第121話 「神の一手を、今こそ打つのですわ」
「なっ!?」
ヘルニア兵達は、ラミスのその姿に怯え恐怖する。
「ひぃ……。」
大量のヘルニア兵士の屍の山を築き、その上に座りにっこりと微笑む姫のその姿は。ヘルニア兵士達には、さぞ悪魔の様に映っただろう。
にっこりですわ。……うふふ。
──ゾッ!
ヘルニア兵士達は皆、その姫の笑顔に背筋を凍らせた。
だが、流石にもうユリフィス少年に隠し通すのは無理がある。そろそろユリフィス少年も、気が付いている頃に違いない。
「あれー?僕、こんなに倒したかなぁ。」
……あっ、まだ大丈夫そうです。行けますよ、ラミス姫様。
しかしラミス姫は公国の叡智と呼ばれ、神算鬼謀が扱える稀代の天才姫君なのである。ユリフィス少年に気が付かれる事無く、この場を乗り切る策は既にラミスの頭の中に確立していた。その天才過ぎる神の一手が、至高の閃きが、いや究極にして最大の策略が今ラミスの手から解き放たれる。
「……私はおつむには、少々自信がありましてよ。」
苦戦しているユリフィス少年を救う、神の一手とは?
……いや、既にヘルニア兵士達は戦意を喪失しユリフィス少年も頭に"?"マークが浮かんでいるのはナイショである。
ラミスは天高く高らかに手を掲げ、天を穿つが如く蒼天に指を指す。
「あっ、あんな所にドラゴンさんがっ!ドラゴンさんが、お散歩をしていますわっ!!」
「えっ?」
ラミスの言葉に釣られ空を確認し、お散歩中のドラゴンを探すユリフィス少年。
──今よ!!
ラミスの目が光り、鋭い光を放つ。
──バリッ、バリバリバリ!!
ラミスは体に雷を纏い、恐ろしい速度で次々にヘルニア兵をなぎ倒していく。
ユリフィス少年が空を確認し、お散歩中のドラゴンを探すその一、二秒の間。ラミスは百数人いるヘルニア兵士を全て倒していた。
「おかしいなー?ラミスおねーさん、ドラゴンなんていませんよ?……あれっ!?」
いつの間にかヘルニア兵士が全て倒れているのに驚き、不思議そうに首を傾げるユリフィス少年。
「あれ?どうして、ヘルニア兵が全員倒れているんだろ?」
「さあ、こっちですわよユリフィス君。急ぎますわよ。」
「えっ、えっ?」
ラミスはユリフィスの手を引き、城の中へと入って行った。
「きっとユリフィス君と戦っていて、疲れて倒れたのでしょう。ヘルニア兵士の皆様は、少々お腰が弱いですから。……ふふっ。」
「そうなのかなー?」
「きっと、そうですわ。」
そう、何故かヘルニア帝国の兵士達は腰に持病を抱えているのだ。……何故だろう、不思議だなー。
そのままユリフィス少年には、ロクサーヌや城の人達を連れてミルフィーの居る東の山まで向かってもらう。
「ふぅ、さて……。」
──ズシン!
「ブヒィ!」
そして姫の前に現れる、そびえ立つ山の如く巨大な怪物"豚"。
──トントン。
「そろそろ、貴方との決着を着けないといけませんわね。」
そう言いながら、軽く準備体操をするラミス姫様。
「さあ御出なさいな豚さん。……遊んであげますわ。」




