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厨二病の英雄達~チューニング・ヒーローズ~  作者: 鳳飛鳥


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♯.17 命の奪い合い覚悟を決める時

 千戸玉北ダンジョン第一層最深部……2層へと降りる為のスロープが見える位置まで俺達はラブりんさんの案内で到達していた。


 ここまで来る道中、サンマ以外にも手羽先と呼ばれるダチョウの様な大きな鳥のモンスターや、豚足と名付けられた獰猛な豚のモンスターとも遭遇したが、そのどちらも単体では、俺達の行く手を遮る程の驚異には成らなかったのだ。


 ……正直な所、ただ巨大なだけでその姿が食材にしか見えないサンマを殺めるのに葛藤は全く湧かなかったのだが、手羽先や豚足の様に『食材に成る前の生き物』にしか見えない存在を殺す事に不安は有った。


 しかしそんな事で躊躇して居る余裕を与えてくれる程、異世界のモンスターと言う物は生易しい存在では無かったのだ。


 手羽先も豚足もこちらの存在を認識すると同時に凄まじい勢いで突っ込んで来て、前者はサンマに負けない鋭い嘴を、後者は牙こそ無い物の明らかにぶつかったらヤバい質量を武器に全力で殺しにかかってきたので有る。


 幾らチューニングを受けた結果、身体(からだ)自体が野生動物並に頑丈になっている……と聞かされているとは言え、あんな子供と逸れた母熊の様な殺気マシマシで突っ込んで来たならば戸惑っている間にこっちが殺されるわ。


 なんというか……こう『()らなきゃ殺られる』と言う状況に成れば、生き物を殺す事に対する忌避感なんて簡単にゴミ箱へ投げ捨てられる物なんだなぁ。


「お前が同期で良かったわラスカルの弟、サンマは兎も角として鳥も豚も……あんなもんいきなりぶっ殺せなんてやらされたら、心折れる奴は簡単にポッキリ行くぞ?」


 俺以上に危なげ無く自ら名乗った肩書通りに手羽先も豚足も一刀両断してのけた先輩が、こちらに対して関心した様な顔でそんな言葉を投げ掛けて来るが、俺がやったのはサンマにしたのと同様に突っ込んでくる横っ面をぶん殴って倒しただけで大した事はして居ない。


「そりゃ生き物を殺すって考えれば抵抗が無かった訳じゃぁ無いですけど、殺らなきゃ殺られる状況なら誰でも殺れるんじゃないですか?」


 先輩や兄貴は幾ら剣道を長年やって来て戦うと言う事自体には慣れていると言っても、何方も自衛隊の人達の様に殺す事を前提とした訓練を積んできた訳じゃぁ無い、ならば殺す事に対する躊躇という点では俺と然程変わらない筈だ、そう思って返事をしたのだが……


「いやそうじゃねぇよ。命のやり取りってのはそんな簡単なもんじゃねぇさ。殺気ってのは慣れて無い奴はソレに晒されるだけで精神をカンナで削らる様な負担が有るもんなんだよ。生半可な精神力じゃぁ反撃なんて無理無理無理のカタツムリってなもんだ」


 曰く、先輩や兄貴は剣道の道場で師匠に当る方から『殺気に慣れる稽古』と言うのを受けた事が有るそうで、ソレが無ければ自分に向けられた明確な『殺意』に怯んで普段通りの太刀筋で一刀両断なんて真似は出来なかったそうだ。


「お前さんの名乗ったブレイバー(勇気or勇者)っての、正直名前負けするんじゃねぇかと思ったんだが、その様子じゃぁこれ以上無いくらいにピッタリの名前だったみたいだな」


 ああなるほど、殺す事に対する躊躇じゃぁ無くて『殺される可能性に対する恐怖』の方が普通は先に来るのか。


 考えてみればそーだよな、森の中で熊に出会ったらビビってパニクるのが普通で、冷静に反撃が出来る者の方が稀有だよなぁ……コレもチューニングに依って得た能力(ちから)の賜物なのかな?


(いや、余は其方の精神には一切手を付けては居らぬ。余の契約者として余りにも情けない醜態を晒す様ならば容赦無く乗っ取ってやろうと思ったが、其方の胆力は中々の物ぞ? 誇るがよい)


 しかしソレを否定する言葉が頭の中から……いや魂から聞こえてくる。


 いやいや……今すげー物騒な事言いやがったぞ? 乗っ取るっなんてそんな事が出来るならチューニングって実はめちゃくちゃヤバい技術なんじゃねぇの?


