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厨二病の英雄達~チューニング・ヒーローズ~  作者: 鳳飛鳥


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♯.16 二つ名を名乗る者達は互いを知る

「お二人ともサンマイジメで肩慣らしも終わったみたいですし、そろそろ次の相手に進んじゃいましょー! 本当に調整したばかりとは思えない即戦力ですよね、私の出番が全く無かったんですから」


 俺とラスカルの弟が更に何匹かのサンマをチリに変えた頃、語尾にハートマークが付きそうな感じの笑顔で回復天使(ヒーリングエンジェル)魔法使い(マジカル)ラブりんさんじゅうにさいが、そんな台詞を投げ掛けて来た。


 俺がガキの頃に通った剣道の道場は古流剣術の流れを汲む道場で、実戦に即した……とまでは言わないまでも、本来の剣道には無い動きや鍛錬も取り入れており、中学進学以降も時折先生に稽古を付けて貰う為、部活が休みの時なんかには続けて通っていたものだ。


 その御蔭も有って剣道では殆ど使われる事は無いが、実戦では極めて有用な八相の構えでの戦いが出来ているのも、彼女の言う所の即戦力になっている所以の一つだろう。


 剣道は一対一での勝負しか無い競技で、基本的に目の前の相手にだけ集中して居れば良いが、実戦では何処から攻撃が飛んでくるか分からずソレこそ真後ろにすら意識を割かねば命に係わるダメージを負う事も有り得る。


 道場で行われる地稽古では複数人が入り乱れて稽古をする事も有るが、ソレだって基本的には後ろに大きく下がる事さえしなければ他の者と衝突する様な自体には成らない為、回りに気を払って戦うと言う経験は剣道では身に付かない物なのだ。


 しかしあの道場に通った生徒の中には剣道から剣術に入っていく者も割と多く居たし、俺もそっちに多少は触れた事が有った事と、チューニングに依って得た身体能力の向上が噛み合った結果、実戦でも通用する立ち回りが出来ているのだろう。


「俺は元々やってた剣道の経験が割と活かせている感じだけどよ、見るからになよっちぃラスカルの弟が彼処まで()れるってのは正直予想外だったぜ。いや、ソレがチューニングの恩恵だってのは分かるんだけどよ」


 チューニングを受ける前の奴は身体の軸がブレブレで、今まで体育の授業以外ではろくに運動をして来なかった者だと言うのは、俺の目から見れば明らかだった。


 けれども調整槽から出た後はまだまだ左右で重心が崩れては居るが2、3年剣道をやった奴と同等くらいには身体の軸が安定して居る様に見えたのだ。


 恐らくは俺が気持ち悪いと感じた様に、奴も自分の身体を自由に動かせる程度には『身体操作能力』が上がって居るのだろう、そしてその上がり幅はたぶん俺よりもかなり大きいのだと思う。


 そうした差が出ているのは適性率の差と言う事なのだろう、俺はチューニングを受ける事の出来る下限ギリギリだと言う話だったのに対して、奴は上限ギリギリだと言う事だったしな。


「思った通りに身体が動くんです。サンマの突撃も全部見えてるし、視野も今までとは比べ物に成らないくらいに広い。もしも群れで来たなら厳しいかも知れないけれども、1匹で突っ込んでくる奴に拳を合わせる程度なら簡単に出来ますよ」


 ラスカルの弟は俺の言葉に対して、身体が思い通りに動くと言う事に違和感よりも楽しさの方が勝っていると言う表情でそう返事を返す。


 この辺の感覚の違いは、死ぬ程鍛錬を繰り返して少しずつ技術を身に着けて来た者と、思った通りに身体を動かす事すら難しかった運動音痴が、いきなり思い描いた通りに身体が動く様になった事で感じる爽快感の差だろうか?


 でもまぁ俺だって鍛錬に鍛錬を重ねて『自分の身体の動かし方』を知ったつもりで居たからこそ『気持ち悪い』と言う感想を抱いた訳で、そうした経験無しで思い通りに身体が動く様になったならば快感の方が勝ったに違いない。


「そう言えば、お二人ともチューニング・ネームは決めましたか? チューナーの活動は基本的に全て記録してある程度の編集が入った後にYou Tunerで公開さるけれども、本名とか個人情報に係わる物は出さない様にするのがルールですよ」


 今回は慣らし運転でしか無いが、それでもちゃんと録画用のドローンは俺達の姿を捉え続けて居る。


 You Tunerはチューナー同士の情報交換の他にも、その戦いを一般の人にも視聴させる事で新たなチューナーと成る者を呼び込む為の広報活動としての側面や、広告収入を得てチューナーに還元する為の物でも有ると言う。


 動画の再生回数が増えれば支払われる報酬が増えるし知名度も上がると言う部分は、一般の動画配信サイトでの配信者と変わらないと言える。


 違いが有るとすれば配信内容の取捨選択や編集作業なんかは、全て防衛隊側が行ってくれると言う事だろうか?


