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異世界還りのおっさんは終末世界で無双する【漫画版5巻6/25発売!!】  作者: 羽々音色
四章

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百十四話


俺は駐屯地に自衛隊の姿がなかったことに安堵していた。

内部にゾンビの姿もなく、それはつまり彼らがおそらくは無事であろう、ということについてほっとした部分ももちろんある。

だが正直な話それの大部分は、情けないことだが俺の気持ちがいまだに固まっていないことからだった。


今の俺は、俺の守りたいものの為ならば、この力を利用し全力でそれを行うことを惜しまない。

だがやはり、国のために、知らぬ他人のために、それを行うことをよしとはしたくない。

なによりそれらを行うのであれば、大きな流れのために、俺のその小さな目的を行う機会が奪われるのではないだろうかという不安がある。


見てきた様子を報告するため、一度デパートへと帰った。

明け方前には戻ってこれたにもかかわらず、カエデは酷く心配していたようで、俺の姿を見るなり抱きついてきた。


この力を明かした後でもなおそうしてきたのは、俺がデパートを去ったあの日のことが今でも頭の中に残っているのだろう。

申し訳なく思うその気持ちを示すかのように彼女の頭を撫でれば、カエデは安心したようにその顔を緩ませていた。


「……そっか。それじゃあ、探すのであれば一度候補地を洗う必要があるね。」


「あぁ。一応書店に寄って適当に地図やらを見繕ってきた。」


日が昇り、今は織田さんと会議の最中だ。

内部でパンデミックが起こった駐屯地の近くの別の駐屯地。

そこがダメとなれば自衛隊を探すのなら新たに別の駐屯地へと行く必要がある。


勿論、シュウの父親の考えが正しいのであれば、という条件付きだが。

しかしこれに至っては元自衛隊であった彼よりも内情に詳しい者はここにはいない。


そしてそうするのであれば、その候補となるのはこの周辺よりも人口の少ない地域だ。

人口の多い地域、似たような地域では、昨夜見てきた駐屯地のようになっている可能性は高いだろうからな。


そもそも俺には周辺の駐屯地がどこにあるかすら知らなかったから、遠くに行くのであれば余計にこうして一度織田さんと話し合う必要があった。


「……ねえ、柳木さん。」


「ん?」


アイテムボックスから地図を取り出す俺を、織田さんは苦笑しながら見ていた。

未だその手品めいた現象に慣れていないのだろう、相変わらずなんてめちゃくちゃな、とでも思っているのかもしれない。


かと思えば、すぐに表情を変えると、何故だか少しだけそこに悲哀の含んだ瞳をしながら俺へと声を掛けてくる。


「あー……なんて言えばいいのかな。そう。えっと、柳木さんは、これで本当にいいのかなって。」


「……ん?」


「自衛隊のことさ。話し合いで一度決めたことだけど……でもやっぱり、柳木さん個人としては、本当に彼らと合流してもいいのかなって。言っていたじゃないか、異世界(むこう)で辛い思いをしてきたって。」


「……」


織田さんの哀しげな瞳が俺を射抜く。

本心では未だ迷っていた俺の心の内をまるで見透かされているようだった。

図星を突かれ、それを誤魔化すかのように一つ咳払いをした。


「まあ……何にせよ未来の食料問題は避けては通れない道だしな。」


それも以前何度か話し合った際の答えだ。


食糧事情はしばらくの間は俺が何処かから持ってくれば事足りるが、しかし保存食だけでは遠い未来にいずれ限界が来る。

何にせよ農業やらなにやら、自給自足の生活ができるようにするべきという結論だ。


しかしそう言うのは簡単だが、そんなものをゼロから始めるとなればここにいる俺達だけではどうにも厳しい。

ならばいっそ合流してしまおうかという話になったのだった。


「……正直なところ、柳木さんは僕の意見を尊重してそうしてくれているんだと思ってるんだ。」


ぽつりと織田さんはそうこぼし、さらに言葉を続けた。


「でも、僕のこの、誰かを助けたいという感情は、あの日の罪滅ぼしがしたいなんていう、そんな自分勝手な気持ちが少なからずあるって思っている。そんなもののために、柳木さんの手を煩わせていいものかって、思ったんだよ。」


「……」


「それに、柳木さんがカエデちゃんを連れてきたいと言った時、僕はその時いた避難民を優先して、手伝ってやれないと言った。そんな僕が、柳木さんに知らない人を助けるために動いてくれ、ってことと同義のことをさせてしまっていいものなのかと……」


「……あー、勘違いしないで欲しいんだが。」


織田さんが沈んだ顔で紡ぐ言葉を、俺は遮る。


確かに、自衛隊と合流するとなれば、この力を見せることにはなるだろう。

しかし俺の力の全てをすぐに明かすつもりは今のところはなかった。

合流出来たとして、そこへと辿り着ける理由になる程度の力は見せねばならないだろうがな。


全てを見せたら、この力を頼られることになるのは想像に難くない。

そしてもしそうなったとしても、俺はそこではいそうですかと無償で手助けをするつもりもなかった。


「俺は別に、その織田さんの言う、知らぬ誰かを助ける、なんてことをしたくて自衛隊に会いに行くわけじゃ無い。単にこのデパートにいるみんなのためだ。」


「柳木さん……」


「結果的に誰かを助けることになるかもしれないだろうが、だがそんなのは俺が勝手にやることだ。織田さんが気にするようなことじゃない。」


俺のその言葉を聞いて、織田さんは小さな笑みを向けた。


織田さんからしたら、もしかしたら本心では俺のような力があるのなら、助けてやってくれとでも思っているのかもしれない。

それでも、そう言ってくれているのは俺にとっては少しだけ心が楽になるものだった。


「……しかし、織田さんは相変わらずと言うか何と言うか。」


「うん?」


いや、織田さんの表情からして、きっと彼はただただ俺の言葉に安堵しているだけなのだろう。

そしてそんな織田さんだからこそ、俺は彼の手助けをしたいと思うし、共にいたいとも思う。


「いや、なんでもない……さて、しかしそうなると、今度こそここを数日離れなければならないか。」


どの程度離れた場所まで探しに行くかはまた決めねばなるまいが、何にせよ今日のように日帰りでという距離にはならないだろう。

あまりにも長く離れるのも心配だから、一度に遠くまで行くのも考えものだが、その辺りはこれから話すとしよう。


「……同じような轍は踏まないよ。今度こそ、柳木さんの力を借りずとも、ちゃんとみんなを守って見せる。」


「あぁ、信頼してるさ。」


織田さんの真剣な眼差しを見つめ返して、俺はそう言って微笑んだ。





明日も更新しますー。

展開するまでもう少し待ってくだされorz

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