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ラケッティア! ~異世界ゴッドファーザー繁盛記~  作者: 実茂 譲
カラヴァルヴァ アサシン・グルーピー編
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第十九話 アサシン、茫漠たる砂漠。

 愛する母さんへ

 香り玉を届けてくれてありがとうございます。とてもいい香りで、フラマー村の泉で育てた花のことを思い出しました。僕はいまダンジョンにいます。というのも、標的がダンジョンの地下四階にいるからです。ダンジョンというのは暗殺術の試し打ちにとても都合がよく、日々新しい改善点を得ては先月に届けてくれた手帳に書きつけています。最近、クルス・ファミリーの身内で銃や機械を取り扱うことになりました。暗殺用道具のフィードバックをすぐにできるのは便利なもので自分の暗殺能力が上がるのはよいものです。それに人間を暗殺するのもそれはそれで面白いですが、魔物を暗殺するのも悪くありません。人間よりずっと丈夫で、ずっと用心深く、ずっと手強いのですから。とはいえ、暗殺の結果、社会にもたらす影響がないのが唯一の欠点ですが。偉い人間ほど暗殺されると、その報せがあちこちに飛びまわり、社会は大混乱になります。そういう大混乱は見ていて、とても楽しいし、今度はもっとすごい暗殺をしようと励む動機にもなれます。あ、もちろんベリー取り扱い業者は暗殺しませんよ。

 フラマー村ではもう梅雨が終わるころでしょうか? 僕らは明日地下四階に降りますが、きいたところでは地下四階は砂漠なのだそうです。魔物もずっと手強くなりますし、なにより標的がいるわけですから、これまで以上の激戦が予想されますが、僕のパーティは四人とも暗殺者ですから、なるべく正面での衝突を避け、奇襲による混乱、そして殲滅を目指すつもりです。何か面白いものが見つかったら、お土産に送りますね。楽しみに待っていてください。


                    あなたの愛する息子 クレオより


     ――†――†――†――


「このダンジョンってのは極端じゃないと死んじゃう病気なの?」


 トキマルの言葉にみな賛成した。

 地下四階では砂漠がどこまでも広がっていた。


 ダンジョンという建物のなかにいたはずなのに、空にはリンのように燃える凶悪な太陽がかかっている。

 地下三階は道が塞がって狭苦しかったが、地下四階は危険なまでに広かった。


 つまり、広かろうがダンジョンの基本である『通路と部屋』の伝統が守られている。

 通路は砂に埋もれかけた石畳の道で部屋は崩れた壁の名残が少し残っている程度だが、この『通路と部屋』を外れるや否や流砂に引っかかったり、最悪、砂嵐にあおられて、この砂漠で遭難することもありうるのだ。


「そういう意味では三階よりもタチが悪い」


 見晴らしがよい。視界が良好。

 敵の奇襲を食らうことはないが、こちらも奇襲はできない。


 砂に埋もれかけた石碑や石像が点在する道の向こうには砂丘が地平の彼方まで連なっている。

 蜃気楼にだまされて悔しい思いをするより前にオアシスを見つけるのが優先事項だと歩き始める。


 リサークはときどき紙を石碑にくっつけて黒鉛でこすり、碑文を写し取る。


「おい、何をやっている?」


「わたしがバルブーフの出身であることをお忘れなく。砂漠の国の文字なら多少は読めるかもしれません」


「で、何が書いてあるんだ?」


「知りたいんですか?」


「別に」


「税金の徴収方法が変わることが書いてあります」


「夢がないな」


「古代遺跡なんてそんなものです」


 次の瞬間、仲間割れの衝動が最高クラスに襲いかかったのか、クレオがトキマルに、トキマルがヨシュアに、ヨシュアがリサークに、リサークがクレオに投げナイフを放った。


 ギィアアア!


 耳障りな叫び声が四人の背後から上がる。

 忍び寄り背後から襲いかかろうとした魔物――歪んだ短剣、白い仮面に赤い装束――の頭、顔、首から鮮血が噴き上がり、次々と倒れる。


 砂や岩が熱い空気でぐらつき、そこから赤衣の魔物たち――ザンガ団員が次々とあらわれた。

 冒険者を殺して身ぐるみ剥いだ魔物の盗賊団は数で押せると踏んで囲い斬りをしようとする。

 彼らからすれば冒険者は戦利品アイテムに過ぎない。


 だが、とことこミツルちゃん人形を狙うふたりの計算違いからすれば、ザンガ団員は得点スコアに過ぎなかった。

 今も団員のひとりはリサークの見事な剣舞を最前席で観覧した代償として千切りにされた頭を押さえながら絶叫をあげて絶命し、別の団員は短剣で左腕に負ったかすり傷から急速な壊疽と腐敗と膨張、そして破裂による地獄を味わったが、それはヨシュアが墓場に住むカエルから抽出した毒がかすり傷から体内に流れた結果だった。


「きみの技は品がない」


「お前の技は単調だ」


「ほう」


「やるか?」


 こうしてヨシュアとリサークの殺し合いが始まると、残敵掃討のためにクレオが動き出す。


 クレオの最近の暗殺術の課題は複数の敵への連続攻撃にどうやってショットガンを織り込むかだった。

 織り込まれた相手は地獄で腐蝕性の殺気を付与させた釘のみじん切りを食らう。

 それもヨシュアの毒カエルに勝るとも劣らない悲惨な死に様だが、それでもヴォンモの闇魔法よりはまし、というのもヨシュアの毒カエルもクレオの殺気ショットガンも死体はただの死体だが、ヴォンモの闇魔法でやられた場合、死体そのものが瘴気の巣となり、どの教会からも埋葬を断られる。


 最後のひとり、隊長クラスのザンガ団にはトキマルがあたった。

 手下が全てやられると隊長は身をひるがえし、砂漠へと飛んだ。

 そのとき、空気が揺らぎ、すぐ目の前に蜃気楼が起こった。

 木柱の上にしゃれこうべを刺した砦があらわれ、隊長は短い杖をふりながら、蜃気楼のなかに飛び込んだ。


 鉄線付きの苦無を放って、蜃気楼のなかの城塞に刺したが、蜃気楼が消えると、空間の断絶が物質の断絶となって、鉄線はぷつんと切れた。

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