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厨二病の英雄達~チューニング・ヒーローズ~  作者: 鳳飛鳥


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♯.48 回復魔法と医学と進路相談

「良し! 骨接ぎ出来たよ! 坊や急いで治療だよ!」


 急患として運び込まれて来たのは、元警察官のチューナーで『暗黒貴公子 ジャスティス・ジャスティン』と言うチューニングネームで活動して居る人物だった。


 彼は所謂『吸血鬼』の様な能力(ちから)を得て居り、身体を霧状にしてモンスターの攻撃を回避したり、モンスターに噛み付く事で生命力を奪い自分の傷を回復する等、生存に特化したと言って良い人だ。


 そんな彼が自力回復も出来ない程のダメージを負う程の相手とは一体どれ程の相手だったのだろう?


 搬送して来た今日チームを組んでいたと思しきメンツも、多かれ少なかれ傷を負っては居るが彼ほど切迫した状態の者は居らず、恐らくは彼が大怪我を負った時点で危険と判断し緊急脱出したのでは無かろうか?


 恐らくジャスティン氏はその回避力と自力回復の能力を生かして、今日のチームでは前衛を貼って壁役(タンク)を担っていたんだと思う。


 ただ彼はその能力的に考えて防御力に特化した盾型の壁役では無く、敵からの攻撃を引き付けつつも回避する事でチーム全体が戦い易い様に誘導する『回避盾』と呼ばれるタイプだ。


 故に強敵を相手にした場合、被弾すると耐えられる限界を一撃で超えてしまい、こう言う事にもなり得る……と。


 彼の受けた傷は、俺がわかる範囲でも右腕と左足に肋骨数本の骨折、更に全身打撲……と、下手をすれば医務室(ここ)に運び込まれる前に死んでいても不思議は無い重症だった。


 ソレをその場でレントゲンも使わずにサクッと折れた骨のズレを手業だけで直し、俺に回復魔法を掛ける様に指示を出したお医者の先生に従って能力を行使する。


 俺の回復魔法は本人の持つ生命力とでも言うべき物を活性化させる事で、自然治癒力を不自然と言えるレベルまで引き上げ、一気に治療する……と言うメカニズムらしく、骨折してる状態でそのまま掛けると変な形に固まってしまう物らしい。


 なのでダンジョン内で直ぐに治療しなければヤバいなんて状況でも、骨折以上の怪我には俺個人の判断ではなるべく使わない様にと指導されて居る。


「……効果確認、良し呼吸と脈拍も安定して来た。やっぱり回復魔法ってのは本当に反則だねぇ。事故でこう成って病院へ運ばれてきたなら緊急手術をしても助かるかどうか五分って所だよ?」


 取り付けられてた簡易検査装置の数値を見て、安堵のため息を吐きながら先生がそんな言葉を口にした。


 彼女は長年千戸玉市内の国立病院で救急救命に携わって来た医師で、定年後も非常勤として救急医療を続けて来た女傑と言っても良い様な人物である。


 彼女がこの防衛隊千薔薇木支部の医務室を預かる様に成ったのは、回復魔法と言う救急救命の常識を覆すかも知れない新たな治療法を目の前で研究したかったから……らしい。


「いやいや、先生が居るから俺みたいな『ハズレ回復魔法』がお役に立ててるんですよ。俺だけじゃぁ助けようとしても変な形に固まって障碍残るのがオチですしね」


 そんな医療に恋し医術と結婚した様な医者の老婆に助けられたチューナーは、両手両足の指を全て足しても数え切れない程で、マジでこの人が居なかったらこの支部だけで何人死んでるかも分からないと言うのが実情だそうだ。


 とは言え、彼女の様な名医が全ての支部に居る訳も無く、他の支部では俺の様な治癒力向上型は回復魔法使いの中ではハズレ扱いで、時間巻き戻し型や魂からの復元型と言った他の形式の回復魔法使いが重宝されて居るらしい。


「何もかんも魔法任せで治せるなら世話ないわ。実際、あんたらチューナー以外の(もん)に回復魔法掛けても微々たる効果しか出ない現状じゃぁ、外での医療で応用する訳にも行かないしねぇ」


