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ラケッティア! ~異世界ゴッドファーザー繁盛記~  作者: 実茂 譲
ディルランド王国 ラケッティア戦記編
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第十九話 ラケッティア、軍議+α

 解放軍最高軍事会議。


 といえば、カッコはつくが、参加メンバーはユリウス、ヘイルゼン、マグヌスとハーラル、そして、スヴァリスとおれ。

 それにアサシン娘たちだが、彼女たちは暗殺専門のテクニカルアドバイザーとして会議に出ている。

 まあ、知らんけど。


 このメンツが、おれのつくった軽いものアンティパスティをつまみながら、今後の解放軍のとるべき戦略を決める。


 ちなみに開催場所はローバンの双子の菓子屋の裏手の庭だ。時刻は夕暮れ時。


 あれ以来、ローバンはすっかり解放軍陣営の都市になり、志願兵も増えている。

 この最高軍事会議に出席する指揮官の数も増えていくことだろう。


 それに港を押さえたおかげでダンジョンとカトラスバークの上がりが月に金貨千二百枚。

 それにローバンの賭場、売春宿、みかじめ料で金貨三百枚。


 まあ、上々な滑り出しだが、これだけ戦争に使える人的資源と軍資金がありながら、これを最大限有効に使う手立てがおれたちでは分からない。


 それが分かるのがスヴァリスというわけだ。


 で、このスヴァリスだが――、


「来栖くん。きみは実に素晴らしい料理人だ。このブロッコリーの揚げ団子はとてもうまい。だが、残念なことに我が合唱団には入れない。きみはカエルではないのだから」


「はあ」


 まあ、こんな調子だ。


 ちなみにブロッコリーの揚げ団子っていうのは二種類のパン粉を使うポルペッテのこと。


 塩茹でしたブロッコリーを潰して、生パン粉やチーズ、溶き卵で団子にし、表面に固くなったパンの皮を下ろしてつくる衣用のパン粉をまぶして、揚げる。


 おいらの料理を褒めてくれるのはうれしいけど、あんたもっと他にやることあるだろ?


 スヴァリスはここに来て、もう二週間経つが、今のところ、カエルの合唱団に入る資格がないことを告げてまわる以上のことはしていない。


 不安に思っているのは絶対におれだけじゃないはずだ。


 実際、差し当っての問題があるのだ。


 帝国軍が南進してくる。


 アサシン娘たちを情報収集に飛ばして分かったのだが、帝国軍は本格的に解放軍を叩くつもりでいるらしい。


 分かっている陣容は、


 帝国軍総司令官デルレイド侯爵

  第一旅団 司令官 ロベール将軍  兵力一三〇〇〇

  第二旅団 司令官 カスパール将軍 兵力二〇〇〇


「敵の主力は第一旅団だ。総司令官のデルレイド侯爵も同行するし、騎兵部隊や攻城兵器部隊もある。それに対し、第二旅団はあくまでも補佐に過ぎない。内容も全部が帝国軍ではなく、共和派貴族からなるディルランド人部隊も含まれている」


「こっちの兵力は四千。そのうち氏族歩兵はマスケット銃も使える精鋭だが、新しく編成した志願兵部隊は三千と数は多くても、まだ鍛錬も不十分だ」


「わしらは三倍の敵を叩き潰したことがある。第二旅団を潰して、少し肝を冷やさせてやれば、主力の進軍も鈍る」


「ハルトルドの考えに乗るのは癪だが、その通りだな。敵の弱点をつくべきだ。軍師殿はどう思われる?」


「ここにはカエルがおらんなあ」


 スヴァリスは寂しげに言う。


「まったくどうして人はカエルに歌を教えることの素晴らしさに気づかないのか。人生を損している」


 おれはいま、アサシン娘たちに司令官全員暗殺できないか、マジで考えている。


 リスキーだが、このじいさんほどリスキーじゃない。


 あの屋敷ではちょっとした観察力に驚かされたが、それもレインマンみたいなもので、一つのことに長じてるだけかもしれん。


 結局、編成はユリウスが決めた。


 こちらは氏族歩兵を中心とした三千五百の兵が第一旅団の側面を護衛する第二旅団を潰し、敵の後背を途絶の危機にさらして、主力の第一旅団を撤退させる。


 作戦はそう決まった。


「五百の兵はどうするんだね?」


 スヴァリスがやっと軍事の話題に参加した。


「ローバン・シャリンガム・ランプリングを結ぶ最終防衛線のために残します」


「どうだろう。敵はこちらの倍以上。主力が破れれば、ここに五百を残しても意味はない」


「そう、ですか?」


「その五百、わたしにくれないかね。それに土木作業のうまい労働者をできるだけつけてほしい」


「わかりました」


 それだけ言うと、スヴァリスは満足げに椅子に深々と腰掛けた。


 軍議は終わった。

 スヴァリスも意見は出したが、それほど奇抜でもないし、効き目のありそうのないことを言った。


 みんながいなくなったあと、おれはアサシン娘たちと片づけをしていたが、そこにスヴァリスがひょっこり姿を現した。


「ときに来栖くん。マスケット銃はどのくらいあるかね?」


「マスケット銃?」


 おれはテーブル布巾をさっと肩にかけると、


「氏族歩兵隊の百丁にプラスして、新しく入ってきたのが二百五十丁。それに小さいけど大砲もある」


「なるほど、それだけあればよい。で、そのマスケット銃と大砲なのだが、耳を貸してくれたまえ」


 それからほんの数十秒のことだったが、スヴァリスは頭が狂ったとしか思えないことを口にした。


「マジっすか?」


「ふむ。マジだ。きみには本隊のほうへ行き、つい今言ったことをきっちり成し遂げさせてもらいたい」


「絶対きくわけないって。そんな命令」


「それをきかせるのが、きみの仕事だ」


「おれがあ!? 無理! 絶対無理!」


「そんなことはない。こうすればいい、きみのところのあの子たちをだね……ゴニョゴニョ」


 耳打ちが終わると、おれは思わず、スヴァリスを見た。


 やばい。このじいさん、言ってることめちゃくちゃなのにやってみたくなることを言ってくる。


 実際、やったらどうなるかさっぱり分からないのに。


 このゆるキャラみたいな目をしたじいさん、禁酒法時代のアメリカにいたなら、頭に穴をぶち開けられて溝に転がってただろう。


 だが、まかり間違うと……〈ボスのカポ・ディ・なかのボストゥッティ・カピ〉になってたかも。

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