第七話 ラケッティア、面会。
面会室は見張りが四人部屋の四隅にいる。
その真ん中に向かい合った机があるのだが、机の真ん中に赤い線があって、面会者と囚人はこの赤い線を越えてはいけないらしい。
とはいえ、四人の見張りには払わないといけない家賃もあるし、離婚した女房に払う子どもの養育費もある。
カールのとっつぁんは金貨の大きな袋を持ってきて、四人の見張りを呼ぶと、ひとつかみの金貨をその手に押しつけ、時間を買った。
こうしておれとふたりだけになったカールのとっつぁんから縄張りのことをきくと、案の定、カンパニーの連中がおれのナンバーズにちょっかいを出していて、〈ラ・シウダデーリャ〉を金貨三百枚で買いたいというなめくさった取引を持ち込まれたらしい。
「ギルドのほうは?」
「そっちもいろいろ仕掛けられているが、いまのところ、ファミリーに忠実だ。きみが未来永劫、ノヴァ・オルディアーレスに閉じ込められると思っているものはいない。カンパニーになびいて、後で報復を受けることを考えているのだろう」
「〈ハンギング・ガーデン〉は?」
「そっちはロムノスがきちんと防衛している。あそこは魔族居留地だからカンパニーも滅多なことはできんだろうし。ところで当座のカネはこれで間に合うかね?」
「間に合う、間に合う。それと頼みがあるんだけど、菓子屋にこういう菓子を作るように言ってくれ」
おれはポッキーとトッポについてカールのとっつぁんに教え、チョコにはジャックが持っているキャキャオを使ってくれと頼んでおく。
「分かった。すぐに作らせよう」
「それともうひとつ、ノヴァ・オルディア―レスの株を買い占めてほしい」
「難しいな。首を縦にふらんやつが出てくるだろうし」
「縦にふるまでカネを積んでやればいい」
「ヨシュアとリサークは?」
「つい今さっき、プリズン・ギャングにレイプされそうになって返り討ちにした」
「きみとの関係は?」
「おれ、いま、この姿してんだよ? まあ、しょっちゅう甥御さんをくださいってうるさいけど。どしたの? なんかあるの?」
「これは伝えようかどうか迷ったんだが――ツィーヌの薬の効果は一週間で切れる」
「……つまり」
「一週間後にきみは元の姿、来栖ミツルに戻る」
「……ということは」
「まあ、そういうことだ」
「よし、株を買い占めてくれ。すぐにおれを釈放させるんだ。売らないってやつがいたら、そいつのベッドに馬の首放り込んだれ!」
「わかった」
「くそっ、くそっ。ツィーヌの薬を差し入れさせることは?」
「途中で飲み足しても一度は効果が切れる」
「神も仏もいないのか……」
「ところで、その――今の段階で誰か始末したい人間はいるかね?」
おれはうなずく。
そうだ、頭を切り替えないといけない。
「カルロス・ガブリエル・レンディック」
「やはりそうか」
「カンパニーとつるんでこんな真似したのは目に見えてる。フィラデルフィアのリトル・ニッキー・スカルフォは賄賂をもらいながら自分に不利な判決をした判事を殺したが、全米のマフィアがそれはありだと言った。ゴッドファーザーだってソロッツォに加担したマクラスキー警部を殺すのをありだと考えた。レンディックが治安裁判所を牛耳るのは勝手だが、ひとつのマフィアに肩入れして、他を潰すようなことは越権もいいところだ。やつは判事でありながら、こっちの世界に両足を突っ込んだ。なら、ペナルティは受けないといけない。ただし、いまはまだまずい。そうだな……イヴェスとロジスラス、このふたりを抱き込めたら、殺っていい」
「あの子たちは今すぐにも始末したがってるがね」
「めっ、って言っておいて。いま、レンディックをやられたら、本当にここから出られなくなる。どうしても我慢できなかったら、シャバにいるダウンとメツガーの子分を殺して我慢させて」
「年寄りの言うこときくような子たちじゃないからなあ。それが一番骨が折れる仕事だ」
「違いない。じゃあ、ポッキーとトッポ、よろしく」




