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第12話 休日も意外とゆっくりとは出来ないものだ…

 本当に、沙織って、付き合ってる相手がいたんだな。


 話では聞いていたが、付き合っている男性と一緒にいるところを街中で目撃するとは思ってもみなかった。


 広場に佇む鈴木斗真(すずき/とうま)は、どうする事も出来ずに、少々俯きがちになっていたのだ。

 今、心臓が締め付けられるように苦しかった。


「お兄ちゃん、大丈夫?」

「気にするな。沙織からは聞いていた事なんだ。別の人と付き合ってるって」


 斗真は今、変に心臓の鼓動が早くなっていた。

 そんな中、隣にいる妹からの問いかけに感情を堪え、返答していたのだ。


 目の前で生じていることが現実だとしても、すぐに受け入れる事は難しい。


 斗真は深呼吸をしてから顔を上げると、先ほどまで視界の先にいた亜寿佐沙織の姿はなくなっていた。

 どこかへ行ったのだろう。


 斗真の心臓の鼓動は次第に収まり始め、冷静に考える事が出来るようになっていた。


「まあ、沙織の件については、後で何とかするよ。恵美もさ、俺と沙織がぎこちない関係だと嫌だろうし」

「うん……私は沙織さんが好きだから。お兄ちゃんと仲が悪いところは見たくないし」

「だよな。あとで時間を見つけて、何とかしておくよ」


 斗真は冷や汗をかきながら、少々自信のない口調で言葉を漏らしていたのだ。




「二人ともお待たせ! ちょっと遅れちゃって」


 遠くの方から駆け足で向かってくる神谷涼葉(かみや/すずは)

 彼女は息を切らしながら、二人の元までやってくるのだ。


 涼葉は、上がブラウスで下がジーパンだった。

 カジュアル寄りの服装で夏を感じさせるようなコーデである。


「遅れてはいないと思うけど」


 斗真は私服のポケットから取り出したスマホ画面を確認する。

 まだ十一時にはなってはいなかった。


「でも、二人とも早いね。それと、そちらが斗真の妹さんかな?」

「そうなんだ。妹の恵美って言うんだけどね」

「恵美ちゃん、よろしくね。私は神谷涼葉っていうの」


 涼葉は、恵美(えみ)の方へ正面を向けて、しっかりと目を見ながら話していた。


「こちらこそよろしくお願いします、神谷さん」


 恵美も最初はぎこちない表情だったが、涼葉の方から話し始めた事で、心に余裕を持って話す事が出来ていたのだ。


「斗真、今からデパートに行くんだよね」


 斗真が少し気まずそうに無言でいると――


「どうかしたの、斗真?」

「いや、何もないんだけど」

「そうかなぁ? 恵美ちゃん、斗真に何かあったのかな?」


 涼葉は斗真ではなく、恵美の方に話しかけていたのだ。

 恵美は斗真の事を配慮したのか、沙織の件については触れること無く、少しボーッとしていただけだと思うよと補足説明をしていた。


「問題ないなら、早速デパートに行こ。デパートってアーケード街通りの出入り口周辺だったよね?」

「はい、そうです。私、その場所まで知ってるので案内しますね」


 恵美は、積極的に涼葉に話しかけていたのだ。

 二人はデパートへと向かって行く最中、斗真も二人の事を追いかけるように歩き始める。


 斗真は気分を切り替えて、今は涼葉との休日を楽しもうと思った。


 土曜日という事もあってか、街中の道には沢山の人が行き交っている。

 三人は人混みをすり抜けるようにして、道を進んで行くのだった。




「私の行きたい場所は、ここなんです」


 デパートの一階部分。

 建物の中に設置された掲示板を見て、恵美がフロアごとに記されている説明文のところを指さしていたのだ。

 デパートの五階部分が衣類売り場となっており、意外と品揃えが良い事で有名だった。


「私も、そこの衣類売り場を利用する事はあるわ。結構、良い品があるんだよね」

「そうなんですよ。質が良くて、ちょっと安く買えるんです。それにデパートのポイントもつきますし」


 涼葉と恵美はすでに意気投合しているようで、斗真の前を歩いている二人は会話しながら先へと進んでいた。


 初対面なのに恵美の対応力は高いなと思う。

 最初は少々緊張していたところがあったのに、今ではすでに打ち解けていたからだ。


 斗真も二人に遅れないように向かって行き、一緒にエレベーターに乗って目的地となる五階フロアへ移動するのだった。




「こんな服もあるんです。夏服には丁度いいと思うんですけど。どうですかね?」

「いいね、恵美ちゃんもセンスがあるかもね」

「そうですかね。でも、神谷さんには及ばないかもしれないです」

「そんな事はないわ」


 斗真は五階のベンチに座っていた。


 涼葉と恵美は洋服エリアにて、一緒に夏服について話し合っていたのだ。


 元々、斗真の服を選ぶことが目的で街中までやって来たのに、今では涼葉と恵美が、実の姉妹のように楽しそうに服を選んでいる。


 これはこれでいいのかもしれない。


 まだ時間はある。

 自分自身の服装については、後からでもいいと考え、その光景をベンチから見守っている事にした。


 斗真は一旦ベンチから立ち上がり、ふとエスカレーターの方へ視線を向けた際に、亜寿佐沙織の姿が見えたのである。


 突然の事態にドキッとして顔を背けた。

 斗真は沙織の視線からは見えない位置まで移動して、その瞬間をしのぎ切ったのだ。


 沙織らは、現在進行形で付き合っている男性と共に上の階へ、エスカレーターで向かって行ったらしい。


 二人が、まさか、このデパートに来るとは想定もしておらず、斗真は冷や汗をかいていたのだ。


「お兄ちゃん、どうしたの? 挙動不審な動きをして」


 涼葉と一緒に、服について話していた恵美が、背を向けている斗真に話しかけてきた。


「あ、いや、なんでもないよ。えっとさ、ちょっとジュースを飲みたくなってさ。二人分も買ってくるよ」


 斗真は二人の方を振り向くと、咄嗟に言い訳みたいな発言をして、その瞬間を乗り切ったのだ。


 このデパートは七階建てである。

 食事できるスペースは地下一階にもあるのだが、最上階である七階にも存在するのだ。


 時間的にも、お昼に近い事から、もしかしたら七階の飲食フロアに行ったのかもしれない。


 あと少ししたら、何かしらの理由をつけて、デパートから立ち去った方がいいだろう。


 斗真は五階の端っこに設置されてある自動販売機まで向かうと、お金を投入し、三人分のジュースを購入するのだった。


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