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第31話 休みの日は予定がかぶりやすい

「涼葉先輩は、やっぱり、配信者だったんですね」

「そ、そうね。でも、秘密ってことにしてくれないかな?」


 神谷涼葉(かみや/すずは)は、後輩の桜田椿(さくらだ/つばき)に対して優しい口調で言った。


「わかりました。涼葉先輩にも色々ありますからね。でしたら、涼葉先輩には配信者としての心得的なことを教えてほしいんですけど。よろしいでしょうか」

「でも、そういう事に関しては、私じゃ為にならないと思うわ」


 鈴木斗真(すずき/とうま)を中心に、二人の間で会話をし始めていたのだ。


「どうしてですか? 昔は活動していたんですよね。些細な事でもよろしいので」

「え、どうしようかな……私、活動期間中にはそんなに有名じゃなかったし」


 涼葉は言葉選びに迷っている感じである。

 彼女的にも、そんなに偉そうに助言できるほどではないとわかっているからこそ、返答に戸惑っていたのだ。


「まあ、後で考えておくわ」

「はい。お願いしますね」


 涼葉は苦笑いをしながらその場を乗り切っていた。


「でも、身近なところに、二次元ライバーの配信者がいて私は嬉しいです。ネット上には結構多いですけど。現実的な話、そういう風な人と殆ど関わる機会が無いですからね。涼葉先輩は、配信活動はもうしないんですか?」

「それについては、今のところは考えていないわ」

「そうなんですね……でも、私的には続けてほしかったんですけどね」


 椿も昔、涼葉の配信を見ていた一人として、もう一度、彼女の輝きを見たいという思いがあるらしい。


「でも、配信するかどうかは、今の問題が解決してから改めて考えるかも」


 涼葉は思わせぶりな発言をした後、難しい顔を見せて軽くため息をはく。


「一応、考えてくれるんですね。もし復活したら一緒に活動したいです。で、でも、殆ど活動的な事をしていない私がそんな提案をしない方がいいですよね。まだ新人ライバーにすらなっていない私が」


 先輩ライバーである涼葉に大きな提案をしてしまった事で、椿は申し訳なさそうに小声になっていた。


「まあ、配信活動するかについては、涼葉さんが決める事だから、椿もそんなに期待しないようにな」

「そうですね……私が強制してもダメですからね。それはわかってます。でも、私、涼葉先輩の配信を見て色々と勉強になっていたので。私が二次元ライバーになろうと決意したきっかけの一つが、涼葉先輩の配信を見ていた事なんです」


 椿はその想いを思いっきり伝えていた。


「そうなんだね。でも、誰かしらに影響を与えることが出来ていたのなら、それはそれでよかったのかも」


 涼葉は少し考え深い顔を一瞬見せていた。

 ライブ配信をしている画面からはコメントしかわからない。

 視聴者の率直な感想を直接聞く機会など殆どないのだ。


 涼葉は新鮮な気分になっており、嬉しそうな笑みを零していた。


「えっと、それでなんだけど。今週の休日の話に戻すんだけど、イベントには俺らも参加していいんだよね」


 涼葉と椿だけの空気感になっていたところを斗真は、話の内容を振り出しに戻す。


「はい。ちなみに先輩は、アバターの件については会社の方にお問い合わせはしたのでしょうか?」

「それについては、涼葉さんがSNSのアカウントに連絡はしたんだけど、全然解決しなくて。だから直接話そうと考えていたんだよ」

「そういう事なんですね。それで、イベントに参加しようと」


 椿は理解した感じに頷いていたのだ。


「イベントに関しては、今週の土曜日になるんですけど。それでもいいでしょうかね?」

「土曜日か……まあ、大丈夫だったかな」

「えっと、ちょっと待って」


 斗真が話し始めたタイミングで、スマホを手にしていた涼葉がそれを食い止めようとする。


「え? 何? 涼葉さん」

「あのね、斗真、ちょっといい?」


 また二人でこっそりと話す。


「今週の土曜日は水族館に行くって約束だったって思って。スマホのスケジュール表を見て、今気づいて」

「あ、そうか、水族館か」

「でも、イベントに参加できるのは、今週中の土曜日だし。その日を逃してしまうと、参加できないのよね」

「そうだね。椿が抽選したのは、土曜日の日程らしいからな」

「そうよね。じゃあ、水族館は後でもいい?」

「その方がいいかもな」


 やり取りを終え、結論を出した二人。

 その後で、斗真が椿に言葉を切り出す。


「なんでもないんだ。まあ、土曜日で大丈夫ってこと」

「なんでもないなら、いいですけど……」


 さっきから斗真と涼葉の間でひっそりと会話していた事もあってか、少々椿から怪しまれてしまっているようだ。

 椿は悩ましい顔を浮かべていた。


「本当に大丈夫だから」

「……でも、協力するなら隠し事は無しでお願いしますね、先輩」


 二人は、椿から念を押されてしまう。

 斗真は椿との長年の付き合いもあり、隠し事は出来ないと察した。


 協力する上で偽りの態度を続けてしまうと、どんなに親しい仲であっても破綻する事もある。


 水族館に行くという話は、斗真が涼葉と付き合っているからであって、別に疚しい理由があるから椿に伝えていないわけではない。


 ただ、そういった事でも、日々の積み重ねがあると不信感に繋がってしまうのだろう。


 斗真は数秒ほど考えた後で隣にいる涼葉の方を確認すると、言ってもいいよという合図を彼女から受け、正式に話す事にしたのだ。


「まあ、簡単に言うと、涼葉と一緒に土曜日に水族館に行く約束をしていたんだ」

「そういう事ですね。でも、二人は付き合っているのでおかしな話でもないですね。でも、私も水族館に行きたいんですけどね。でも、先輩たちの邪魔はしたくないので……私は遠慮しておきますね」


 椿は焦った口調で言った後、斗真から視線を逸らしていたのだ。


 本当は一緒に行きたいという思いもありそうだが、いくら仲の良い間柄であっても譲れない事もある。

 斗真は涼葉と二人きりで行くという考えはブラさないようにした。

 涼葉の為にもだ。


 けれども、今週中のイベント帰りに、椿の為にどこかのお店に立ち寄ってみてもいいという思いはある。

 水族館に行く代わりに、一緒に協力してくれるお礼として、椿にはプレゼントくらいはしてもいいと考えていたのだ。




「大体の事は決まりましたし。これからよろしくお願いしますね、先輩方」


 斗真も、涼葉も頷いて返答していた。


 今週の土曜日は重要な時になりそうだと、斗真は感じている。


「あ、そうだ、後は土曜日の集合場所を決めておいた方がいいですよね。一応、私が当てた抽選は午後からですので、十二時までには集合してほしいんです」

「それで、開催場所って、どこだっけ?」


 斗真は念の為に聞いてみた。


「それはですね。地元の駅から電車で三〇分ほどの場所です。でも、先輩はイベント会場まで行った事はありますか?」


 椿はイベント会場までの地図が表示されたスマホ画面を見せてきたのだ。


「いや……そこには行ったことがないかもな」

「では、集合場所は地元の駅という事でよろしいでしょうかね? その方が待ち合わせ場所としてはわかりやすいですよね?」

「そうだな。その方がいいかもな。俺らのせいで遅刻してもよくないし。涼葉さんもそれいいかな?」


 斗真は左側にいる彼女に聞いてみる。


「私もそれでいいよ」


 三人は校舎裏のベンチに横に並んだまま、今週中のスケジュールについて食事をしながら続けるのであった。


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