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厨二病の英雄達~チューニング・ヒーローズ~  作者: 鳳飛鳥


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♯.15 金色の拳を振り翳し瞳に宿る力を知る

 下手な場所に食らえば間違い無く命を落とすであろうサンマの突撃を、俺は危なげ無く下から振り上げた右腕で撃墜する。


 今までろくに部活動もやっておらず、運動と言えば登下校の自転車と体育の授業くらいしかしていなかった今までの俺では絶対に出来ない真似だ。


 かと言って俺に憑依したチューニング・ソウルに操られている様な事も無い、単純に身体が面白い程に思ったように動くと言うだけだ。


 ウチの高校に居る体育の(ごり)先生の言葉では『人間に運動神経と言う神経は無く、運動の上手さは極々一部の例外を除いて、ソレまでに積み重ねてきた運動の量に比例する』と言う事だったが、今の俺の身体は多分運動部のトップと同等かそれ以上に動けている。


 運動が苦手な人と言うのは、自分が思い描いた身体の動きと実際の身体の動きが乖離し過ぎて居て、その差が苦痛で有るから運動に対して苦手意識を持ち、更に上手な者の動きとくらべてしまう事で悪循環に陥るのだと言う。


 しかし練習を繰り返す事で頭の中で考えた動きと実際の動きをすり合わせて行けば、誰でもある程度のラインまでは出来る様に成るので、体育の授業と言うのは苦手な者に誰でも出来る場所まで到達させるのが目的だと彼は常々言っている。


 俺の通う県立禿川(とくがわ)(みなみ)高校は県内では、比較的偏差値の高いいわゆる進学校で運動部の活躍は決して多いとは言えない、何方かと言えばガリ勉校と言われる事も多い学校だ。


 その為、生徒の大半が普段からの運動習慣なんて身に付いている筈も無く、体育の授業は入学当初は、何方かと言えば罰ゲーム的な時間と言う感覚だったのだが、体育主任の鮴先生がそんな授業方針なので誰でも楽しめる様になっているのは凄い事だと思う。


 とは言え、その授業の中でボクシングの様な事をした事が有る訳では無く、バッティングセンターの最速と同等かそれ以上の速さで突っ込んでくるサンマに対して、拳をここまで的確に当てる事が出来る程に、思った通りに身体を動かす身体能力も反射神経も無かった。


 しかしソレが出来ていると言う事は、チューニングによって身体能力が底上げされ、更にその能力を扱う為に必要な身体操作能力をも付与されたと見るべきだろう。


「くらえサンマ野郎! メテオアッパー!」


 また一匹突っ込んで来たサンマの顎辺りを、下からすくい上げる様に繰り出したアッパーカットは、とある有名ボクシング漫画の主人公が最序盤で繰り出した物をイメージして放ったが、狙った通りの場所へと綺麗に入り奴は天井へとぶち当たり消滅した。


(右腕は余が宿っておるが故に多少無茶をしても怪我をする事も無いし、万が一傷を負っても直に治す事が出来る。だが左半身はまでは余の権能(ちから)で保護出来ず、生身と然程変わらぬ強度でしか無い。余り無理はしてくれるなよ)


 チューニング・ソウルは人に依って宿る場所が違うらしく、俺の場合は右の肩辺りにコアと呼べるだろう物が存在して居る様で、身体操作能力はともかく肉体の強化という点では右半身と左半身で完全に差が有るらしい。


 つまり左拳でジャブを放つ様な事は避けた方が良いと言う事だろう……いや、拳を保護しつつ攻撃力も確保出来る様な武器、メリケンサックの様な物を用意すれば左も使えるか?


 俺自身ボクシングの経験が有る訳じゃぁ無いが、ボクシングの世界では『左を制する者は世界を制す』なんて格言も有るらしいし、右の拳しか使えないと言うのではちょっと問題が有るだろう。


 そう思いながら先輩の方をチラリと見てみれば、多分180cmを超えて居るだろう長身よりも、更に長いバカでっかい刀でサンマを見事に真っ二つにして居る姿が有った。


 俺の右拳でも先輩の刀でも一撃で倒せてしまうサンマでは、お互いの攻撃力にどれくらいの差が有るのか今一つよく分からないが、間合いの差や今まで積み重ねて来た修練の差を鑑みれば、もし彼とやり合えばこっちが負けるのは間違い無いだろう。


