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第42話 私と将来の事について考えてほしいの

 配信準備が整い、ようやく新しいスタートを切る事が出来ていた。

 後輩の桜田椿(さくらだ/つばき)が以前からやってみたいと言っていた、二次元ライバーとしての活動が今、順調に進んでいる。


 鈴木斗真(すずき/とうま)が用意したイラスト。

 画面上では、そのイラストがアバターとして動いていた。


 黄緑色の髪。エルフの外見に加え、左手には魔法の書を所持しており、アニメに登場しそうなファンタジー系の雰囲気が印象的。


 アバターは、2Dを専門としている会社に依頼して作成してもらったのである。

 比較的安い仕様の為、体の動きが少々ぎこちないものの、椿は現状に満足しているらしい。

 後はお金が溜まり次第、また会社に依頼するとの事だ。


 夕食終わりの時間帯。

 斗真は自宅のリビングのソファに座り、テレビ画面に動画配信サイトを表示させ、二次元ライバーとして活動をしている椿のライブ配信を視聴している最中だった。

 椿が活動を始めてから二週間ほど経過し、登録者数は一〇〇人程度。

 無名の配信者としてはかなり多い方だと思う。


 椿は自分の好きな事について配信しているだけでも楽しいと以前学校で話している時に言っていた。

 斗真も一応登録しており、涼葉も恵美も同様である。


 今は応援したり、ちょっとしたアドバイスをする事しか出来ないが、楽しそうに配信している椿を見守るしかないだろう。


 その日の夜。視聴を終えた斗真は自室へ向かった。

 妹の恵美(えみ)は、この頃、夕食を終えるとすぐに部屋に引きこもって勉強ばかりだ。

 近々、テストがあるらしい。


 妹には頑張ってほしいと思っている。

 だから、物音を立てず、斗真は部屋でスマホを弄った後、就寝するのだった。




「ねえ、お兄ちゃん。これを見て」


 ある日の平日の夕方。

 斗真が自宅リビングのソファに座っている時だった。

 丁度、家に帰って来た妹が、数枚の用紙を見せてきたのだ。


「これだよ。この前のテストなんだけどね。全教科すべてね、八〇点以上だったの!」

「そ、そうなのか。凄いな」


 妹は〇×がつけられたテスト用紙を持っている。


「でしょ。ちなみに、クラスの中では、ベスト一〇に入れたの」

「恵美はいつも夜遅くまで勉強を頑張っていたからな」

「うん。それで、お兄ちゃんに相談なんだけど。今日は出前にしたいの」

「出前。寿司とか?」

「お寿司とかではないんだけど。この前、自宅のポストにピザのチラシが入っていて。どうしても食べたかったの。お祝いに注文してもいい? この特大ピザを」


 恵美がピザのチラシを見せてくる。

 特大サイズのピザであり、期間限定で二割引きになっているらしい。


「そういう事なら、注文するか」

「ありがと。でも、私ね、今金欠で半分は出してほしいの」

「別にいいよ。恵美も頑張った事だしな。それで他の注文は何にする?」


 妹は斗真の隣に座り、一緒にチラシを見て、サイドメニューについて考え始める。


「やっぱり、コーラは絶対だとして、フライドポテトはどうかな?」

「……でも、こっちの方が安くないか? サイドメニューセットってのがおススメって」

「私はフライドポテトが食べたいの。そっちのセット商品の中にはフライドポテトじゃなくて、オニオンリングが入ってるでしょ」

「確かに。恵美は、フライドポテトじゃないとダメか」

「うん。そういう気分だったから」

「わかった。そういう事なら、俺もフライドポテトにするかな。どうせ、フライドポテトを注文するなら、大盛仕様にするか?」

「うん」


 二人はチラシへと視線を戻し、他の商品を選び始めるのだった。




 翌日のことである。

 妹とはピザやフライドポテトを食べて夜を過ごした。

 普通に美味しく、ピザは高級な食材だけで作られており、クオリティが非常に高かったのだ。

 昨日食べ過ぎたせいで、寝て起きても十分にお腹が満たされていた。


 朝食は抜いて学校に登校しており、昼食の時間になった今も、まったく空腹状態にはならなかったのだ。

 今日の午前中。体育の授業が無かった事も相まって、学校終わりの放課後まで飲み物だけでも何とかなりそうな状況である。


「斗真、大丈夫? さっきから何も食べていないけど?」


 昼休みの屋上のベンチに座っている斗真。

 左隣には、神谷涼葉(かみや/すずは)がいる。

 彼女は手作りの弁当を食べていたが、斗真は自販機で購入したペットボトルのジュースだけを飲んでいたのだ。


「俺は大丈夫なんだよ。昨日さ、大きなピザを食べてかなりお腹が満たされてしまって」

「そういう事ね。ピザって美味しいよね」

「そうなんだよな。なんであんなに美味しいんだろうね」

「それは私もわからないけど、やっぱり、ピザにかかっているチーズや特製ソースが良い味を出してるとかかな?」

「ああ、確かに。それはあるかもね」

「でも、食べ過ぎは良くないよね。私も、ピザ屋の前を通るとついつい食べたくなっちゃうの」

「わかる」

「なんか、私もピザを食べたくなってきちゃったかも」

「だったら、今週の休日に食べに行く?」

「いいね。後、水族館にも行かない? 以前から約束していたけど、色々と忙しくて行けてなかったじゃない?」

「確かに。じゃ、水族館で過ごした後、近くにあるピザ屋で食べるってのもありだな」

「いいね。水族館に、ピザ。今週の休日は楽しみ!」


 涼葉は嬉しそうに微笑んでいた。

 やっと、彼女とは恋人らしい事が出来そうだ。


 斗真は涼葉とのデートしている時の事を想像しながら、今週の休日になるのを待ち遠しく感じていた。


「あとね、今後の事なんだけど。斗真と一緒にやってみたい事があるの」

「どんなこと?」

「それはアニメを見たりしたいなって」

「俺と?」

「うん。私、元々二次元ライバーをやっていたでしょ。だから、声を使った仕事に就きたいと思ってるの。だからね、アニメとか映画を見て、表現の幅を広げたいの。私にできる事は声を使った事しかないと思うし。今は放送委員会とかに所属しているわけなんだけど。今後の事を考えるとね、やっぱり、それしかないかなって」


 涼葉は真剣に将来を見据えて、行動に移し始めている。

 斗真も、元々将来の事について考えていたが、沙織さおりとは別れ、もう一度将来について考え直さないといけない時期に差し掛かっていたのだ。


「それに、来月ぐらいから進学するか就職するか決める授業があるじゃない。だからね、私なりに色々と考えていたの。斗真はどうするの? 何か考えていたりする?」

「俺は……まだ、ハッキリとした考えはないけど。そうだな……後で考えてみるよ」


 元々は一般的な仕事に就こうと考えていたが、椿の為にイラストを描いている内に、イラスト関係の事もやってみたいと思うようになっていた。


 今月末までには進学か、就職を決めないといけないのである。

 後で進路は変更できるが、進路指導の先生は早い段階から生徒らの考えを把握しておきたいらしい。


 斗真は真剣に将来の事について悩みながら、右手に持っているジュースを飲むのだった。


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