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厨二病の英雄達~チューニング・ヒーローズ~  作者: 鳳飛鳥


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♯.18 チューナーの収入とピーターパン

「サンマ24匹、手羽先6匹、豚足7匹で〆て12万8千円ですね。本来ならコレを頭割りでお支払いするのですが、今回はラブりんさんは先導役を務めて貰いましたので半分を、残りを御二方で山分けする形になります」


 サンマが1匹2千円、手羽先が4千円で豚足は5千円、ただ倒すだけで支払われる討伐報酬の額なのだが、第一層と言うダンジョンの中でも最も難易度の低い場所に出る雑魚でこれ程の金額を出して財政は大丈夫なのだろうか?


 今日俺達がダンジョンで戦っていた時間は2時間と少しに過ぎず、そんな短い時間で俺に支払われるのは3万2千円……忠國警備保障に居た時の月給が諸々引いて手取りで20万行かなかった事を考えれば、報酬面だけ見ればチューナーはかなり美味しい仕事といえる。


「お二人は元組織からの出向では無く、個人事業主扱いですので源泉徴収は致しません、全部使う様な真似はせずに確定申告と納税に備えてちゃんと貯金して下さいね。もしそうした手間が面倒で有れば月払いにしてこちらの税理士に任せるコースもありますよ?」


 ……と、提示された額面にちょっと驚いて居たら、税金の事を考えて使う様に釘を刺された。


 よく公務員の事を『税金泥棒』等と揶揄する言葉を耳にする事が有るが、公務員だって所得税やら住民税やらの税金は免除される様な事は無くきっちり支払っているのだ。


 チューナーは準公務員だし当然そうした税金を支払わなければ成らないのだが、元警察官や元自衛官の者は便宜上元の組織に籍を残したままで出向と言う扱いの為、支払われる金は源泉徴収が為された後の手取りでと言う事に成る。


 対して俺もラスカルの弟も元々の組織なんて無い一般人なので、報酬は満額で支払われるのだが、後から自分で確定申告をして納税しなければ成らないと言う訳だ。


「あと今回の報酬の時点で事業収入を得ていると言う事になりますので、一ヶ月以内に開業届を税務署に提出して下さいね。こちらはチューナーとして活動する上で経費として税金から控除出来る物なんかを記載したパンフレットですから必ず目を通して下さいね」


 つか源泉徴収掛からないって事は年金とか健康保険とかも別途自分で支払わにゃ駄目って事だよな?


 いや年金も保険も前の会社を辞めた時点で国民年金と国保に切り替える手続きをして、失業手当の中からきっちり払って来たし、手当が終わってからは貯蓄を切り崩してでもその辺だけは滞納して居ない。


 元々剣道以外に金の掛かる様な趣味も無かったし、生活に必要な金以外は全部貯金しておいて、支払えと言われた分だけ支払うと言う事が出来ない訳では無いが、税金だの何だのを全部自分で考えて仕払えと言われると正直面倒臭いと言う感覚が先に立つ。


「ラスカルの弟はこんな稼いで大丈夫なのか? 1日目でこんな額面稼ぐならバイト程度の出勤時間に抑えても軽く扶養控除の額面超えてくんぞ? その辺ちゃんと親と相談して来たのか?」


 俺は実家住まいとは言え忠國警備保障に就職した時点で親父の扶養からは外して有るので、稼ぐ分には幾ら稼いでも問題は無いが、コイツは未だ高校生なんだからその辺の事は親とキッチリ相談して決めるべき事だろう、そう思っての言葉だったが……。


「ああ、ウチ両親がもう居なくて俺は兄貴に扶養されてるんですよ。んで兄貴が行方不明のままじゃぁ扶養云々どうしようも無いですからね、先ずはチューナーとして兄貴を助けるのが先、後の事は支部長さんが相談に乗ってくれる事に成ってます」


 おっと!? いや、ラスカルの奴と高校最後に試合した時に「次は大学で」ってな事を言った時、母子家庭だから御袋を助ける為にも高卒で警察官に成ると言って居たのは覚えている。


 しかしその後、母親も亡くなってと言うのは全く知らなかった……つかラスカルが行方不明ってどう言う事だ? アイツが何らかの苦境に立たされている事はさっき支部で会った時点で察しは付いていたが、そーいや未だ詳しい話は聞いて無かった。


「あー。ラスカル君、ちょっと無理し過ぎちゃったんだよねぇ。チューニング・ソウルとのシンクロが行き過ぎた状態になっちゃったんだわ。見つけて捕縛出来ればその状態から戻す方法は有るんだけれども、そ~成ると並のチューナーよりも強くなっちゃうんだ」


