第三十五話 ラケッティア、紙飛行機。
〈掟の星〉の雪雲がついてきたのかと思ったら、それは白い紙飛行機の群れだった。
まさか宇宙旅行中に紙飛行機の群れを遭遇するとは思ってなかったので、みんなで甲板に出て、その奇妙だが、それなりにきれいな景色を眺めていた。
紙飛行機のいくつかを手に入れたが、イカみたいな形の紙飛行機でシャバで見かけない不思議な代物。
試しに開いてみて、触ってみると、これがなかなか気持ちがいい。
それになんか甘いにおいもする。
おれたちはおれたちの知っているやり方で紙飛行機を折って、それを宇宙に返した。
おれたちの紙飛行機は群れのなかにいじめられることなく迎え入れられた。
いじめなき集団。つまり、紙飛行機は人間よりも上等なわけだ。
「ヘイ、シップ。いったいどこからこの紙飛行機は飛んできてるんだ?」
「ここからそう遠くはない星のようですね」
しばらくすると、島がひとつ浮かんでいる直径百メートルほどの星が見つかった。
島には一軒だけ家があり、赤と青の石でつくられたその家には高い塔があり、全ての紙飛行機は塔の最上部から流れ出ていた。
この宇宙にはこうした不思議なことがちょくちょく起こる。
この宇宙は星の王子様みたいな宇宙だな。
そのうちアル中の星も見えてくるに違いない――みじめだから飲む――飲むとみじめになる――だからまた飲む――またみじめになる――。
「よし。雅なものを見せてもらった礼をひと言言ってみるか。ヘイ、シップ。あの星に着陸してくれ」
着陸してみると、その家はなかなか大きく、扉があるべきところには毛織物のようなものが垂れ下がっていた。
「誰かいませんか~?」
家のなかはきれいすぎるほどに整頓されていて、逆に生活感を感じさせない。
調理場は使われた形跡はないし、ベッドは皺ひとつないシーツがかかっている。
紙飛行機の出元、塔のてっぺんに行ってみて、紙飛行機の主が見つかった。
すでに白骨死体になっていて、体全体が機械につながり、この機械がまるで永久機関よろしく奮闘し、白骨化した死体に紙飛行機を折らせ続けていた。
――†――†――†――
しばらくシップが進んでいくと、今度は赤い紙飛行機や青い紙飛行機が飛んできた。
そのうち紙飛行機は虹の七色をコンプしたが、もうおれたちは紙飛行機の出元を訪れるようなヘマはしない。
本日の教訓。きれいなものの起源は調べるな。




