第二十三話 ラケッティア、トラブルの予感。
ハンナ・クレドリスとアスター・ヴィンデルハームから再婚を知らせる手紙が届いた。
家訓には古代遺跡を粗末に扱うものに死を!が付け加えられたことだろう。
いや、空手チョップを!か。
「なにそれ、すごく見たかったんだけど」
クリストフは、最近、クレオが大人しいと思って、何かあるのだろうと思っていたが、まさかその原因が肝っ玉母ちゃんだとは思わなかったらしい。
「ベリー採ってる母親なんて、やつの想像の産物だと思ってたよ。なあ、トキマル」
「どーでも」
「お前、どーでも、とか言ってるけど、身内と一緒のときの豹変ぶりはお前も負けてないからな」
「う」
ジャックが五人分のジンジャー・ジョヴァンニーノを持ってきて、白鯨がエイハブ船長を飲み込まんとする大理石のカウンターに置いた。
おれの分、クリストフの分、トキマルの分、ジャックの分、そして、最後のひとつは――。
「シャンガレオンのやつは何してるんかな?」
「遅れるって言ってたっけ?」
「カンパニーがちょっかいかけてるんじゃないの?」
「まあ、あいつなら心配しなくてもいいだろ。いつもあの狙撃銃を持ち歩いてる。カンパニーの縞々ズボンを見れば、百メートルの距離からキンタマを撃ち飛ばせる」
セヴェリノ王国から帰って以来、カンパニーが何かを仕掛けてきた様子はない。
〈判事〉を殺されたのがキツかったというより、虎の子の暗殺部隊を殺されまくったことが大きかったのだろう。
それよりも大きかったのはセヴェリノじゅうの銀行に預けた金貨や宝石を分捕られたことだろうが。
思わぬ収入は全部アサシン娘たちのものだ。
彼女たちが分捕ったんだから。
ジルヴァとヴォンモは自分は参加していないからと遠慮したが、三人ともジルヴァとヴォンモが一緒でないとと無理やり仲間にしてしまった。
いつも五人一緒。
なんか、いい光景だ。
次の手紙はおしゃれ探偵から来た今年の秋のモード。
どの王国や大富豪よりも先におれのもとにとどくのだが、今年は傭兵風が一押しなのだそうだ。
どぎつい色使い。左右のアンバランス。そして、コッドピース……。
コッドピースというのはつくりもののチンポコのことだ。
ズボンと同じ生地に綿をつめたチンポコもどきをズボンの上から股間の前面にくっつける。
つまり、知らない人が見ると、常在戦場の精力絶倫男に見られる。
そのうちおれのチンポコのほうがでかい、おれのチンポコのほうがおしゃれだ、とか言って、綿を規定の二倍も詰めたり、リボンやレースで飾ったり、金属でつくったりと魔改造がされる。
男の見栄のために社会性がガリガリと削り落とされるのは見ていて辛いものがある。
しかし、恐ろしいのはこれから。
なんと、今年流行るコッドピースは小物入れとしても使えるというのだ。
だから、例えば、道行く子どもにお菓子を上げようと男がいい、コッドピースからキャンディを取り出す……。
性犯罪待ったなしだな。
本当にこんなもんが流行るんだろうか?
ジャックがおつまみナッツを切らしたといって、外に買いに出かけると、それから五分くらい後に入れ替わりでシャンガレオンがやってきた。
「遅いぞ、お前」
「客を連れてきたんだよ。ほら」
そう言って連れてきたのは銀髪、碧い目をした美形の青年。
どのくらい美形かというと、そいつが入ってきただけで部屋の温度が五度は下がるほど。
涼しくてちょうどいい。
なんか少年漫画の熱血主人公のライバルポジションみたいなやつだなと思っていると、顔に似合った美声でこう言ってきた。
「ヨハネはどこにいる? ここにいるのは分かっている。隠すのであれば死んでもらう」
そういって、そいつは凍りついた剣を抜いた。
セヴェリノ王国 元気よくおかえりと言ってあげよう編〈了〉




