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ラケッティア! ~異世界ゴッドファーザー繁盛記~  作者: 実茂 譲
カラヴァルヴァ クライム・スケッチ編
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第二十一話 ラケッティア、ケジメのスケッチ。

 ズドンと銃声。

 背中を撃たれた緑のチョッキの男が桟橋から転がり落ちて、川にドボン。


 その瞬間、おれは特大のミスリル・ランタンにかぶせておいた分厚い毛布を払いのけ、文字通り白日のもとにさらされた桟橋の人影に叫ぶ。


「そこまでだ! 緑のチョッキを着たカカシ殺害の現行犯で逮捕する!」


 緑チョッキの藁人形殺しの下手人にして、今度の騒動の原因であるマルセリ閣下どのがびっくりして目をぱちくりさせている。


「き、貴様は来栖ミツルか? こんなところで何を――」


「あんたは逮捕されたんだよ。でぶちん。あんたには黙秘する権利がある。お前の供述は法廷で不利な証拠として使われることもある。それとお前には代言人をつける権利がある。費用が払えないなら国選代言人がつく。まあ、そんなものいればの話だが――それにしても、クルフォーもついてねえなあ。あれだけ協力してやったのにもらえるもんは鉛玉一発だったなんて。あ、クルフォーが今どこにいるかきかないでくれよな。どこに行ったのか、おれたちも知らんのよ」


「ここで何をしてるんだってきいてるんだ、このクソガキ!」


「同じ質問そっくりそのまま返すぜ。治安裁判所の長官どのが船員教会の裏手の桟橋にこんな夜中に何の用だ。クルフォーからの秘密の手紙、あれ、おれが挟んだんだよ。あんたの仕組んだ陰謀も全部こっちはお見通し。あとはあんたの処分をどうするかってことだ」


 マルセリの背後からアサシン娘たちが現れ、別の退路はトキマルが塞ぐ。


「だから、どうした?」


 と、マルセリが急に強がる。


「証拠はあるのか? お前みたいなガキの言うこと、誰が信じる?」


「ドン・モデストとドン・ウンベルトは信じたぜ」


 教会裏手の納屋から二人が現れる。

 よくもまあこれだけブチ切れられるもんだってくらいブチ切れた顔をしている。


「いいか。おれたちは悪党ラケッティアだ。誰かさんの罪を暴くのに起訴に持ち込むための証拠なんて探さない。一連の事件から誰が一番得するか考えて、納得がいけば、おれたちの法廷はそれで有罪宣告ができるんだよ」


「モデスト! ウンベルト! お前ら、こいつの言うことを本気で信じるつもりなのか!」


 このクソデブが! と、ドン・モデストが吐き捨てた。


「おれはお前に十年間、金貨で五十枚払い続けてやったのに、そのお返しがこれか? お前の息子が喧嘩で人を刺したとき、濡れぎぬ着せるチンピラを用立ててやったのに、そのお返しがおれのシマを狙って、おれの建物を吹っ飛ばすことだったのか?」


「ウンベルト、なんとか言ってくれ! 全部、誤解だ!」


「伯爵と呼べ。なれなれしい」


「ウンベルト!」


「来栖くん。この見苦しい始末についてはどうつけると考える?」


「始末だと? ふざけるな! 貴様ら、犯罪者が事もあろうに治安裁判所の長官を害することができると思ってるのか!」


「それなら安心しろ。後任の長官はドン・アレハンドロ・エリサルデ判事に決まった。長官になれて喜んでるし、今度の不祥事に対する治安裁判所の責任として、自分の賄賂は六か月のあいだ月に金貨四十枚でいいってよ」


 自分の死刑を回避する道が一つまた一つと消えていくのを感じながら、マルセリは桟橋を後ずさりする。


「問題は誰があんたをぶち殺すかだけど、一番迷惑を被った人間に手を下す権利があるとおれたちは考えてる。あんたはおれたちの不動産を破壊し、カネを奪ったが、最大の被害は人命だ。で、一番殺されたのは誰のところか、調べてみたら、びっくり。なんと治安裁判所だったんだよ。あんたとしては自分のところも襲撃させて、自分が黒幕であることをカモフラージュさせるつもりで自分の部下を襲わせたわけだが、それがこんな形で自分に降りかかるのは何とも皮肉だ。それでは、先生。後はよろしくお願いしやす」


 先生――コルネリオ・イヴェス治安判事が教会の裏口から現れた。

 自分の上司をぶち殺すことについて神の許しを求めたか、それとも死んだ警吏に仇討の報告をしていたのか知らないが、その顔にはもう迷いはなく、ホイールロック・ピストルの歯車に点火用の黄鉄鉱をしっかりセットしていた。


 顔に銃を突き付けられながら、マルセリは判事をコルネリオと親しげにファースト・ネームで呼び、街を出て、二度と戻ってこないから見逃してくれと命乞いをし、最後は頭のなかに神さまの声が響いて仕方なくやったと心神耗弱状態の無罪を狙うようなワケの分からんことを言ったが、イヴェスはクスリともせず、冷厳な眼差しを銃身越しに向けるだけだった。


 ついにとうとう桟橋の端まで追いつめられると、マルセリは膝をつき、


「こんなことは間違っとる! 頼む、コルネリオ、自分の正義に従ってくれ! わしを畜生みたいに撃ち殺すことが本当に正しいことなのかどうか、これが正義なのか、頼むから――」


「正義はここにある」


 弾丸は額を砕き、マルセリは割れた頭から脳漿をまき散らしながら、そのままエスプレ川に落ちた。

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