第二十九話 ラケッティア、滅亡の記憶。
イエーイ。
廃墟ウォーカーとふたりきりでニクマル・テレビ、歩いちゃってます。
イエーイ。
なんでそんなことになったかというと(ここでおれの頭の上にホワンホワンホワンと吹き出しがあらわれる。もちろん総天然色で)
――†――†――†――
「あかん! 誰も連れていかさへん!」
「えーっ! それじゃコンペの意味ないでしょ!」
「あかん! みんながみんな、個性豊かなイケメン過ぎる! なんやの、ジャックくんの憂いのあるイケメン。イスラントくんの冷静系の美形! きれいすぎるわ!」
「暗殺者にきれいとか言うな」
「あっ、バカ」
「ほれ、きいた? 今の? これやねん。きみ、こういうとこやねんぞ。それにギル・ローさんのワイルド系。タトゥーこんなにガンガン入れてるアイドルおらへんぞ! シップくん、キュートすぎるわ。その姿にイスラントくんへのリスペクトバンバン出てるで! 永遠の弟キャラやねん! でも、一番罪なのはカルリエドさまや! なんじゃの、この、創造物は? きれいにきれいを重ねてて、魔界の王子さまやで! 話しかけられたら頭からティアラ生えるわ、こんなん。それなのに――」
「カルリエド、王子違うんよ、サンドイッチ・メンなんよ~」
「これ、こういうとこやねんぞ。外見と中身のギャップでキュン死にするわ、ボケ! こんなイケメンのサンドイッチ・マンおったら、ウチ風俗行くわ。オンナだけど。と、いうわけで、誰も手放せまへん。ほれ、はやく行きいな。ウチは成仏するんやから」
――†――†――†――
――という具合だ。
とても欲望に忠実である。
彼女のいいところはきちんとイケメンを評価しているところだ。
ヨシュアとリサークはぜひとも見習うべきだ。
ああ、そうだった。
あいつら、いま、こっちに向かって飛んできてるんだよな。ウェティアと一緒に。
恐竜絶滅クラスのでっかい大爆発がいつか起こると分かっていると、正気の糸が切れそうになる。
ん? そんなんより先にテレビ局の魔物にやられて終わりだろって?
いや、それがあの果物ナイフ、めっちゃ効いてます。
六本腕が生えてる岩石モンスターとか小さなかわいらしい少女を疑似餌にしたチョウチンアンコウザウルスみたいなやつとかが、この錆び切った果物ナイフ見ただけで慌てて逃げ出す。
理性の欠片もない魔物たち――おそらく何かの有害物質や化学兵器が百万年の進化にいたずらした結果出来上がったであろうまごうことなきモンスターたちがこのナイフ見ただけで、『あ、姐さんの関係の方ですか? えろうすんまへん』って感じで通してくれる。
そのうちスタジオのひとつに迷い込んだ。
報道番組用のスタジオらしく、キャスターのテーブルにカメラを積んだクレーンが倒れて真っ二つになり、その後ろのスタッフたちの部屋はきれいさっぱり片づいていた。
部屋の隅に玄関マットのようなものが山積みにされていて、埃が凝固したホワイトボードが一枚、しぶとく壁にかかっている。
さらに撮影機器やモニターがいくつもある部屋へと階段であがる。
よくディレクターって人たちがあれこれ指示を出す、あの部屋だ。なんていうのか知らんけど。
モニターは全部割れていて、窓もないので、廃墟ウォーカーの持っているランタンだけが頼りだ。
その灰色の光のなかに浮かび上がる灰色の残骸たちはプラスチックだったり、鉄クズだったりするのだが、ひとつだけ、フィルムを確認できる機械があり、そこの光源にランタンを使うと廃墟ウォーカーはいろんなスイッチを押し、レバーを倒したりして、何かのセッティングをした。
「ほら。ここから見てみるといい」
ちょうど両目をくっつけて見るレンズみたいな部分があるので、そこに目をくっつける。
「そのボタンを押せば、次の絵が出てくる」
最初に出てきたのは背広を着た男たちが国会議事堂みたいな場所に集まって、多数決をしているフィルムだ。
ボタンを押すと、群衆が都会の公園で決起集会。ソクジカイセンセヨ。横断幕にはそう書いてあった。
空襲。戦車軍団。ミサイル基地。
そして、軍神を祀る奇妙な祭壇とそのまわりで自動小銃を乱射しながら踊り散らかす狂信者たち。
これが掟の守護神か。
シップの情報によれば、軍神として祀られた掟の守護神は夫婦で殺し合いをさせられた。
それが現在まで続く怨念ストーリーの始まりだ。
やれやれ、どうしたもんかな。
そう思って、ボタンを押す。
ゲロ吐きそうになるほど驚いた。
そこにはフレイが――あの頭に装着したレーダーを入れるためのフードがついたポンチョを着た状態で立っていて、そのまわりを軍服を着た将軍たちが囲んでいた。
ボタンを押すと、今度は円柱型の培養水槽に浮かぶフレイの姿が。
フレイ。お前、いったいどうしちゃってるんだ?
「参ったな。これ」
「どうかしたのか?」
「探してる仲間が映ってた。女の子なんだけど」
「フム。わたしにも見せたまえ」
廃墟ウォーカーはあまり興味もない様子で、
「たぶん最終兵器か何かじゃないのかな?」
「最終兵器ぃ?」
「まわりの大人たちの目がそんな感じだ。世界を滅ぼす爆弾を手に入れたみたいにギラギラしている」
「そうなると、ますます帝国を出し抜かないわけにはいかなくなる。ところで、廃墟探索はもう済んだだろ? そろそろ切り札について教えてくれ」
「まあ、もうちょっと付き合ってくれ。せっかくだから社長室も見に行こう」
――†――†――†――
「わわわ! いま、なんかされた! スキャンみたいなことされた!」
「そうか。じゃあ、行こうか」
「え? いま来たばっかしだよ。苦労して階段上ったし、それにほら、CEOの部屋、いろいろあるよ。専用シャワールームとか、専用ベッドルームとか、専用シェルターとか」
実際、専用シェルターはあって、扉を蹴飛ばしたらあっけなく開き、なかにはおそらくニクマル・グループのCEOと思しき白骨死体が非常食の空箱と空のペットボトルの山にうずもれていた。
「もう用事は済んだ」
「用事って、あのなんかビビビってされたやつ?」
「その通りだ。きみは認識された。これが切り札だ」
「よく分からん」
「ちゃんと後で分かる。それより、はやく地下の駐車場に戻ったほうがいいんじゃないかね? お友だちが巻き添え成仏するかも」




