第128話 「勝たせて頂きますわ」
やはり速い、速すぎる。
まだ今のラミスの実力では、一度でも回避出来れば良い方なのだろう。
ゲイオスとの、圧倒的な実力の違いをラミスは痛感していた。
全く捉える事が出来ない剣速、反応すら出来無い高速の攻撃の数々を前にして。
……その絶望的な程の実力差に、ラミスは今の自分の実力ではまだ勝つ事が出来ないと理解した。
今の未熟な自分では、まだゲイオスには勝てないと……。
──だが、負ける訳にはいかない!何としても、勝たなければならない!!
強くならなくては……。誰よりも、そしてあの豚王によりも強く。
この程度の相手に負ける訳にはいかないだ!
「そろそろ、勝たせて頂きますわよ!」
──バリッバリバリ!!
ラミス姫の体の周りに雷が走り、木々がざわめき始め石や木の葉が舞い上がる。
「……ほう、面白い曲芸だな。」
「…………。」
『42154回目』
ゲイオスの持つ剣が、妖しい光を放つ。
「……行くぞ。」
「参りますわよ。」
先手必勝、ラミスは一か八かの賭けに出る。ラミス一気にゲイオスに駆け寄り、その拳をゲイオスに叩きつける。
──しかし。
……だが遅い。
ゲイオスの放つ高速の剣は、既にラミスの首を捉えていた。
……速い、このままでは決して勝てない。そして何よりもおかしいのだ、ラミスは戦う度にゲイオスの剣速が増している様な感覚に陥っていた。だが、これはゲイオスがただ単に本来の実力を隠していたに過ぎない。
ゲイオスの放つ高速の剣に全く反応が出来ず、ラミスは自らの無力さを嘆いた。
……やはりゲイオスが強過ぎる、そして速過ぎる。
これが人が到達出来る、武の境地なのだろうか?ゲイオスの圧倒的強さを前にして、ラミスの心は打ち負かされ悲鳴の声を上げていた。
ラミス目にはは、このゲイオスがまるで絶対者の様に映り恐怖を感じ畏怖していた。
……いや違う、このゲイオスは絶対的な強者では無い。姉リンやクリストフ将軍は、このゲイオスよりまだ遥か高みに居るのだ。
このゲイオスは、ラミス姫が恐れる様な絶対的な強者では無い。このゲイオスは踏み台でしか無い、ラミスにとっては唯一つの"通過点"に過ぎないのだ。
──ザシュ。
ラミスの首にゲイオスの放つ高速の剣がめり込み、ラミスは苦痛に顔を歪める。
……遅い、何故自分の体はここまで遅いのだろうか?
……勝てない、やはりこのゲイオスという男に勝つ事は不可能なのだろうか?
ラミスは自らの弱さを、呪わずにはいられなかった。




