第26話 怪しいアカウントの活動?
まだ何も解決していなかった。
以前二次元ライバーとして活動していた涼葉のアバターのようなものを使い、これから勝手に活動しようとしている人がいる。
しかし、それが誰なのかはわかっていない。
素性もわからない人に悪用されるのだけは絶対に食い止めないといけないと思う。
どうにもならない現状に、鈴木斗真は無言でため息をはく。
翌日。教室にいる今、自身の席に座りながら一人でスマホ画面と向き合っていたのだ。
先ほど二時限目が終わり、教室内はクラスメイトらの会話で騒がしくなっていた。
授業疲れで少々眠いが、気分転換に何となくSNSを開いてみる。
昨日の時点で涼葉が斗真のSNSを使い、アカウントへダイレクトメッセージを送信したものの、それに対する返答はなかったのだ。
斗真は、SNSのタイムラインのところを上から下へとスライドさせながら閲覧していた。
特に変わった様子はなく、謎のアカウントに関しても目立った変化もない。
どういった意図で、このアカウントを作成したかは真意不明だが、ネット上では絶対に勘違いしている人の方が多いだろう。
変に拡散されなければいいと思いながらも、フォロワー数は日に日に増え始めているのだ。
あと二週間もすれば、さらにフォロワー数は急激に増えていく事だろう。
面倒だな……。
逆に、何の音沙汰がないってのも怖いよな。
斗真はスマホをスライドし、タイムラインの投稿蘭を見終わった後、再びあのアカウントを開いてみる。
ん?
斗真は、そのアカウントを見て違和感を覚えた。
そう言えば、こんな投稿ってあったっけ……?
そのアカウントには斗真が見たことのない内容が投稿されていたからだ。
……明日、動画配信サイトの方で素性を明らかにします?
――って、もしかして明日から活動を開始するのか?
席に座っている斗真はハッとした。
授業の影響で少し眠くなっていた瞼を擦りながらも、斗真は意識をハッキリとさせ、再び投稿内容を全体的に読んでみる。
現在SNSでは黒色のシルエットでアバターの姿は隠されているが、その素性が明日のライブ配信で判明するということ。
明日になれば、少し状況が変化する可能性は高い。
後ほど今日の昼休みにでも、この事を涼葉に伝えようと思う。
ん?
気が付けば、三時限目を担当する教師が教室の壇上前に立っており、授業の準備をしている。
その先生は影が薄く足音も小さい事からステルスみたいな存在だった。
存在感が無さ過ぎて、今教室にいるクラスメイトの大半が黒板前で作業をしている先生に気づいていないのである。
まだ休み時間であり、普通に騒いでいても問題はないのだが、斗真はスマホの電源を切って、机の横にある通学用のリュックの中にしまう。
授業中に電話が鳴ってしまったら、先生に没収されてしまう可能性があるからだ。
ステルスみたいな先生は比較的温厚なのだが、怒ると怖いと噂で聞いたことがある。
斗真は次の授業の準備を始めるのだった。
「涼葉さん、これを見てほしいんだけど」
「なにかな?」
昼休み時間。
午前の授業が終わるなり、斗真は屋上まで連れ出し、神谷涼葉と隣同士でベンチに座っていた。
「この投稿なんだけど。このアカウントを利用してる人が、二次元ライバーとしての活動を始めるらしいんだ」
斗真は彼女に、SNSのアカウントに投稿された内容を見せた。
「え、本格的に?」
「そんな感じだね。見る限りね」
「……このアバターの正体が明らかになるのは、ライブ配信の時なんだよね」
「この投稿内容を見る限りだと、そういう事になるね」
「でも、私じゃないと人がやるとして、誰がアバターの声を演じるのかな?」
「そうか。ライブ配信するって事は声も必要だよね」
「そうだよ」
「じゃあ、どうなるんだろうね?」
「さあ、わからないわ。それを含めて確認しないとね」
二人で投稿内容を見ながらやり取りをしていた。
「あとは、この配信サイトのアカウントを見つけておかないとね」
斗真はSNSアカウントに表示されていたURLをクリックし、そのライブ配信サイトへ画面を切り替えていた。
斗真は以前から登録していた事で、すんなりとライブ配信専用のアカウントまで到達できたのである。
「斗真、ライブ配信のところに明日の八時半配信予定って表示されてるね」
涼葉は斗真のスマホ画面を指さしている。
ライブ配信に表示されているサムネイル画像の下部分に、投稿時間が表示されているのだ。
「斗真、明日一緒に配信を見ない?」
「一緒に。それでもいいけど。配信が終わるのは多分、夜遅くになるかもしれないし。どちらかの家に泊り込みになるかも。それでもいいの?」
「それでもいいわ。だって重要な事だし、一緒に情報を共有したいじゃない。だから、私の家でもいいし。斗真の家でもいいんだけどね」
「だったら……そう言えば、涼葉さんの家には通信環境ってある?」
昨日。涼葉の家に行った時は、ネットを利用できたのだが、念の為に詳しく聞いてみる事にした。
「あるにはあるんだけど。弱い回線しかないの。だからね、たまに通信が途切れてしまう事があって。以前、ネット上でトラブルがあったから。それで、お母さんとの条件で弱い回線しか用意してもらえなかったの。お母さんは私を危ない目に合わせたくないからだと思うから」
「そうなんだ。じゃあ、俺の家に来た方がいいかもね。俺の家なら自由にネットとか使っても問題はないし。俺の家でいいかな?」
「そうね。斗真の家の方がいいかも。そうするわ」
涼葉もそれで良いといった感じに承諾してくれた。
明日の約束は決まったのである。
「だったら、何か持っていこうかな。斗真の家にお泊りするって事なんだよね! パジャマとか持っていった方がいいかな? 誰かの家にお泊りするのって、小学生以来だから楽しみなの」
左隣に座っている彼女は笑顔で楽し気な口調で早口になっていた。
「お泊り的な感じになるかもね。でも、パジャマくらいなら俺の方で用意するよ」
「ほんと、じゃあ、お願いしようかな」
「まあ、お泊りの件に関しては後でもう少し詳しく話そうか」
「そうだね!」
今は昼休みであり、斗真は午前の授業が終わった瞬間に涼葉を教室から連れ出し、屋上までやって来ていた。
ゆえに、昼食用の準備すら出来ていなかったのだ。
少々お腹も減って来ており、午後からも普通に授業がある事から何かを食べたかった。
「昼食にしたいけど、涼葉さんは弁当を持ってきてるの?」
「今日は何も持ってきていないの。今から一緒に購買部に行かない? 私、購買部で買って食べようと思っていたから」
涼葉は節約したいという考えがあり、普段は購買部では購入しないのだが、今日は斗真と一緒のパンを食べてみたいらしく、弁当などの準備をしてこなかったらしい。
「そういう事ね、だったら一緒に買いに行こうか」
二人はベンチから立ち上がると、校舎一階の購買部へと向かって行くのだった。




