第21話 寄り道していかない?
学校も終わり、放課後。
鈴木斗真は帰宅準備をすると、同じ教室にいる涼葉の元へ向かう事にした。
今日は一緒に帰宅することになっており、神谷涼葉に話しかけた頃には彼女も準備を終えていたのである。
教室内にいる亜寿佐沙織は別の子と会話しており、斗真が涼葉と一緒にいるところは見られていなかった。
沙織と関わると面倒だと思い、斗真は涼葉を急かして教室を後に帰路につく。
今から向かう先は、涼葉の家である。
「そう言えば、涼葉さんの家ってあっちの方?」
学校を後に、街中近くの道を歩いている斗真は遠くの方を指さしていた。
「そうだよ。私の方は街中を通らないといけないの。だからね、結構遠いんだよね」
「大変だね。バスとかはないの?」
「バス通学にしようとも思ったんだけど。丁度いい時間がなくて。だったら歩こうかなって」
「そっか。バスは時間が決まってるし、自分が都合のいいタイミングで利用できないしね」
斗真も、隣を歩いている彼女の意見を聞いて納得するように頷いていた。
「一応、私ね。自転車通学も検討してたんだけどね」
「自転車か。それもいいんじゃない?」
「うん。でもね、移動距離の半分くらいは自転車を押して移動しないといけないの。朝とか、帰宅する時もそうなんだけど、街中を通らないといけないし、人通りが多かったりするからね」
「そっか。色々と大変だね」
「そうなの。冬とかだと雪が降ったりすると、自転車に乗れないじゃない」
「そういう事情もあるか」
「私って部活に入ってないじゃない? だから運動の為に徒歩がいいかなって」
「そっちの方が健康的でいいかもね」
「うん。斗真は自転車とか、バスには乗らないの?」
「俺の方は住宅の多い道を普段から通っているからさ、バスが通ってないんだよね。徒歩でそんなに時間もかからないし、だから歩いて通学してるんだけどね」
「へえ、家から近くていいね」
「涼葉さんはどうして、今通っている高校に入学した感じなの?」
逆に疑問を投げかけてみた。
「私の家からはどの高校も微妙に遠いからね。一番近かったのが、今の高校なの。でも、中学の頃は近かったんだよ」
「そうなの? でも、ここ周辺で中学と言ったら俺が通ってた中学しかないし」
中学の時、斗真は涼葉と一緒に過ごした経験はない。
そもそも、彼女は在籍していなかったはずだ。
「あのね。私、高校に進学すると同時に引っ越してきたの」
「そういう事ね」
「うん。今はお母さんと一緒に、お爺さんとお婆さんの家で住んでるって感じ」
「涼葉さんも色々と大変だね。引っ越してくる時、中学の人と別れるの辛かったと思うけど。大丈夫だった感じ?」
「まあ、そうね。本当は別れたくなかったけど、どうする事もできなかったし。まあ、今は斗真と関われているから別にいいかなって」
本当は大変な事も多いと思うが、涼葉は笑顔で答えてくれていたのだ。
「まあ、この話は一旦終わりにして。私の家に来る前に、どこかに寄って買い物をして行かない? 私の帰り道にはデパートとか飲食店もあるし。飲食店でテイクアウトも可能だよ」
「じゃあ、そうするかな。涼葉さんは何か食べたいモノってある?」
「そうね。じゃあ、ドーナッツにしない? お菓子感覚で食べられるし」
「それいいね」
「ドーナッツ専門店なら、もう少し進んだ先にあるの」
今、斗真と涼葉は街の中心街を歩いている最中だった。
夕方という事もあって、結構人通りが多くなっていたのだ。
涼葉と一緒に歩いていると、ようやく目的となるドーナッツ専門店の看板が見えてきたのである。
「ここだよ。入ろ」
涼葉に右手を掴まれ、斗真は早速入店する事となったのだ。
店内にはイートインスペースもあり、それなりに広い。
入店してすぐのところに、ドーナッツが置かれているショーケースがあった。
三〇種類以上あり、何にしようかと斗真は迷ってしまう。
「斗真は何にする?」
「そうだな。俺はオールドファッションにしようかな」
「これ?」
隣にいる涼葉が、トングでドーナッツを示していた。
それをトングで掴み、トレーの上に置いたのだ。
「そう、それね。あと、イチゴファッションとか」
「端っこのところにピンク色のイチゴチョコがついているドーナッツだよね?」
「そうだよ。涼葉さんも選んだ方がいいよ。俺ばかりが選ぶのもよくないし」
「じゃあ、私はドーナッツポップにしようかな」
斗真はショーケースを全体的に見渡した後、涼葉がショーケースには見当たらない名前のドーナッツを選んでいた事に気づいたのだ。
「ポップって?」
「小さく丸くなったドーナッツってあるじゃない? それが円状の箱のケースに入っているの。それをドーナッツポップっていうの」
「へえ、それか。以前食べた気が」
ずっと前に妹の恵美が、母親との買い物の帰りに買ってきた時があった。
斗真は、その日の事を振り返っていたのだ。
「斗真も食べる? 食べるなら量多めで注文しておくけど」
「それって、このショーケースにはない感じ?」
「ないよ。直接頼まないとね。斗真は、この二つでいい?」
「涼葉さんがドーナッツポップを買ってくれるなら、もういいかな」
「じゃあ、会計に行こ」
斗真は涼葉と一緒に会計カウンターへと向かって行く。
「ご注文は以上でよろしいでしょうか?」
レジ近くにいる女性店員から問われる。
「はい。斗真も大丈夫だよね?」
「そうだね。じゃあ、今日は俺が支払うよ」
「いいよ。私が支払うから」
「でも」
「だったら割り勘って事にしない?」
「それでもいいけど。涼葉さんがそれでいいなら」
二人は財布を確認しながら互いにやり取りを交わしていた。
そして、互いの意見が一致したのである。
「お客様、お支払い方法はお決まりになりましたでしょうか?」
「はい。割り勘でお願いします」
会計は一二〇〇円。
互いに六〇〇円ずつ店員に渡して会計を済ませた。
店員はドーナッツを紙袋の中に入れ、さらビニール袋に、その紙袋と蓋をしたドーナッツポップを入れてくれる。
店員のありがとうございましたの声を聞いて、二人は店内を後にし、再び涼葉の家に向かって歩き出すのだった。




