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異世界還りのおっさんは終末世界で無双する【漫画版5巻6/25発売!!】  作者: 羽々音色
四章

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百三十一話


翌朝となっても雨は止まず、しばらくは空の様子を窺うこととなった。


ここ数日の出来事で那須川さんも疲れているだろうし、ある意味では丁度よかったのかもしれない。


……彼が、昨夜語った話。


国の上層部が面倒ごとを誰かに押し付け逃げるなど、異世界(むこう)でもよく聞いた話だ。

そもそも俺たち勇者パーティー自体が、魔王を倒すという厄介ごとを押し付けられた者達と言えなくもなかったからな。


しかしこの日本という国で、それが行われたことに俺は憤りを感じざるを得なかった。

まさか初期の対応を間違えた挙句に、その責任を放棄して逃げ出すとは。


海外では那須川さんの言ったような七面倒くさい発砲許可など軍にはないらしい。

それならば、他の国ではゾンビパンデミックがある程度抑えられている可能性も十分にあるように思われる。

人口密度も、日本と比べたらかなり低い場合が殆どだろうからな。


そうなると政府の一連の行動は、この日本という国を見捨てたということなのかもしれなかった。

海外に逃亡後、ほとぼりが覚めた頃にまた戻ってくるつもりなのだろうか。

何かしらの指揮は執って欲しかったものだが。


それを考えると、那須川さん含め、過去警察署に来た自衛隊員達、彼らには頭の下がる思いだった。

国からなんの指示を受けることもなく、自発的に人命救助を行う彼らは善性の鑑とでもいうべき存在なのかもしれない。


反面、国のトップ連中は、こちらも異世界(むこう)も似たようなものか。


「……おにーさん。お口に、合いませんでしたか?」


食事中皆の輪から少し離れて、手を止めて考えていた俺に、サクラが近づいて来ては不安そうな眼差しを向けてきた。


「ん?あぁ、いや、美味いさ」


言って、スプーンを口へと運ぶ。


この家に昨日設置しておいたツナ缶と米で、調味料と合わせてサクラが飯盒で調理したものだ。

そのまんま、ツナご飯、というらしい。

自炊など殆どしていなかったから、こんな組み合わせで美味いものができるとは思ってもいなかった。


「ほんとですか?人参やキノコでもあれば、もっと上手くできたんですけどね」


「十分だろう。料理、上手なんだな」


「えへ、そうですか?いいお嫁さんになれますかね?」


「まあ、なれるんじゃないか」


「……おにーさんが貰ってくれたりは?」


その冗談に苦笑しながら首をすくめると、サクラは小さく唇を尖らせた。


「……何か、考え事でした?」


「あぁ、何……雨がいつ止むものかと思ってな」


政府のことを彼女らに話す気はない俺は、そう言って先ほどまで考えていたことを誤魔化す。

余計な話で彼女らを無駄に不安がらせる必要もないし、そんなものは自衛隊の判断に任せるのがいいだろう。


取り敢えずは、今は彼女らを無事に駐屯地へと届けることが第一。

それが終わったら、デパートの面々を移動させたりと、やることはたくさんある。

那須川さんの言っていた話は今は気にしても仕方がない、か。


「昨日から結構な雨量ですもんね。止まないと移動もできませんし、早く止むといいですね」


「そうだな……不安か?」


「いえ、別に。おにーさんがいますからね」


俺の問いに、サクラはこともなげにそう答えてにこりと笑った。


彼女のその態度は、あの夜のことがなければただ俺に媚を売っているものと感じていたかも知れない。

そういう意味では、あの気恥ずかしいサクラとの一連のやりとりも、そう無駄なことではなかったのかもなと思う。


「そうか。まあ、幸い食料の類もあったしな。ゆっくりするとしよう」


俺はそう言って最後の一口をスプーンで口に運ぶと、サクラに小さく笑みを返した。


+++++


結局雨は一日中降り続いて、移動を開始したのはさらにその翌日のことだった。


まずは一人で家を出て、ガレージまでの安全を確保する。

もっとも、先日まで遠くで鳴っていた雷のせいなのか知らないが、周囲にゾンビ共の姿は殆ど無かったから数体倒す程度で特にすることも無かったのだが。


家に置いてあった食料も車に運び込み、再びの出発となった。

特にアクシデントが起きなければ、今日中に駐屯地までは着けるかも知れない。


文字通り閑静な住宅街を抜け、裏道を通る。

この道中にも、ゾンビの姿は殆ど見かけなかった。


「……あれ、なんなんですかね」


ふいに、那須川さんがそうぼそりとつぶやく。


訝しげな視線の先を見れば、少し離れた場所で一人ゆらゆらと揺れるゾンビの姿があった。

本来であれば俺たちの乗った車の出す音に視線を向けそうなものだが、そのゾンビはそれに構わず空を見上げ続けていたのだ。


「……さあな。聴覚でもいかれてるんじゃないか」


俺の知るゾンビは、元の人間の体を魔力により無理矢理使っている。

視覚を潰せば音を頼りに追ってくるしかなくなるし、それと同じでやつは音が聞こえないだけだろう。


「なんだか、不気味ですね……」


「まあ、そうだな」


そう軽く返事をして、またゆっくりと駐屯地を目指す。


途中、どうしても通れない道があり、一度大通りに出ることとなった。


「……やつらの数が少し多いな。裏道に戻れそうならすぐに戻ろう」


「はい……」


大してスピードも出していないし、車のガラスが割れるようなこともないだろうからそれほど危険がある訳ではないが、大通りはしょっちゅうゾンビ共と車体が接触を繰り返していた。

ゆっくりと歩くゾンビが行く手を阻み、ごつんと鈍い音を立ててはねられるたびに、皆がしかめ面をしているのがわかる。


周囲にはまた先程見たようなこちらを意に介さないゾンビが何体かいて、流石に違和感を覚えざるを得なかった。

今度は間違いなく、この車はやつらの視界に入っているはずだからだ。


「あの交差点で曲がるとしよ……」


少々嫌な予感がして那須川さんにそう指示を出そうとしたその時、少し先にいる空を見上げていたゾンビの首がぐるりと動いてこちらを見た。


「うおっ……!」


那須川さん、と声を出そうと思った時には遅かった。


運転席にいる彼が、そう驚いた声を出して急にハンドルを切る。

地面に倒れ伏す死体を片輪で踏んだのか、車体がぐらりと一瞬揺れた。


ドン、とすぐさま車体の横に衝撃があって、ピシリと嫌な音が車内に響いた。


「ひっ」


車内の少女達の誰が出したか、小さく漏れた悲鳴も、さっき那須川さんが驚き声を出したことも、目の前で起きたことを考えれば当然のことだ。

俺ですら、こんな事態は想像もしていなかったのだから。


車体に何度も衝撃が走る。

叫ぶような呻き声が外から聞こえ、それに釣られて周囲のゾンビ共が勢いよく集まってきていた。


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黒井さんは、腹黒い?

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