(冗談に決まっておろう。余とて……いや、人間以外の全ての者にとって契約は絶対の縛り、ソレを勝手に覆す様な真似をすれば本体の消滅すら有り得るのだ。其方の魂に結びついたのは封じられし本体から零れ落ちたほんの一欠片、外を見る為の端末に過ぎぬ)


『嘘は人間にだけ許された武器で有る』と言うのは、いつだったか読んだ神話や伝承に関する本に書かれていた文言だったが、どうやらソレはチューニング・ソウルと成る様な異世界の魂にとっても同じ事らしい。


「お二人とも本当に凄いですねぇ。自衛隊で訓練を受けていた私達でも、初めてあの殺気を受けた時には腰が引けたし、小熊猫(シャァシェンマオ)君の言う通り心が折れてアン・チューニングを選んだ人もそれなりに居たんですよ?」


 と、此処まで先導してくれたラブりんさんも、俺達の事を本気で褒めてくれた。


 なお地下迷宮(ダンジョン)と名付けられている通り、この場所に来るまで無数の分岐点が有り、彼女の案内無しで自力で戻る自信は無い、その点は多分ソレは先輩も同じだろう。


 恐らくは下の階層に出現した強力なモンスターが地上に出てくる事が無い様にする為なのだろうが、第1階層の時点でその構造はかなり複雑で既に今自分がどっちの方向を向いているのかすら分からない程である。


 兎にも角にも方向感覚を狂わせる事を第一に考えて設計されて居るのだろう、最低でも自分がどっちを向いているのかが分かれば、ソレを指標にしてマッピングを行うと言う事も出来るがソレを惑わされてしまうと地図が有っても自分の場所がわからなく成るのだ。


 俺が神話や宗教学に興味を持つ切っ掛けと成ったゲームの、旧作を親父の遺品だった古いゲーム機で遊んだ時には、オートマッピング機能の無い疑似3Dダンジョンを方眼紙でマッピングしたりもしたが此処の構造はソレで突破出来る様な物じゃぁ無い。


 ゲームのダンジョンは全ての道が東西南北に対して真っ直ぐで、1歩の長さも固定だからマッピングは慣れれば難しい物じゃぁ無い、けれども人間が防衛と言う名の悪意で作ったここは斜めの道も有れば真っ直ぐに見えたわずかに湾曲した道なんかも有る。


 そうした物を組み合わせ分岐させ、時には渦を巻く様な道を歩ませ、逆に碁盤の目状の場所を特定の順番で通る事でしか抜けれない様にしたり……と、思いつく限り意地の悪い構造になっているのだ。


 ソレを地図の様な物を見る事も無く此処まで普通に案内してくれたラブりんさんは、それが出来る程に繰り返しこの道を歩んで来たと言う事だろう。


「そりゃあんな濃密な殺気を放てる奴は自衛官や警察官でも極々一部だろうよ、俺だって道場の先生達以外じゃぁ知らねぇしな。んでソレを素で流せてるコイツの神経が太すぎるんだよ。うどんどころかきしめん並に太いんじゃねぇか?」


 ……図太いと言うのは割と言われた事が有るが、神経きしめんは初めて言われたなぁ。


 俺が生まれるよりも前に有ったと言うカルト宗教に依るテロ事件のせいも有って、日本人は割と宗教と言う物に対して偏見の目で見る者が多い。


 学校で宗教の話をする様な事は無いが、宗教書なんかを読む宗教ヲタクがイジメの対象にされない訳が無かったのだ。


 でもまぁシカトされる位の事なら実害が有る訳でも無いし、本を読む邪魔に成る訳でも無い……と気にして来なかったし、兄貴同様に比較的体格にも恵まれていた俺は、直接的に暴力を振るわれる様な事は無かった。


 物に手を出された事は有ったが一度やられれば、ソレを避ける為に出来るだけ全ての荷物を持ち歩く様にすれば問題無く過ごせたのだ。


 それにそうした程度の低い嫌がらせをするバカは、中学校を卒業すりゃ別の高校に進学する事で離れられるとも思っていたので耐えられない程では無かった。


 今通ってる高校は比較的偏差値の高い進学校で、馬鹿な真似をやらかせば内申書に響く事を理解している者が大半だし、受験で無理をして落ちこぼれた奴が居ない訳では無いが、そうした者も下手をするとヤバいOBが出てくると言う噂が有るので割と大人しい。


 ……うん、我ながらそう考えて見れば確かに神経太いのかも知れないな。


「まぁ耐えれるなら、きしめんでもごんぶとうどんでも良いんですけど……取り敢えず問題なくここまで来れた時点で今日の課題はクリアですね。下に降りるとゴブリンなんかの人型を相手にする事に成るのでソレは次の課題ですよ」


 動物の命を奪うの次は人型を殺す……か、確かにソレは重い課題だよな、でもソレが出来る様に成らなきゃ兄貴を助ける事は出来ないんだ、だから絶対クリアしてやる! そう覚悟を決めるのだった。

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