第41話 新しい未来について
鈴木斗真はスマホのメモ帳アプリに、三人で考えた内容をすべて打ち込んでいた。
後は今日の学校終わりにもう一度相談し、考えを形にしないといけないからだ。
斗真は教室にいて、午後の授業を受けている最中である。
チャイムが鳴り響くと、教室の壇上前に佇んでいた教師は教科書を閉じ、次までに黒板に書かれている問題を解いてきなさいと言っていた。
それから授業終わりの礼を全員でした後、先生は教室から立ち去って行く。
斗真は黒板を消される前に、課題となる内容をノートへ書き写していた。
課題を解く前に、今日は早めに学校を後にする必要性がある。
「斗真、帰宅準備が終わったら、約束通りお願いね」
同じ教室にいる神谷涼葉が軽快な足取りで近くまでやって来た。
斗真は今から準備するからと一言告げ、通学用のリュックを机の上に置くと、課題をその中に入れる。
その後で二人は教室を後にするのだった。
「なぜ、こんな……」
とある男性は机の前の椅子に座っており、スマホを片手にスマホ画面を見ていた。
「そもそも、アイツが俺を裏切ったのが悪いんだ……吉崎が、あんな事をしなければ」
沙織の兄はスマホ画面に向かって怒り任せに呟いていた。
何もかも、吉崎のせいだと何度も口にしているのだ。
「お兄さん、もう経営はしなくてもいいよ」
兄の後ろに佇んでいる亜寿佐沙織は心配そうな声で言う。
「私は……まだ諦めたわけじゃない」
「私、もう十分なの。ネットでも、こんなに批判されて。それに両親からも追い出されたわけでしょ」
「そうだな。だが、私は今までどんな環境でもやって来たんだ。むしろ、無理な出来事にぶつかったって、もう一度再スタートを切ればいい」
二人は体の正面を向けること無く、話をし始める。
「そうだけど。今月中の生活はどうするの? アパート代は?」
「それは気にするな。私は一応投資をやっているんだ。ある程度お金は持っている。数か月間は何とかなるさ。あとはそれまでにもう一度会社を立ち上げれば」
「できるの?」
「ああ……⁉ な、なに⁉ 私が投資していた会社の株が暴落傾向にあるのだが⁉」
「え⁉ それ、どうするの?」
「……まあ、私が何とかする」
「どういう風に?」
「それは……私が手始めにネット上で活動すれば」
「それで収益できそう?」
「……しょうがない。私がバイトでもして……沙織はまだ学生だからな。私が頑張るしかないな」
「お兄さんは、バイトなんてした事ってあったの?」
「……ないな」
「それで大丈夫そう?」
「……あ、ああ……な、なんとかしてみるさ」
兄は冷や汗をかいて、苦笑いを浮かべていた。
沙織からしても、不安でしょうがなかったのだ。
沙織に関しては高校を卒業するまでの間、両親が学費を出してくれる事になっている。
まだ、沙織は何とかなっても、兄の方は色々と限界そうであった。
「それでなんだが……沙織は、これで本当に良かったのか?」
「え……うん」
沙織は頷いていた。
「沙織は別に、実家に居ても問題は無かっただろうに」
「そうなんだけど。私、一度環境をリセットしたかったの……この前まで通っていた学校でも色々あったし。それに、あの学校に通い続けても、ネット上であの噂が拡散されているし、どうにもならならなかったと思うから」
「そうか……沙織。私のせいで、こんなに面倒な経験をさせてしまって……」
兄は振り返り、その場にいる沙織に対して頭を下げていた。
「え、いいよ。そこまでしなくても」
「私のせいで、こんな状況になってるんだ、申し訳ないと思ってね」
「お兄さんは、今まで私の為に頑張って来てくれたんでしょ。それはわかってるわ。私、お兄さんから助けてもらった事も多いし。今度は私が頑張るしかないかなって」
沙織の姿を見るなり、兄は考え込むような表情をして軽く息を吐いていた。
「沙織、これからも迷惑をかけるかもしれないが、私と一緒に行動してくれるか?」
「それは大丈夫。でも、この前のように炎上事態になったら、私も縁を切るかもしれないけどね」
「まあ、普通だったら、今の時点で縁を切らてもおかしくないしな。沙織、また一からやって行こうか」
「うん」
二人は兄妹の間柄として、今後の人生について深く考え始めるのだった。
再スタートを切ろうにも、バイト先が見つからないと何も始まらないのである。
兄がスマホを操作しようとした時、画面が真っ黒になった。
それと同時に、アパートの部屋の電気も消えてしまう。
二人がまともに生活できるまではかなり時間がかかりそうだ。
「椿、こんな感じでいいかな? ちょっと見てほしいんだ」
ある日の休日。
自室にて、勉強机前の椅子に座っている斗真は振り返り、後輩の桜田椿に、パソコン画面を見せる事にした。
「見せてください、先輩!」
斗真、椿、涼葉で、一緒にアバターデザインを考え始めてから二週間が経とうとしていた。
斗真は話し合った内容を元に、パソコンを使ってイラストを描いていたのだ。
画面上に映っているキャラクターは、エルフを元ネタにしたデザインである。
黄緑の髪色に加え、ロングヘアスタイルだ。
可愛らしい外見をしており、二次元アバターのデザインとして申し分のないクオリティだった。
「いい感じです! やっぱり、先輩に頼んで正解だったみたいです」
「ありがと、そういう風に言ってくれて。俺的にも、どうかなって不安はあったんだけどね」
「そんな事はないですから。先輩は自身を持ってください!」
「でも、気に入ってくれてよかったよ」
斗真は二週間かけて、椿が納得できるデザインを完成させたのである。
椿の笑顔を見ると、頑張った甲斐があったと思う。
「今はどんな感じ?」
涼葉が、斗真の部屋の中に入って来た。
ついでに、妹の恵美も一緒である。
妹はスーパーで買ってきたお菓子を袋から出し、大きな皿に広げ、それを部屋の中央にある折り畳みテーブルの上に置いていた。
「さっきね、恵美ちゃんと一緒にスーパーに行って来たんだけど。このミルクティー結構安かったから二つも買ってきちゃった」
「涼葉先輩、先輩が絵を完成させてくれたんです」
「そうなの。良かったじゃない。丁度区切りもいいし。皆で一緒に休憩しよ」
涼葉はテーブル前に座り、一階から持ってきた四つのコップに、ペットボトルのミルクティーを注いでいた。
四人は作業を一旦中断させ、テーブルを囲うように座り、三時ちょっと過ぎのおやつの時間を過ごす。
四人は楽しくお菓子を食べながら、今後の事について話し合ったりするのだった。




