第119話 「持って行かれる所でしたわ」
その時、突如ラミスの背中が眩い光を放ちラミスの体を包み込んで行く。
「……うぁ。」
──パァッ。
「おねーさん、おねーさん。ラミスおねーさん、しっかり!」
遠い世界へと旅立ち戻って来ないラミスを心配し、ラミスの体をがくがくと揺さぶるユリフィス少年。
「……ほにゃ。」
────────。
「……はっ、私は一体?」
何とか辛うじて戻って来る事に成功し、そのあまりにもの恐ろしさに背筋がぞっと凍るラミス姫様。
……危なかった。もう後一歩、進んでいたら決して戻る事は出来なかっただろう。あれはもはや、神などと生易しく呼べる代物では無い。悪魔の一種なのか、それとも又別の何か……。
「……はぁ、はぁ。」
その恐ろしさを思い出し、息を切らしながらラミスは地面に手を突いてこう呟いた。
「持っていかれ……。」
「……る所でしたわ。」
危うく一命を取り留めるラミス姫様であった。
……うん、何これ。私達は一体何を見せられていたんだ?
ラミスがふと周りを確認すると、廊下の兵士ことゲイオルグが倒れている事に気が付いた。
「ユリフィス君、貴方あのゲイオルグを倒したんですの?」
「……えへへへへー、凄いでしょ。」
あの強敵だった、ゲイオルグを……。
ラミスは、あの長い長いゲイオルグとの死闘の数々を思い出していた。涙を流し、苦しみに耐え戦い抜いたあの戦いの日々を。ラミスがこのゲイオルグに勝つまでに要した回数は、九千回以上にも及んでいたのだから。
ラミスはあんなにも小さかったユリフィス君が、いつの間にかこんなにも強くなっていた事に驚き、またその成長を嬉しく思った。
──ザシュ!
廊下を出た所に居る四人のヘルニア兵士、それもユリフィスは難なく倒していく。
「カッコいいわよー、ユリフィスくーん。」
──びょんぴょん。
跳び跳ねて、踊りくねりながら応援するラミス姫様。
「えへへへへ、照れるなぁ。」
照れながら笑っているユリフィス少年だが、城の外へ出るとその表情は一辺して曇りをみせる。
「……うっ。」
ユリフィス少年はこの公国の惨状に酷く驚き、そして落ち込み。……涙を流していた。
「酷い……。こんなっ、許せない!僕は絶対にヘルニア帝国を許さないぞ!」
……怒りと悲しみに震える、心優しいユリフィス少年。
──ほろり。
こんなにも優しく、そして強く育ってくれたユリフィス少年に、ほろりと涙を流すラミス姫様。
そしてラミスは、優しく少年の肩をそっと抱きしめる。
「……ほんと、いい子に育ったわね。」
「ヒャッハー!!」
しんみりしているラミス達二人に。突然、いや当然襲ってくるヘルニア兵士達。ラミスとユリフィスは何時もの様に、大勢のヘルニア兵達に囲まれる。
……ぐっ。
涙を拭き、ユリフィス少年は剣を構えラミスを守る為に立ち上がる。
「ラミスおねーさんは、必ず僕が守ってみせる。さあ、掛かって来いヘルニア兵達!!」