 この支部の数少ない回復役(ヒーラー)として活動するラブりんさんは、詳しい事情を知っている様でそんなセリフから、俺にラスカルの奴が置かれた状況を説明してくれた。


 ソレに拠るとラスカルは身の丈に合わない深い階層へと潜った他のチームを救援に向かい、更に下の階層から上がって来たらしき強力なモンスターと遭遇したのだと言う。


 当然、回復役として同行していたラブりんさんもその場に居たのだが、彼女は救援を必要としていた他のチームの者達を逃げる事が可能な最低限の治療を行い、奴と共にその場で大物討伐に当たったらしい。


 けれども支部内で上から3番目の実力を持つラスカル達のチームでも、その大物を打ち倒すのには楽勝と言う訳には行かなかったのだそうだ。


 結果として、ラスカルは自分の限界以上の能力(ちから)を振り絞る為にシンクロを深めて行き、ソレを倒した時には自分とチューニング・ソウルの境界線が曖昧に成ってしまう『ピーターパン現象』と言う状態に陥っていたのである。


「ピーターパン現象自体は古式の能力者達からその存在は知らされていたし、その治療方法も伝授されては居るの。けれどもソレを行うにせよ身柄を拘束してなければどーしょも無いのよね。あの時は私達も一杯一杯で逃げられちゃったのよ。本当にごめんなさいね」


 最後の謝罪は俺では無くラスカルの弟に向けた物だったが……彼女の立場ではそう言うしか無いのは理解出来る、チューナーとして下の階層から上がってきた大物を倒すのは当然の責務で、回復役としてはその場に居る者を誰一人死なせない事が最優先だったのだろう。


 全力以上の力を振り絞らねば成らない程の大物が、万が一にも地上へ上がってくる様な事が有れば、ソレこそ一般人にも被害が出る可能性の有る一大事、ソレを未然に防いだという点ではラスカルも彼女も間違った判断をした訳では無い。


 ただその結果はラスカルの奴を犠牲にした……と、彼の弟から見ればそう受け取られても仕方がない状況なのだから、謝罪の言葉はソレに対する物だろう。


「いえ、兄貴だってこうした事が有る事を覚悟の上でチューニングを受けた筈です。それに未だ取り返しがつかない状況と言う訳じゃぁ無い、俺がチューニングを受けたのは兄貴を見つけて捕まえる為だ。治療さえ受ければ兄貴は戻ってこれるんですから」


 ……本当に強いなコイツ、図太いとかそんなチャチなもんじゃねぇ、普通なら幾ら覚悟してたとしても彼女を責める様な言葉の一つや2つは口を突いて出る物だろう。


 少なくとも俺がコイツの立場なら、後々自分に対して不利益を齎す事に成ると分かっていても、ラブりんさんに辛辣な言葉をぶつけて居たのは間違い無い。


 にも拘わらず今のセリフを口に出来るのは、コイツの精神が並の武道家なんか目じゃ無い程に高潔で力強い物だからだろう。


 剣道に限らず柔道や空手なんかでも『礼に始まり礼に終わる』と厳しく躾けられるのは、武道の技が他者を容易く傷付ける危険な武器に成り得るからで、ソレを収める為の『心の鞘』が無ければ取り返しのつかない過ちを犯す事が多いからだ。


 実際、武道を中途半端に齧った馬鹿がその技を喧嘩やイジメの道具にするなんて事は古今東西枚挙に暇が無い。


 俺達が通った道場ではその辺も含めて徹底的に躾けられているので、馬鹿をやらかす様な者は居ない筈だが、学校の部活動なんかで武道を学ぶ場合、指導者が勝利至上主義に凝り固まりその辺の手を抜く……なんて事は割と有るのだ。


『競技を通じて心身の健全な育成を図る』と言うのが部活動の建前のハズが、学校や指導者の名声の為に歪められた結果が『武道家=高潔な者』と言う図式を崩していると言うのは本当に皮肉な話と言えるだろう。


「俺がチューニング受ける事にしたのは、ラスカルの奴とまた手合わせする為だ。俺が出来る事なら幾らでも手伝ってやる。前の職場や剣道界隈の伝手で情報を集めて見る、ピーターパンとやらがどう言う状態かは知らんが情報が無いって事ぁ無いだろよ」


 防衛隊は自衛隊や警察にも伝手は有る筈だし、警備会社や総合商社なんかに有る剣道実業団にも情報提供を求めれば、監視カメラ映像なんかから不審者情報を見つけるのは不可能では無い筈だ。


 後はその場に駆けつけてあのバカを叩きのめして連れ帰るだけで良い。


「んじゃ取り敢えず急いで現金が必要な訳でも無いし、税理士さんコースで頼んますわ」


 やる事は決まったので、俺はサクッと金の扱いに付いてダンジョンの窓口に座る受付のお姉ちゃんにそう告げるのだった。

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