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厨二病の英雄達~チューニング・ヒーローズ~  作者: 鳳飛鳥


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♯.12 チューナーと成り厨二病に思い悩む若者達

「チューナーとチューニング・ソウルに依る精神波の二重波形を検知。お二人ともお憑かれ様でした、無事チューニング終了です。この後、薬剤を洗い流す為にお湯で洗浄しますので未だマスクは外さないで下さいね」


 無数の刀や剣に斧や槍……その他諸々思いつく限り古今東西の武器が並び立つ『武器の墓場』とでも言うべき場所から引き戻されると同時に、お姉ちゃんの事務的な声が洗濯機モドキの中に響き渡る。


 緑色の薬剤が充填された時とは逆に下へと抜けていき、一旦空に成ったら今度は上から轟音を立てて人肌よりも少し温かい位のぬるま湯が注ぎ込まれて来た。


 薬剤を落とす為に洗浄すると言うので有れば、多分未だもう少し掛かるのだろうし、俺は緊急用ボタンを落とさない様に軽く握り直してから、異世界と仮定される場所で有った事に意識を向ける。


 俺が見た武器の墓場には現代兵器の代表格と言える武器、即ち銃器の類は何一つ存在していなかった、ソレはなぜだろう? と少し考えてみた……するとだ


(銃器が全く無い訳では無い。だが銃が神秘と共に有った時代は短すぎて、銃器が魔鍵(マケン)としてあそこに辿り着く事が殆ど無かった為に極端に数が少ないのだ)


 そんな声が頭の内側から聞こえてきた。


 普通に考えりゃ気でも狂ったのかと自問自答する様な事態だが、この声は俺が武器の墓場で契約した魔鍵の物だ。


 その名を『碧田貫(あおたぬき) 紅狐(こうこ) 大太刀(おおたち) 國守(くにもり)』俺の身長182cmを超える、全長185cmも有る大太刀である。


 無限に広がっている様に見えた武器の墓場の中で、俺が目を開いた場所に突き立てられて居た朽ちかけた一振りだった。


 マケンが魔剣では無く魔鍵と字を当てるのは、武器の墓場に有るのが剣とは限らず、同時にソコに有る武器が『魔の世界』即ち異世界への扉を開く鍵となり得る物だからだと言う。


 そして『碧田貫』と言う土地で『紅狐』と言う刀鍛冶が打った物で、『大太刀』はその長大さを表す分類名『國守』と言うのが銘だ。


 今は俺と言う鞘に収まっている状態に有るらしく、実体を持った刀として現実に存在しては居ないが、感覚的な物でしか無いが抜こうと思えば何時でも抜ける状態に既に有る様に思える。


 普通に考えれば自身の身長を超える様な刀では、抜くだけでも相当な鍛錬と技量が必要に成る筈だ。


 俺自身は剣術の流れを汲む道場で剣道を習ったとは言え、抜刀術にまで手を伸ばしては居なかったので、背負った大太刀を淀みなく抜く様な真似は出来ないし、幾らチューナーに成ったからと言ってそんなどデカい得物を抜き身で持ち歩く訳にも行かない。


 けれども自身が鞘だと言う事は、身体の何処からどの様に抜くのかも自由自在と言う事の様で、未だ試しても居ないのに左の肩から抜きざまに袈裟斬りを仕掛けたり、そもそも抜くと言う動作をせずに構えた状態にする事も可能だと感覚的に理解出来た。


 正直な所すげー気持ち悪い感覚なのだが、なぜだか出来ると『思う』のでは無く、出来ると『確信』して居るのだ。


(我が身は汝の魂と共に有る、出来て当然の事が出来るのは当たり前だ。まぁ出来なかった事が唐突に出来る様に成ったと言うのだから、ソレを気持ち悪いと感じるのもまた当然の事では有るがな)


 ついでに言えば、今まで俺は185cmも有る様な大太刀を竹刀で扱った事は無い、剣道で使われる竹刀は最大でも120cm以下と定められている為、間合いの違いを修正するのには相応の鍛錬が必要に成る筈だが……何となくソレすらも必要ない様に思える。


 刀と言うのは先端のおよそ10cm『切っ先三寸』の部分を物打ちと言い、この部分が最も人を切るのに適した部分とされており、剣道では竹刀のその部分を正確に当て深すぎても浅すぎても一本とは認められない。


