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厨二病の英雄達~チューニング・ヒーローズ~  作者: 鳳飛鳥


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♯.30 武の境地と刃の在り方

 ……なんでコイツはこんな場所に踏み込んでも平気な面で会話してられるんだろう? 俺はほんの少しだけラスカルの弟が怖く成った。


 教会の地下室に満ちた妖気は昨日入った寺の蔵とは全く質が違う物で、アレはただそこに溜まっていたと言うだけの物で、こちらは完全に害意を持ってこちらを見ている様な剣呑な物なのだ。


 和尚さんが言っていた様にラスカルの弟に憑いているモノは、俺が宿した『碧紅(あおべに)國守(くにもり)』と比べて二段も三段も格上の存在で、無意識にそれと比べるからこそこの殺気に似た物すらも『取るに足らない物』と認識して居るのかもしれない。


 とは言え危険を察知する感覚と言うのは戦いに身を置く以上は、身に着けておかねば成らない技能の一つだろう。


 俺はその辺をガキの頃に通った道場で大先生や先生から、殺気混じりの剣気を浴びせかけられた事で身につけることが出来たし、他の選手と比べてソレが上手かったからこそ小学五年からの十二年間公式戦無敗と言うトンデモ記録を作れたのだ。


 いや技術に依る所も勿論多分に有る、俺だって『遠山(えんざん)目付(めつけ)』と呼ばれる相手の一部分では無く全体像を捉える物の見方は当然やっている。


 しかしソレだけでは着物や防具で隠された細かな筋肉の動きまで察する事は出来ないし、『動きの起こり』を見切っても狙いまで完全に読み切る様な真似は流石に出来やしない。


 けれども殺気とまで行かずとも、打ち気や剣気とでも言うべき物を感じ取る事が出来たならば、遠山の目付と合わせれば相手の攻撃を受けたり躱したりするのは然程難しい話では無く成るのだ。


 多分、その辺の感覚を理解出来ていたのは、同じ道場で剣を学んだ奴等の中でもラスカルだけだったんじゃねぇかな?


 勿論、その辺の学校部活で学べる様な境地じゃねぇし、俺が無敗神話築けたのはある意味では当然の事だったのかも知れないと、超常の世界に触れた今に成って思う……小中高大と何度も試合して来た全国の皆、県代表の癖にどちゃくそ弱いとか思ってスマン。


「……君が危険過ぎる物に手を出す様で有れば流石に止めるが、そこまでの物で無ければ世界を守る為に使われるのだ、主も御目溢しをしてくれるであろう。さぁ自分の目で確かめて探すと良い」


 と……そんな事を考えている内にラスカルの弟と神父さんの話は一通り終わった様で、装備を探す為に奥へと進む様だ。


「うわぁお前……よくこんな所を平気で進めるな。奥に進むと敵意がより濃密に刺さって来るじゃねぇか」


 彼らに続いて少し奥へと進んだだけなのだが、そこら中に有る先程の話からすると多分遺体を埋葬する為の棚に置かれた幾つもの木箱から、完全にこれ以上進むなと言わんばかりの敵意が飛んで来る。


 神父さんはここを管理する立ち場だし歴戦の討伐者で有る以上はコレに慣れていて当然なのだが、ここまで濃密な悪意は完全な素人でも『ヤバい雰囲気』として感じ取れるレベルの筈だ。


 残念ながら俺は大型肉食獣の類と遭遇した事が無いのでハッキリとは言えないが、多分ツキノワグマに睨まれてもここまで身の危険を感じる事は無いのでは無かろうか?


 コレは恐らくヒグマとかトラやライオンにオオカミ……その辺と同等かソレ以上のヤバいナマモノと相対した時に感じるレベルなんじゃね?


 基本的に人間と言う生き物は弱い、武術の類を学んでいない者が素手で相手するならば戦闘モードに入った小型犬や家猫が相手でも時に命を奪われる事も有り得る程に弱い。


 人間の強さと言うのは、様々な道具を使いこなす事が出来る器用さと知恵に有るので、純粋な身体能力では他の動物より優れて居る部分の方がレアで有る。


 そんな鈍感な人間でも命の危険を感じるレベルの敵意を向けられてもなおラスカルの弟が平然として居られるのは、奴に憑いたモノが強力だと言う事も有るのだろうが、それと同じくらい彼が武張った者では無いと言う事も有るかも知れない。


 経験が無ければ分からない事と言うのは割と多いしな……とは言え、危険に対するアンテナってのは割と本能に根ざす物で、猛獣を目にして恐怖するとかそー言うのは初体験でも割とわかる物だと思うんだが、コイツが鈍すぎるのかそれともただ単に図太いだけか?