 先生的には俺の様な魔法使いを活かす腕が無い医師が悪い……と先日断言して居た。


 表立ってそんな事を言えば角が立つのは間違いないが、救急救命の最前線に立ち続け若い頃には某NGOにボランティア医師として参加し、災害被災地や戦場でも命を救い続けた彼女にはソレを言う資格が有るのかも知れない。


「にしても……あんたも折角こう言う能力を手に入れたんだから、ソレを活かせる様に勉強しても良いんじゃ無いかい? 流石に医者に成れとまでは言わけれど、それでも人体の構造をきっちり頭に叩き込んでおくだけでも回復魔法の効果は大分変わるって聞くよ?」


 ……俺自身がチューナーとして活動する様に成ってその収入の多さは理解出来たし、兄貴を無事助ける事が出来たら、兄貴の言う通り大学に進学したいと思うが、その際に進むのは医学では無くやっぱり宗教学を学びたい。


「大学に行くにせよ、医学部は流石に難しいんじゃ無いですかね? いやウチの高校から医大行くのは毎年一定数は居ますけどね」


 一応、県内では有数の進学校と言う事には成っては居るが、流石に都内の進学校と比べりゃ進学先の平均偏差値は数段落ちるし、そんな中でも俺はトップクラスの学力を持っていると言う訳でもない。


 特に俺は文系には相応に強い自信が有るが、理数系は得意とは言い難い……流石に赤点取る程じゃぁ無いが。


「なにも現役で合格する必要なんざぁ無いんだよ。チューナーじゃぁ無くて討伐者だけれども、ほらあんたの地元の狸寺の息子なんか仏教大出て坊主の資格とってから、もう一回今度は獣医学部行って獣医の免許取ったって聞いてるよ」


 あー、俺が未だ本当に小さかった頃には確か未だ狸寺に動物病院は併設されてなかったんだったか?


 先生の言う事が本当なら、若和尚さんはわざわざ二回大学行ってる訳か……しかも獣医学部って確か医学部と同じく六年制の筈だから、合わせて十年大学生してたのか。


「いやー、流石に十年も大学生する余裕はウチには無いですよ……」


 恐らくは一旦、目的の大学に進学した後、在学中に医大を受けれる様に勉強しろって事なんだろうが……流石に十年つまりは最短二十八歳まで大学生するのはなぁ。


「何言ってるんだい。アンタここでこうして治療してるだけでも、学費も生活費も十分稼げるだろうよ。ソレに加えてダンジョン内での討伐で貰える金を無駄遣いせず貯金しときゃ十分通えるだけの額に成るさ」


 言われてみればたしかに討伐報酬は勿論の事、こうして回復要員として待機して居る間も、少なくない時給が支払われる上に、実際に怪我人が出て魔法で治療すればその分も更にドンと報酬が出る。


 それらをきっちり貯金した上で、大学進学後は討伐に参加せず回復の為にシフトを入れ続けるだけでも、下手にバイトをするよりはずっと稼げるのは間違いない。


 ……確かにその方法なら兄貴に負担を押し付ける事無く自分のやりたい学問も学べるし、更に卒業後の進路もより安定した物を目指せるかも知れないな。


 なんせ宗教学は学びたいとは思うが、宗教学科を卒業してソレを活かす事の出来る職業って思い浮かばないもんなぁ。


 いや研究者にでも成れれば良いのかもしれないが、研究者って余程大きな成果を出せなけりゃ、そうそう儲かる物じゃぁ無いと言う話も聞いた事が有る。


 チューナーとしての能力で収入を得つつ、儲からない研究を続けると言う手も有るだろうが、宗教学は飽く迄も趣味や興味で有ってソレで食って行こうとまでは思わないんだよな。


 でも、医者になりたいのかと言えば、別にそ~言う訳でも無いし……。


「まぁやはまだ若いんだし、さっき言った様に二回大学行くって方法なら少なくとも五年は考える期間有るんだ、気長に考えりゃ良いのサ。ただし……恋と結婚と子育ては若いウチにやっておくんだよ。アタシみたいに仕事と結婚したなんて人生にしたくなけりゃね」


 そんな話をしながらも先生は、治療や検査の手を止める事は無く、ジャスティス・ジャスティンさんは無事に回復したのだった。

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