 得物の長さが変わるれば当然間合いもそれ相応に変わる訳で、立ち回りから刀の振りに掛かる遠心力まですべてが大きく変わる事に成る。


 にも関わらず、恐らくは今までと同等以上の精度で戦えると断言出来るのは、チューニングと言うのが単純に異能を与えるだけの物では無く、戦闘用に魂と肉体を文字通り『調整』して居るからなのだろう。


 にしても、こうやってお湯が自動的にぐるぐる回って身体洗われている状態はマジで人間用洗濯機じゃねぇか! と一度目のお湯が流され濯ぎの為かもう一度流れ込んで来る湯に俺は思わずそんなツッコミを心の中で入れるのだった。




「はい、洗浄終了です。扉のロックを解除しましたのでマスクを外したら外に出て用意してあるタオルで身体を拭いたら、服を着て頂いて構いませんよ。では私は一旦隣の部屋で別作業をして居るのでお二人とも着替えが終わったら呼びに来て下さい」


 湯が完全に流れ落ち、ガチンっと音を立ててガラス戸のロックが外れる。


 事務員のお姉ちゃんが隣の部屋へ行くと言ったのは仕事が有るのも事実だろうが、全裸の俺達が気兼ねする事無く着替えられる様にする為だろう。


 まぁ好きでも無い野郎の裸なんざぁ好き好んで見る物でも無いし、俺自身も決して立派とは言い難い逸物を女性に見せつけて、ソレに喜びを感じる様な性的嗜好も持ち合わせて居ないのでありがたいと言えばありがたいがな。


 ロックの外れた扉は一寸押すだけで簡単に開きソコから出るとグッと伸びをして、短い時間では有ったが狭苦しい場所に閉じ込められて居た状況から開放された事に対する快感を謳歌する。


 と、用意されていた大きなタオルで頭と身体に付いた湯を拭き取りながら、ラスカルの弟を見ると、奴の右手首から上の腕全体に『金色の翼』をモチーフとした派手な入れ墨の様な紋様が刻み込まれているのが見えた。


「おいおい、お前未だ高校生だよな? そんな状態で学校行って大丈夫か?」


 よくよく見れば腕だけでは無い、首から顔の右側に掛けても同様に金色の紋様が浮かび上がっており、右の瞳も先程までとは違い金色に染まっている。


「え? うわ!? マジか! いや、校則にタトゥの禁止とかは無かった筈だけれども、髪を染めただけでも生活指導室に呼ばれるんだから、こんな状態じゃぁ絶対ゴリ先生に呼ばれるよ」


 ゴリ先生ってのは、恐らく体育教師でなおかつ生活指導を担当して居るゴリラ見たいな体格の教師なのだろう。


 俺が通っていた高校にも全く同じあだ名で呼ばれていた先生は居るし、恐らくは大概の学校に似たような憎まれ役の先生と言うのは存在して居るんじゃぁ無いだろうか?


 流石に量産型ゴリ先とか作ってる様な場所が有る訳では無いだろうが、体育大学の柔道部出身とかなら割とそ~成る者も多い気がする。


「なぁ……俺の方はなんか変な事に成って無いか? いや、お前と違って俺はこっち専業だから多少の事は問題無いんだけど、銭湯に行って騒ぎに成るのは困るからな」


 彼の身に起こった厨二病感溢れる変化に嫌な予感がした俺は、少し早口に成りながらそう問いかけた。


「畑中先輩は……左尻になんか痣が出来てますね。アルファベットでKENなのかな? なんか丸いロゴ見たいな感じにも見えるけれど、俺の奴程派手な色じゃぁ無いしタトゥーの類には見えないですよ」


 尻にロゴマークって……割と嫌な感じだが、チューニング装置のガラス戸に映して見てみると、うん確かにKENと書いている様に見えなくも無いが、色合い的に痣だと言い張れば問題無い様にも思える。


「あ、俺の方は自分の意思で消せる見たいですね。と言うか、このタトゥーを出している時が戦闘モードで消せば普通の人間と変わらない状態に成る見たいです」


 その言葉通り、和馬の身体に浮き出ていた金色の紋様は消え失せ瞳の方も左右同じ黒っぽい色合いに戻っていた。


 そして消してから気づいたのだが……


「なぁ、もう一回戦闘モードにしてみ? 俺の気のせいじゃ無けりゃ光ってんぞソレ」


 俺の言う通り再びONにした彼の右半身は確かに薄っすらと光輝いている。


「うわ!? なにこのスゲー厨二病臭い奴! エゲツない程にダサイ!?」


 言われて気が付いたらしい和馬は、その輝きにげんなりとした表情でそんな感想を漏らしたのだった。

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