が馬に乗ればいいだけの話である。
馬に乗れば、人は馬と同じ速度になれるのだ。
──つまり、それこそが。
──ドゴォ!
ラミスの拳がゲイオスを捉える。
「ぐはぁ。」
「捉えましたわ!」
ラミスはゲイオスの剣を首に喰らいながらも、寸での所を凄まじい速度で凌ぎ切り、そして遂にはその拳でゲイオスを捉えた。
ラミスはこの戦いの中で閃き、生と死の狭間で一筋の光明を導き出したのである。
──バリッバリバリバリ!!
ゲイオスには、一体何が起こったのか理解が出来なかった。雷と闘気を纏うラミスの前に、強敵ゲイオスが跪く。
「……ば、馬鹿な。この俺の速度を上回るだと!?」
ラミスの速さに驚くゲイオス、それと同時にその闘いを見守るヘルニア兵士達も皆驚愕していた。
雷を纏い目映い闘気を放つそのラミスの姿と、そのラミスに跪くゲイオスの姿は。周りからは神に祈りを捧げる信者の様に映り、その神々しい闘気を放つラミス姫の姿は、まさに天上から舞い降りた女神の様に映っていた。