 幾ら思った通りに身体が動くとは言っても、向こうは人生の半分以上を剣道に捧げてきた人なんだ、立ち回り方や戦いの組み立てなんかで絶対的な差が有るのは間違いない。


(余の権能はそなたの身体を強くするだけでは無いぞ、右の瞳に意識を集中し敵を縛る事を意識してみよ。お主よりも強い魂を持つ者には必ず通るとは限らぬが、格下ならばまず間違い無く動きを止める事が出来るだろう)


 そう言われて遠い物を見るつもりでグッと右の瞳に力を込めて見る、するとソレだけで何と無くあのサンマを縛り付ける能力(ちから)を放てる気がして来た。


「お? この能力も便利そうだな……いけ! パラライズ・アイ!」


 適当に付けた技の名前を叫んだのは、その方が格好良いから……とかそう言う話では無く、どんな行動を取るのかを味方に知らせる為に技名を口に出すのがチューナーの不文律だと兄貴に聞いていたからだ。


 メテオアッパーも適当に付けただけで必殺技でも何でも無いただのアッパーだが、こうした動きに名前を付けて言葉として発する事で、初見のチューナー同士でも連携を取りやすくする為の知恵らしい


 そしてソレは同時にYou Tunerで戦いを見る視聴者に対しても何をしたのか分かりやすい様にすると言う意味合いも有るらしい。


 チューナーはモンスターと戦う者であると同時に、配信者として視聴数と広告料を稼ぐ者でもある。


 俺の放ったパラライズ・アイの様な『邪眼』とか『魔眼』と呼ばれる異能はチューナーの中では割とポピュラーな物では有るが、アニメの様に派手なエフェクトが出る訳でも無く、傍から見ればただ睨んだだけでサンマが落ちた様にしか見えないだろう。


 しかし技名を高らかに叫ぶ事で、何をしたのかも分からず相手が勝手に自滅した……と勘違いされる事は避けられると言う訳だ。


「きぇぇゃぁぁああ嗚呼!」


 その辺の事を知らないらしい先輩は、自分の方に来たサンマを猿が狂ったかの様な叫び声を上げながら叩き切っているが、アレはアレで派手だしあの巨大な刀と言う武器の時点で派手だから問題は無いだろう。


 ……パラライズ・アイで撃ち落としたサンマを見て美味そうとか言っていたのは、あえて突っ込む必要は無いな。


 だって地面の上でのたうち回る巨大なサンマは、俺の目から見ても美味そうと思えるんだもの。


 最近は秋になってもサンマが安くならないし、ココでコイツらを何とか確保して食用に回せたら、世界的なサンマ需要を満たす事も出来そうだし絶対良い商売に成りそうなんだがなぁ。


 けれども倒したサンマは身の一欠片、骨の一片すら残らず光の粒子になって揮発してしまう。


 支部長さんから受けた説明では、コレはこの世界の『神秘濃度』と言う物が低い所為で起こる現象で、異世界の中にはモンスターから取った素材で装備を作るとか言うゲーム見たいな技術を持つ場所も有るらしい。


 異世界とのつながりはチューニング・ソウルの召喚だけで無く、そうした異世界からの品々を輸入すると言う事も量は限られるが不可能では無いそうで、この世界の医療では考えられない魔法の様に傷を瞬間回復させる薬なんて物も有るそうだ。


 だがしかしそうした薬剤の類も、やはり強い『神秘』を秘めているからこそ魔法の様な効果を表す為、神秘が薄いこの世界では極めて早い速度で劣化する為、濃い神秘を貯える専用の場所で無ければ保存すら出来ないと言う。


回復天使(ヒーリングエンジェル)魔法使い(マジカル)ラブりん』さんが居れば、そうした異世界から輸入した回復薬の世話に成る必要も無いのだろうが、回復系のチューナーはかなり希少でここの支部には彼女を含め3人しか居ないらしい。


(……簡単な治癒であれば余の権能でも行う事は可能だ。無論、他者に施す事も出来る。しかしその分、余を宿したそなたは純粋な戦闘力であの剣士には及ばぬと言う事を理解しておけ。あやつはこのまま歩みを止めねば神代の英雄にも届く器ぞ)


 うん、どうやら俺は4人目のヒーラーなんだな、んでもってデバフも使えて殴りもそこそこイケると……某ゲームで言うなら『勇者』と言った所か?


 器用貧乏で終わるか器用万能に成長するかは、今後の俺の努力次第って感じなんだろうな、自己回復が出来てデバフも使えて殴れるなら、単体での継戦能力は多分他者より勝る筈だ。


 兄貴を助ける為なら使える物は何だって使ってやる、俺はそう決意を新たにしつつ、もう一匹サンマを葬るのだった。

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