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第40話 二次元ライバーになるための課題

 授業終わりの昼休み。

 鈴木斗真(すずき/とうま)は校舎の屋上にいた。

 神谷涼葉(かみや/すずは)とは、同じベンチに隣同士で座って共に昼食を取っている。


 斗真は購買部でピーナッツ入りのコッペパンを購入してきたわけだが、涼葉は通学途中にあるコンビニで予め昼食を購入してきたらしい。


 昨日は結構忙しかった事もあり、今日は弁当ではないようだ。


 涼葉は三つ入りのサンドイッチを袋から取り出して食べていた。

 そのサンドイッチは卵やレタスなどが入った仕様だ。

 普通に美味しそうに見える。


 斗真は涼葉と一緒に食事をする上で思う事があった。

 もうこの学校には沙織がいないのだと。


 やっと、自身の中で抱えていた大きな障害を取り除く事が出来たと思う。


 沙織(さおり)の事について考えなくてもいいと思うと、物凄く気が楽になるものだ。


 斗真はパンを食べ、飲み物を飲んだ後で、軽く深呼吸をしていた。


「亜寿佐さんって、もう退学したんだよね」


 沙織は手にしていたサンドイッチを口元から離し、斗真の方を向いて話題を振ってきたのだ。


「そうみたいだね」

「斗真もすっきりした感じ?」

「……そうだね。今までの悩みも、沙織に関係している事だったし。実際、すっきりした感じはあるよ」


 斗真は闇を抱えていた顔をしていたが、すぐに気分を切り替え、涼葉には問題はないと返答しておいたのだ。


「そっか。それなら良かったね。斗真と亜寿佐さんは元々幼馴染だったんでしょ? だから、どう思ってるのかなって。ちょっと気になっちゃって。でも、斗真の悩みが消えたのなら、よかったね……ごめんね、変な事を聞いちゃって」