「え? ああ、この背筋がちょっとゾワゾワする感じの事ですか? いや、まぁ確かに不快では有るけれども耐えられない程じゃぁ無いですよ?」


 全く感じて無いと言う訳じゃぁ無い見たいだが、ソレでも怖い物は怖い危ない物は危ないと思えない様では戦いの中で生きるのは難しい筈だ。


「ここの空気は確かに素人でも気圧されるのが普通……ましてや戦いの場を経験した者ならば、そこに混ざる常ならざる者の悪意に尻込みするのが当然です。ただ今回の場合、彼がここを恐れないのはある意味で当然の事なのですよ」


 そんな俺達のやり取りを聞いて、神父さんは軽く肩を竦めてから説明してくれる。


 その話に拠ればチューニングによって強いソウルを憑けた者は、今生の存在から逸脱した向こう側の世界に近い存在に成るらしく、そちら側の存在から受けるプレッシャーに親和性を得るのだと言う。


 つまり昨日も今日もラスカルの弟が妖気とでも言うべき物に対して極めて鈍感とも言える反応を示して居るのは、彼にとってこの気配は同族かソレに近い存在のモノと成っているからと言う事の様だ。


「荒居君の反応は何方かと言えば歴戦の討伐者が示す物に近い、ソレだけ異界のモノとの同化が進んでいないと言う左証とも言える。ただ討伐者ならば兎も角チューナーとして強く成るならばいつかは受け入れねば成らぬモノでも有りましょう」


 成る程な、ラスカルの弟に憑いたモノが強い存在だと言うだけで無く、俺自身が碧紅國守を心のそこから信頼し一体に成ったとは言い難い、ソレが妖気と言う今まで感じた事の無い危険な気配に対して過剰に恐れを抱く原因にも成っている……と。


(無理の無い話です、貴方はこの世界ではただの一般人で鬼切りを生業とする鬼切者ですら無い。しかし剣を嗜む者として人を相手とした闘いの経験は有る。ならば妖気に恐れを抱くのは当然の事)


 不意に頭の中に響いてくる碧紅國守に宿る刀鍛冶や担い手達の残滓とでも言える意識の集合体が発する声。


 本来ならば碧紅國守と一つに成った時点でもっと深く繋がりを持ち、彼等の記憶と思いや技を得るのがチューナーの在り方らしいが、慣らし運転の時点で身体が思った通りに動き過ぎた事に不快感を覚えた俺は無意識に共感(シンクロ)する事に対してブレーキを掛けたのだろう。


「成る程、刀は手の延長と思って使え、心技体そして刀も一つと成る境地こそが剣の道の深奥。新たな愛刀を受け入れ無ければこれ以上の先は無い……と」


 されどソレは簡単な事では無い、俺には俺の……剣道家としての誇り(プライド)が有る、武器としては兎も角、貰い物の技で戦い勝つ事には流石に強い抵抗が有る。


(ソレは剣士として……武道家として当然の思いです。己の修練で学んだ技では無い貰い物の力で勝つくらいならば死んだ方がマシだ、そう考えるのは己の武に矜持を持つ者として当たり前)


 胸の奥に有る碧紅國守から歴代の使い手達も同じ思いを抱いていた事が伝わってくる。


(されど……『武士は犬ともいへ、畜生ともいへ、勝つ事が本にて候』と言う言葉もあります。貴方が私の使い手足る剣士として、武士の本懐を是とするかそれとも剣道家の矜持を取るのかソレを選ぶのは貴方次第です)


 俺が武士かそれとも剣道家か……んなもん悩むまでも無く決まってる、俺は剣道家だ卑怯卑劣を是として勝つ事だけを考える武士では無い、飽く迄もルールの中で己の修練の結果として勝利を目指すスポーツマンシップを抱く武道家(アスリート)だ。


「神父さん……俺にまでお気遣い有難うございます。俺が目指すべき境地が見えました。俺はチューナーとして手っ取り早く強くなる道は選ばない。俺は俺の技とチューナーとしての刃を一つに合わせて勝てる様に更に稽古を積む事にします」


 世界を守る為に超常の力を宿したチューナーとしては、俺の選択は間違っているのかも知れない、けれども俺はチューナーである前に剣道家なのだ。


「よし! 神父さん、このマントとベネチアンマスクかな? このマスクを使わせて貰っても良いですか?」


 こちらのやり取りをよそに装備の物色をし終えたらしいラスカルの弟がそう言って戻ってきたのを見て、俺と神父さんはなんと無く気が抜けて思わず顔を見合わせると溜め息を一つ吐いたのだった。

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