第117話 「危険が危ないのですわ」
ユリフィス。
ユリフィスは侯爵家の次男で、ラミスとは旧知の仲になる。……侯爵家。つまり"剣聖"レティシア将軍の弟である。その実力もまた優れており、次期将軍候補として有力視されている人物でもあった。
その強さから若干十四才で戦場へと赴き、数々のヘルニア兵を倒してきた実力者で。その強さは、"剣豪"の称号を持つ五人の隊長に次ぐ強さを誇り、一般兵の中では間違い無く最強と言われていた。
所属はグレミオ隊。
ナコッタ姫を救出し退却する途中、落馬してヘルニア兵に囲まれユリフィスは命を落としてしまう。しかしユリフィス一人を倒すのに、二百人近くのヘルニア兵が命を落としたのだと言う。
ユリフィス少年は、そこまでの猛者だった。
……ちなみに、ユミナ嬢はゴライアス隊に所属している。
と言う事で、少し安心して見守るラミス姫様。
「……へへっ。」
ユリフィス少年は剣を抜き、ゲイオルグとの対決に挑む。
──ガキィン。
ゲイオルグは、そのユリフィスの剣を辛うじて防ぐ。
「……ぐっ。」
──ガキィン、ガキィン!
ユリフィス少年の素早い攻撃に、ゲイオルグは防戦一方へと追い込まれていった。
「やりますわね、ユリフィス君。」
手を上げ、踊りながらユリフィス少年を応援するラミス姫様。
「いいですわー、その調子ですわよー♪」
きゃっきゃっ、応援するラミス。
なのだが……。
…………。
何か、とても大事な事を忘れている気がするラミス姫様。
……はて?
「……何か。」
ふと、ラミスの頭にゲイオルグの言葉が過る。
────────。
『俺は、女には興味が無いんだよ!!』
──!?
……不味い。
不味い、不味い……。
ラミスは、慌ててユリフィス少年の安否を確認する。
ゲイオルグは、そのゲイオルグと言う男は……。
そう、危険なのである。何かとは言わないが、それはそれは大層危険な男なのである。
この世界では……。"G"と言う存在は、全ての世界共通で人類全ての怨敵なのである。
「ユリフィス君!!」
ユリフィス君の身が危ない。侯爵家と言う事もあり、その整った顔立ちから数多の婦女子や令嬢から大人気なユリフィス少年。そんなユリフィス君を、ましてや"G"の名を持つ一族の前に出すなんて自殺行為に等しい。
「駄目よっ、ユリフィス君。その男は危険よっ!?その男は危険な、は────。」
ラミスは危機を感じ、叫びながらユリフィスに向かって手を伸ばす……。
──バチーン!
この時。決して覆る事の無い筈の、世界と言う概念が崩壊する。
──ガシャーン!
……概念が。
世界の理、その全てが音を立てて崩壊を始める。
……世界と言う名の、法則が乱れたのである。
そして世界は虚無へと還って行った。




