表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ラケッティア! ~異世界ゴッドファーザー繁盛記~  作者: 実茂 譲
星々の世界 ラケッティア宇宙へゆく編
992/1369

第四十話 AI、勝手なお願い。

 この星の生物に関するデータを検索したのですが、来栖さんの考えたあだ名がさも百万年前から登録されていたみたいにちゃっかり記載されていました。


 AIの記憶回路に干渉してるということでしょうが、正直、よく分かりません。


 確かなことはその能力に来栖さんが気づいていないことです。


 気づかないあいだにAIのデータを書き換える、というのは最強クラスのコンピューター・ウイルスにもできない所業ですが、それがデータ化されているわけでもない生身の来栖さんの思考が成し遂げる、これは百万年のあいだに人類が大きく進化したのかと思ったのですが、どうもそうでもないようです。


 というのも、ボクが眠っていたあいだに人類が百万年のあいだにどう進化するかシミュレーションしてみたら、人類は脳が十分の一の大きさになり、手足が退化して十センチくらいの長さで指が三本に減り、そのかわりに柔らかな毛に覆われた平べったくて長い尻尾が伸びて、それを使って海のなかを進む海産物になっていたのです。ちなみに主食はワカメです。


 来栖さんは不思議な人です。

 自分を犯罪組織のボスであると言っていますが、やっていることは革命家です。


 いまも魚人のアクロさんとそのお姫さまと一緒に〈蟹の民〉が住む海域に向かうところです。

 そこに援軍を乞うわけです。


 いろいろ興味があったのできいたみたのですが、来栖さんは麻薬は扱わないそうです。


 ボクがつくられた時期のフレイアでは犯罪組織はいくつもあり、その全てが麻薬を資金源にしていました。ひとつだけ蟹の密漁を資金源にしている異端もいましたが。

 でも、これから蟹の民の協力を得ようとしているので、このことはあまり言わないほうがいいでしょう。


 麻薬による社会汚染は大変問題になっていたと思います。

 麻薬組織の賄賂と反麻薬キャンペーンを張った選挙が資金力を競い合っていたあたり、末期の世界だったのだなあと今にして思います。


 麻薬を扱わないでどうやって資金を得るのですか?とたずねると、来栖さんはとても誇らしい顔で「スロットマシンだ!」と教えてくれました。


 また、この世界を征服する方法はふたつしかなく、スロットマシンによって征服するか、それ以外の方法しかなく、それ以外の方法で征服される世界はそもそも征服する価値がないそうです。


 そういうことになると、新生フレイア帝国のしていることは来栖さんから見たら無価値なのでしょう。


 フレイアへと消えていったフレイさんはこのスロットマシン部門の最高責任者なので、ビジネスの点からもフレイさんを連れ帰る必要があるそうです。


「でも、実はフレイとは会えるんだ。夢のなかだけど」


 もう、二回。フレイさんと夢のなかであったそうです。

 夢のなかのフレイさんはあきらめて欲しいと言っているそうですが、来栖さんは絶対にあきらめないと言っています。なぜなら――、


「それがファミリーってもんなんだ」


 ――だそうです。


 でも、そういうの、いいですよね。

 血のつながりのない仲間を大切に思う。


 これはボクの勝手な想像ですが、もっとそういう気持ちがありさえすれば、フレイアは滅亡しなかったと思います。

 フレイアの末期は皮肉っぽい冷笑と無関心、無寛容、問題解決への意欲がほとんどありませんでしたから。


 そして、これはもっともっと勝手なボクの願いですが、イスラントさんがその、クルス・ファミリーに入ることができたら、と思います。


 みんなの頭脳をスキャンしたとき、イスラントさんの記憶の一部が見えました。

 結構、頑丈な鍵がかかっていたので、うっすらとしか分からないのですが、イスラントさんはジャックさんと、それにあともう一人、同じくらいの年齢の女の人と一緒にいました。

 たぶん、彼女も暗殺者なのでしょう。


 そのなかでのイスラントさんは、いまのイスラントさんと同じで、仲間との馴れ合いには興味がないという顔をしていましたが、その三人でいる記憶は人間が最も大切な思い出を保管する部位にしまわれていました。


 それに、もうその女の人は生きていないようです。

 おそらく殺されたのですが、それが、どうも――ジャックさんが殺したようです。


 ボクには分からない暗殺者の掟みたいなものがあるようですが、それを確かめようとすると、まるで冷却ファンに酸をかけられるような痛みが走ったので、ボクはそこでやめました。


 ただ、このことについてイスラントさんがジャックさんに抱いているのは、恨みではなく負い目のようでした。


 ジャックさんの記憶、それも大切な思い出を保管するところを覗いたとき、やっぱりその三人でいるときのことがきちんとしまわれていました。

 でも、それ以外にもたくさん、いろいろな思い出があったのです。初めてバーテンダーとしてバーに立ったこと、来栖さんとトキマルさんという方と三人で南の海を冒険したこと、仲間たちとの日々の気のおけないおしゃべり……。


 ボクに同情されてもイスラントさんは嬉しくはないでしょう。

 だから、口には出せません。ボクは傷つきやすいAIなのです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