 編集作業を自分でしなくても良いと言う点では有り難いと言えなくも無いが、配信したくないされて欲しく無い部分を切り取って削除する自由が無いと言う点は嬉しく無いとも言えるだろう。


 また自分で編集する訳では無いからこそ何処を切り取られても良い様に、個人を特定しうる情報に繋がる部分は可能な限り秘匿するのが推奨されて居ると言う訳で有る。


「ああ、俺は小熊猫(シャァシェンマオ)って名乗るつもりだ。レッサーパンダの中国名だな。ラスカルの奴に引っ掛けた名前だが、元々の流派は同じなんだし繋がりを示唆するのも面白いかと思ってな」


 ちなみに上野動物園に居るジャイアントパンダはそのまんま大熊猫(ターシェンマオ)だ。


碧田貫(あおたぬき) 紅狐こうこ 大太刀(おおたち) 國守くにもり』と言うチューニングで得た物の名に引っ掛けてラクーンドッグを名乗る事も考えたが、武器に宿る魂から自分は狸では無く狐だと猛抗議を受けたので、間を取ってレッサーパンダを名乗る事にしたのだ。


「私の『回復天使』やラスカル君の『示現流』みたいに、戦闘スタイルが直感的に分かる肩書? 二つ名? そんな感じの物も付けた方が良いよ。その方が検索され易くなって視聴数増えるからね」


 正直なところ俺としては、名前を売りたいとも思わないし、金だって生活出来る程度に入れば十分で、テレビ出演やらなんやら追加の仕事が増える事に成るだろう余計な名声は不要なのだが、付けないとソレはソレで回りから浮きそうで面倒臭い。


「んー、じゃぁ『一刀両断 小熊猫』で行くか。この得物的にも元々の流派的にも二の太刀要らずが信条だしな」


 魂の一部故に重さを殆ど感じないとは言っても、大太刀と言う武器が取り回しの良い物では無い事には変わりは無いし、俺が重さを感じていないと言うだけで質量その物が無いという訳でも無いので、一撃に全力を込めると言う方向で扱い方は間違っていない筈だ。


 と成ると、示現流の代名詞とも言える『二の太刀要らず』のつもりで敵を一刀両断する戦闘スタイルを確立していくのがチューナーとしての俺の有り方と成るだろう。


「こっちは『器用万能 ゴールドブレイバー』とでも名乗ろうかなぁ? どうも俺に憑いたチューニング・ソウルはぶん殴るだけじゃぁ無く、味方の回復や状態異常での支援なんかも出来る見たいなんですよね」


 器用万能とは良く吹いたと言いたいが、前線に出る事も出来る上に先程の様な状態異常の付与に回復までやれるなら、使いこなせれば名前負けする事は無いだろう。


 ゴールドブレイバーってのも見た目通りの金色と、万能性をゲームのキャラクターに引っ掛けて勇者≒勇気って事か。


「え!? ブレイバー君回復も出来るの! やった! ヒーラーが増えれば待機シフトがもう少し楽に成るかも!? 今まで千薔薇木支部全部で3人しか居なかったから、チームで出る時以外にも万が一に備えて待機する時間が多かったんだよね!」


 ラスカルの弟が明かした能力に快哉を叫んだのは、回復要員として便利使いされて居るらしいラブりんさんだ。


 回復の為の薬なんかはある程度支部にも用意が有るらしいが絶対数が全く足りておらず、チューナーの人数もまだまだ足りていない現状では1人の戦線離脱でも、他の者に対する負担は割と大きな物に成ると言う。


 故に回復能力を持つ者をダンジョンの待機室に可能な限り常駐させておきたいのが現状なのだそうだ。


 今は3人が交代で詰めて居るが、千薔薇木県内のダンジョンはココだけでは無く、彼女たちヒーラーの負担は決して軽くは無いらしい。


 無論、無給と言う訳では無いがラブりんさんは既婚者で2児の母だと言う話だし、仕事の為に家庭を顧みるなと言うのはやはり違うだろうし、追加人員が現れたならば喜ぶのは当然と言える。


「さて、んじゃ安心して怪我も出来るね! 『痛くなければ覚えませぬ』なんて名言も有るし、今日はこのまま第2層近くまで行ってみよー!」


 喜びの余りかハイテンションに突き抜けた感じでそう言うラブりんさんの目は笑って居なかった、どうやら彼女は本気で俺達をピンチに突き落とすつもりらしい。


 そんな状況にも拘わらず、俺は口角が上がるのを止められないのだった。

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