第十九話 ラケッティア、垂れ下がる蜘蛛の糸。
地上がどっかんどっかんヤバいことになっているのはここからでも分かった。
何かが爆発するたびに地面がビリビリ震えて、こう、お腹のね、おへその下あたりがぐるんぐるん揺れるのですよ。
これも老化のせいなのか。
ともあれ、この爆発にクルス・ファミリーが絡んでいないのは分かる。
アレンカがやったのなら花火はもっとデカくなるし、エルフ姉妹ならどんがらがっしゃん、すってんころりんがきこえないとおかしい。
しかし、まあ、誰の仕業であろうが、爆発は爆発に違いない。
カラヴァルヴァが1970年代のクリーブランド、あるいは1950年代のヤングスタウンみたいになるのは司法サイドの人間から見ても、ちっとも面白くない。
だから、イヴェスとロジスラスが面会に来たときいても、別に驚かなかった。
ただ、イヴェスはおれの逮捕状に署名した判事なのに、その面会が通ることにはちょっと驚かされた。
まあ、普通の犯罪者だったら、自分を逮捕した判事に会いたがらないだろうが、おれは普通じゃない。ふたりのイケメンに追いまわされる悪の持ち主である。だから、会っちゃうんだな。
さて、面会室に行くのだが、その途中、例の菜園のそばを通ったら、黒のジョヴァンニとフェリペ・デル・ロゴスが男を首まで埋めていた。
よく見ると、それはメツガーだった。
おれが提案した中立同盟はあくまで防御専門のものだったが、いまや研ぎに研いだ攻撃性を身につけ、ついにプリズン・ギャングの片割れを仕留めるに至ったらしい。
ああなると、もう人間どうしようもない。
おしっこかけられようが、シャベルでぶっ叩かれようが、嫁を目の前でレイプされようが、文字通り手も足も出ない。
あのふたりはメツガーをどう料理するつもりなのだろうと思っていると、手下のひとりがボッチェに使うボールをもってやってきた。
ボールは鉄製だ。
アウトレイジ・ビヨンドのバッティングセンター処刑を選んだらしい。
「ドン・ヴィンチェンゾ。あんたもやらないか? 健康にいいぞ」
「参加したいのは山々だが、面会があってな」
「それじゃあ仕方ない」
面会室に入るとき、フェリペ・デル・ロゴスが「くらえ、おれのミラクル大車輪ショット!」と叫び、その後にゴスッと顔がへこむ鈍い音がした。
――†――†――†――
面会室恒例行事、四人の看守を買収の時間です。
こいつらもいまではおれのおかげで家のローンも息子の大学費用も全部賄えて、おまけにやたらと金ぴかの腕輪とかサーベルとかをつけている。
「それで、わしにどんな話が?」
「単刀直入に言おう。あなたを外に出す」
「それは素晴らしい。ぜひそうしてくれ」
「だが、いまはできない。カンパニーの勢いが削がれていないし、あんたひとりを外に出せば、あんたはカラヴァルヴァの縄張り全てをものにする」
「そんなことはせんよ」
これは本心からだが、まあ信じないだろう。
「わしは以前も言った通り、市場と宿屋を持っていて、友人の好意を頼りに小さな商売をしている老人に過ぎん」
「カンパニーの勢いを削げるか?」
「できる。そうだな。明日の朝にはとんでもないことになっているだろう。正直、馬車が爆発するほうがマシなくらいのパニックが起きている」
「何を仕掛けるつもりだ?」
「それは明日の朝のお楽しみだ」
ああ、そうだ。言っておかないといけないのだが、さっきからイヴェスとロジスラスがしゃべっているせいで気づかなかったかもしれないが、この部屋にはギデオンとイリーナがいる。
ところが、この姿だとふたりは大人しく壁際の長椅子に座って待っている。
お年寄りに対する尊敬だろうか?
「だが、後で恨まれても面白くないので、一応言っておこう。ノヴァ・オルディアーレスの株を持っているかね? あるいは他のカンパニーの株は? 持っていたら悪いことは言わない、今すぐ現金化したほうがいい」




