第118話 「今夜は、腐ァーリーですわ」
……無だった。
ラミスはその何も無い空間の中を、たださ迷っていた。ここは、宇宙なのだろうか?
真っ暗闇の中、遥か彼方に数多の星の輝きが見える。眩しい程の光が、ラミスを照らす。
「ここは……!?私は、また死んでしまったの?」
……心地好かった。今まで感じた事の無い心地好さの中、ラミスはその世界の中をたださ迷っていた。
何時までも、何時までも……。
ふとラミスが気が付くと、ラミスの目の前に山程ある大きな黄金の扉が現れた。
世界の真理、その理。世界の真実。その真理の扉が、今開かれる。
──ギィィィィ。
……神。
この時、ラミスは唐突に理解した。
──これは、"神"なのだと。
神は、ラミスに優しく語りかける。
「ラミスよ……。ラミス、よく聞きなさい。私は貴女がここに来るのを、ずっと待っていました。」
……えっ、神様が?
「私が来るのを待っていた?貴女は一体!?」
「私は神。腐を司る神、BLの女神────。」
「こほん、間違えました。」
……んっんーっ。
「私はこの世界を統べる、十二神の一人。愛と美を司る神、慈愛の女神コナッタです。」
……コナッタ?
そう言えば何処と無く、ナコッタお姉様に似ている様な……。
「違います。私は貴女のお姉さんとは、全く関係ありません。」
……私は、何も言っていませんわよ?女神様。
当然ではあるが、この世界に"腐"と言う概念など存在しない。いや、本来それは有ってはならない存在と言える。
ラミスにとって"G"とは。いやこの世界にとって"G"とは、忌み嫌われるべき存在であり、全世界共通の敵なのだ。
……しかし。
──だが、しかし!!
人類とは、常に進化を遂げその性質を大きく変えていく生き物である。
ラミスは、その人類の進化の新たなる境地に足を踏み入れてしまったのである。
神の領域へと……。
決して足を踏み入れてはならない、神の領域へと。
ラミスはその禁断の扉を、開いてしまったのだ。
……真実の扉を。
そして愛の女神は、ラミスににっこりと悪魔の様に微笑みかける。
「ラミスよ、貴女にこれを授けましょう。」
そう言いながら、愛の女神はラミスに一冊の薄い本を手渡す。
「女神様、これは一体!?」
女神は穏やかに微笑む。
「これは聖書です、貴女は選ばれたのです。この長い長い二千年と言う時の間、私は貴女が来るのをずっと待っていました。さあ、ラミスよ。この聖書を手に取り、迷える子羊達を導き正しい道を示すのです。」
……ラミスは抗え無かった。
背中の神々が、悲鳴を上げる様にラミスに告げていた。
その書物は危険であると、それは一種の特級呪物なのだと。
……そう背中に宿る神が、ラミスに告げていた。
ラミスがその特級呪物を手にした時、この世界の理、秩序、法則。その全てが乱れ、またラミス自信も決して無事では済まされないだろう。
ラミスの、その魂も心も思い出も皆……。
その全てを持って行かれ、ラミスは還って来れなくなるだろう。
……しかし。
ラミスは、それに抗う事が出来なかった。背中に宿る神が静止しても、ラミスのその衝動を止める事など出来なかった。
だが、これは果たして本当に女神なのだろうか?
ラミスには、その女神の姿が恐ろしいメデューサの様に映っていた。
「……ああ。」
そして、ラミスはその書の魔力に抗えずその書物を手に……。




