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ラケッティア! ~異世界ゴッドファーザー繁盛記~  作者: 実茂 譲
ディルランド王国 ラケッティア戦記編
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第三十四話 アサシン、特別なお洗濯。

 高い天井に香煙を垂らすランプがぶらさがり、砂漠の国で織られた絨毯が部屋の形にあわせて敷きつめられている。

 棚には美酒が揃い、水キセルのなかで陶酔作用のある煙草の葉が白いあぶくをぶくつかせていた。


 洗濯用の鍋がある一角だけが石造りで、下のふくらんだ鍋はすでにシャボンでぐらぐらと煮立っている。


 トキマルと連絡を取った翌日、監獄のふもとにある洗濯娘の村へ監獄士官が派遣され、金貨一枚と高級官僚専用の命令書でツィーヌは〈特別洗濯室〉へ呼び出され、監獄長官のために洗濯をすることになった。


 任務――うまく長官をおだてて、エルネストの居場所をきき出す。


(諜報活動だってできるところを見せてやるんだから)


 監獄長官はすでにツィーヌの後ろに置かれた長椅子でビロードのクッションに深く埋まるように楽な姿勢でツィーヌを眺めまわしている。


(うーっ、気持ち悪い!)


 想像以上に気持ち悪い。

 絶対的に気持ち悪い。

 マスターがよく使う形容詞に頼るなら、クソ気持ち悪い(ツィーヌが潜入する直前、来栖ミツルが足の小指をベッドの脚にぶつけたとき使った表現は、クソ痛え! だった)。


(任務だ。任務って割り切るんだ!)


 ぴと。


「ひゃっ!」


 手が尻を撫で、危うくぶち殺しかける。


 ツィーヌは毒殺専門だが、それでもアサシンだから、星の配置が悪いのか召喚魔法が働かずに毒が動かない日はツィーヌ自身が黒装束に身を包み、ジルヴァの真似をして覆面で顔を隠して、ターゲットの屋敷に潜入し、ターゲットが朝起きると同時にひっかけるらしい火酒の瓶に毒を入れ、誰にも気づかれることなく抜け出すくらいの芸当はしてみせる。


 あばた面のエロジジイ一人屠るくらい素手でもできるのだ。


(でも、ここで殺したら、全部台無し。でも、気持ち悪いーっ!)


 ふと、トキマルの言葉を思い出す。 


 マジでやられそうになったら、大声上げてみな。


(誰が当てにするか、バカヤローっ!)


 なでっ。


(気持ち悪いけど、任務が……うーっ!)


 板挟みのツィーヌが上げた名前は、


「マスター、助けてーっ!」


 トントン!


 ノックの音。


「今、忙しい!」


 監獄長官の不機嫌な返事に対し、ドアが両開きに開く。


 取次の監獄士官を追い越して、部屋に現れたのは、


「金貨千枚よりも忙しい仕事かね?」


 千枚の金貨とドン・クルスだった。

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