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ラケッティア! ~異世界ゴッドファーザー繁盛記~  作者: 実茂 譲
カラヴァルヴァ 雪とポルノとスロットマシン編
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第十二話 ラケッティア、古代文明からコンニチハ。

 透き通った青い石のなかで眠るように横たわるのはSFアニメのヒロインみたいな少女だった。

 SFものに出てくる未来の戦闘機の擬人化したような感じ――ぴったりとしたボディスーツ、青と黒とグレイの落ち着いた色のガジェット、いわゆる猫耳うさ耳が生える場所からは戦闘機の翼をシャープにしたガジェットが生えている。

 これが頭の表面にくっついているのか、頭蓋まで接続されちゃってるのかはあまり考えたくない。


「カルリエド、ヒューマンのブラッダが来るの、待ってたんだや。ハートのブラッダ、こんなに成長グロウったん、ヒューマンのブラッダのためだや。なら、ブラッダ同士が手ぇ取り合って、生きてくのまじサタンなんよ」


「でも、どうやって、この子、外に出るんだ? って、あれ、こっち見てる?」


「ハートのブラッダ目ェ覚ましたんよ!」


 少女を取り巻く石があっという間に白く濁った。

 つやつやした冷ややっこのようになったかと思ったら、さらさらと青白い砂となって流れ出し、全ての砂が流れ去ると、そこにはSF少女が横たわっていた。

 開いていた目は閉じている。


「ブラッダ。お姫さまプリンセッタの目ぇ覚まさせるんよ」


「さっき目、覚めてたんじゃん」


「カルリエド、ヒューマンの物語ストーリー読んだことあるんだや。寝てるお姫さまプリンセッタの目を覚まさせるのは、王子のブラッダのキッスだけなんだや」


「でも、さ。おれ、王子じゃないし。むしろ、あんたのほうが王子に見えるよ」


「カルリエド、王子違うんよ。石屋なんよ」


 えー、でも、さっき目を覚ましてたし、キッスなんてしようとして、ギリギリで目が覚めてボコボコにされたりするかもしれないし、いや絶対そうなる、そうに決まってる。

 それかギリギリでアサシン娘たちが雪崩れ込み、黒髭危機一髪みたいにメッタ刺しにされる。


「ヒューマンのブラッダ、覚悟決めるだや。ン万年も一人で眠ってたハートのブラッダ、これ、かわいそうだや。それ起こすのサタンな役目。でも、ヒューマンのブラッダ、キッスで起こす。ヒューマンのブラッダはできる男だや」


 三十秒後、そこにはSF少女に口づけしようとする来栖ミツルの姿が!


 もちろん、カルリエドにはうちの連中には絶対に言わないとサタンに誓わせてある。


 ルーレットに金貨一万枚賭けてもこんなにドキドキしないだろう。


 いや、でも、結果は見えてる。

 この子はギリギリで目を覚まし、おれはコテンパンにのされる。


 ほら、女の子が目を覚ました。


 おれってば、すげー落ち着いてる。

 まあ、オチは分かってたさ。


 さあ、ビンタか、キックか、バックドロップか。


 少女は素早くおれを首の後ろに腕をまわすと、おれをがっちりとらえ、そのままおれの口にそのちっちゃい唇を押しつけた――。


【脳みそ】

「こちら総司令部。状況を報告しろ」


【唇】

「こちら、第一防衛ライン。舌に突破された。繰り返す。舌に突破された」


【脳みそ】

「ディープキスだと? 馬鹿な!」


【歯】

「こちら第二防衛ライン! 舌が防御をこじ開けようとしている。これ以上はもたない!」


【脳みそ】

「くそっ、理性がオーバーヒート寸前だ。妄想が爆発するぞ。総員退避。繰り返す。総員退避!」


 生まれて初めてのディープキスがおれにもたらした反応は腰を抜かして、床にペタンとケツをつけたまま、後ろへざざざときしょい動きでずり下がるものだった。

 はた目から見て、とてもゴキブリめいて見えただろう。


 くだんの少女はおれを見下ろすように立っている。


「口腔内より細胞採取――DNAスキャン完了――指揮系統ライン構築……構築完了。司令、ご命令を」


     ――†――†――†――


「敵性反応感知。四体。司令、ご命令を」


「あれ、味方だから」


〈ちびのニコラス〉に戻ると、アサシン娘たちの敵意に満ちた視線を浴びるハメになった。


「命令受領。データを更新します」


「もといた場所に返してきなさい」


「そりゃ無理だ、ツィーヌ。だって、カルリエドが、これはヒューマンのブラッダのものだや。ブラッダはブラッダの命に責任を持たなきゃいかんだや、って言ってきかないんだもん」


「ホントはマスター、嬉しがってないか?」


「ちょっとだけ」


「むー」


 ディープキスのことは絶対に言えないな、こりゃ。


「司令部構成をスキャン。ターミナル端末、未設定。生体反応ファイアーウォール、未設定。司令部機能に重大なエラー。亜空間兵站システムを起動します」


 亜空間――というのはドラえもんの四次元ポケットみたいなもんらしい。

 空中にぽかんと穴を開けて、おれが必要と思ったものを亜空間のなかでつくってくれるらしい。


「ただし、兵站システムはリソースに限界があります。司令。緊急に必要なものを選択してください」


「ちなみに何がつくれるの?」


「超高速移動人型機動兵器、軌道エレベーター、クローン・プラント、宇宙航空戦艦……」


「あう。マスター。何を言っているのかアレンカにはさっぱりなのです」


「つまり、すっげー速く動ける兵器か人を星空まで運んでくれる箱かまったく同じ人間をいくらでもつくれる工場か星空を旅できる船をつくってくれるって言ってる」


「なら、その速く動ける兵器にしましょうよ」

「アレンカは同じ人間たくさんつくれる工場が楽しそうなのです」

「星空まで行く箱がいいな。夢みたいだ」

「……船」


「リソース量から兵站システムは一種類のコンテンツのみを作成できます」


 なるほど一種類しかつくれないか。じゃあ――、


「スロットマシンつくってくれる?」

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