「いいよ」


 斗真は問題ないからと続けて言う。


 沙織とは昔、将来の事を約束した仲だった。

 高校を卒業したら一緒に同じ大学に通ったり、社会人になったら一緒にどんな事をしてみたいか。色々と将来を見据えた深い話もしたものである。


 沙織とは、数週間前までは順調だった。

 ただ、彼女は家庭の都合上、どうしても強引な形で振らないといけない事情があったのだ。

 それを後から知ったとしても、斗真の中では納得ができなかった。


 今さら、そんな事を言われて、もう一度寄りを戻すとか絶対にありえない。


 これからは付き合っている涼葉と一緒に学校生活を過ごして行く予定だ。

 ようやく涼葉とは彼女らしい事が出来そうで、斗真は食事をしながら今後の学校生活について妄想し始めるのだった。


「そう言えば何だけど、斗真って今日時間あったりしない?」


 斗真はパンを右手に持ったまま考え込む。

 今日は特に大きな予定はない。


「もしかして、一緒に遊ぶとか?」

「まあ、そんな感じになると思うんだけどね。私、昨日ね、実は椿から誘われて一緒に過ごしていたの」

「そうだったの? だったら、俺も誘ってくれれば」

「でもね、椿の方からは二人きりで話したいって言われてて」

「そういう事情があったのなら、しょうがないね」


 斗真は、涼葉が昨日何をしていたのか気になっていたが、そのモヤモヤが解消された瞬間だった。


「あとね、椿って二次元ライバーの配信をしたいって言っていたじゃない?」

「確かに、そうだね」

「私。椿から二次元ライバーの先輩として色々と指導してほしいって言われて。今日も椿と一緒に放課後を過ごす予定なんだけど。良かったら、斗真も来てくれないかな?」

「行ってもいいの? 椿はそれでいいって?」

「昨日許可を貰ってるから大丈夫だよ」

「じゃあ、俺も一緒に」

「三人で一緒に遊ぶ事でお願いね、斗真」


 斗真は涼葉と二人きりで過ごしたかったのだが、後輩の椿が協力してほしいと言っているならば、協力してあげたいと思う。


「先輩方、ここにいらしたんですね」


 椿の事について話し合っている時だった。

 屋上へと、桜田椿(さくらだ/つばき)がやって来ていたのだ。

 彼女は屋上の扉近くに佇んで、ベンチにいる二人に対して小さく手を振っていたのである。


「椿! ちょっと、こっちに来て」


 涼葉はベンチに座ったまま、屋上へやって来た椿を呼び寄せていた。


「あのね、今日の件なんだけど。斗真も一緒に協力してくれるって」

「本当ですか。でしたら良かったです」


 椿はベンチに座っている二人の前に立つと、笑顔を見せていた。


「それで、俺は具体的にどんな事をすればいいんだ?」

「先輩って、二次元ライバーのイラストを描くのが上手かったと思うんですけど。私のライバー衣装を一緒に考えてくれませんか?」


 ベンチに座っている斗真の前に立っている椿は、お願いしますと頼み込んできたのだ。


「ライバー衣装を?」

「はい、先輩はセンスがあると思うんです! 昨日、涼葉先輩と一緒に相談していてですね。プロに頼む前に、そのデザインを先輩に相談した方がいいのではという事になりまして」

「そういう事か。でも、俺でいいのか?」

「はい。初めてライブ配信をする際に、先輩がデザインしてくれたアバターなら、上手く行きそうな気がするんです。それに、先輩が決めてくれたデザインと一緒なら、配信中も緊張しなくなると思うので」

「緊張? 普段から緊張しているところは見たこと無いんだけど」

「私、実は結構なあがり症で。だから、あまり多くの人と関わるのが得意じゃないんです」

「そうなのか。それ、知らなかったよ。そういう事情があって、普段から一人で過ごす事が多かったのか?」

「そういう事ですね。今は先輩と会話する機会が増えて、段々と良くなってきましたが。今でも、ちょっと緊張する事はあります。まあ、少人数でしたら普通に話せるんですけどね」

「そっか」


 椿も色々と悩んでいたんだなと思った。


 椿が俺のお陰で悩みを解消できたというなら、それはそれでよかったと思う。


「斗真、今日はよろしく頼むね。私、デザインとか全然上手くなくて。昨日、イラストを描いてみたんだけど」


 涼葉は昨日描いたイラストをスマホの画面越しに見せてきた。


「……まあ、でも、上手く改善すれば何とかなりそうな感じではあるし」

「本当?」

「……ちょっと難しいところもあるけど」


 涼葉はそこまでイラストが上手い方ではない。


 やはり、ここは自分の出番だと内心感じていた。


 椿の為になるのならば、アバターのイラストを描こうと思う。


「椿は、どんなデザインにしたい?」

「そうですね。一応、涼葉先輩と一緒に相談していたんですけど。私、配信内容は本関係にしたいんです。なので、それをメインにしたアバターにしたいとは思ってるんですけど」


 椿は真剣に悩んで、それから自身が考えているイメージを言葉にしていた。


「だったら、自分なりの世界観から決めた方がいいんじゃないかな? 二次元ライバーの配信者って世界観があってさ、それを中心にキャラデザをしてると思うんだよね」

「そうですね……本を生かせる世界観……」


 椿は少々悩み込んでいた。


「だったら、魔界からやって来た子が、地球の本について学ぶって設定でもいいと思うんだけど。それは、どうかな?」


 涼葉は良い案が思い浮かんだと言わんばかりの表情で提案してきたのだ。


「でも、椿って、本の楽しさを伝えるために配信するって事だよね?」

「そ、そうですね」


 椿は頷く。


「本について学ぶという設定だと、椿が思い描いている方向性が違うと思うし。むしろ、教える感じの設定がいいと思うんだよね」

「じゃあ、エルフ的なアバターでもいいんじゃないかな? エルフって物語でも長生きしているキャラが多いし、長く生きてるって設定なら知識が豊富って事で、椿が考えている方向性と一貫性があるような気も」


 涼葉は悩みながらも、そういった発言をしてきたのである。


「そうか、それでもいいかもしれないな」


 斗真は納得していた。

 椿も、それがいいと言って、涼葉の意見を受け入れていたのだ。


「じゃあ、後は、他の設定も色々と決めていこうか」


 斗真は制服のポケットからスマホを取り出すと、画面を指でタップして、メモ帳アプリを起動させる。


 それから三人は、昼休み終わりの予鈴が鳴り響くまで、二次元アバターについて議論を始めるのだった。


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