第三話 ラケッティア、オーディション。
サブマシンガンより威力があって、アサルトライフルより取り回しがしやすい銃が欲しいというプリンもケーキもどっちも食べたいガキみたいなわがままを誰かが言い出して、PDW(個人防衛火器)という中途半端なジャンルの銃があらわれた。
ケブラー材と鉄板を入れたボディアーマーを貫通する弾を発射できて、二百メートル先にも命中させられるが、軽さはサブマシンガン並み。
おれなんか、機関銃はトミーガンの一手があるのみだが、銃マニアのあいだではP90というPDWがとても近未来的なデザインで、かっこいいということで、わいわい騒いだ。
ジャパニーズ・サブカルチャーでは、この銃を使う美少女をガンガン発信している。
そんなクール・ジャパンをファンタジー異世界に持ち込むことにしました。
「題して、アサシンウェアとPDW選手権! 今回はこれを使えた子を連れていきます」
フレイにおれのアタマをトレースさせて、亜空間リソースを結構割いて、P90を作ってもらった。
この銃は形も引き金もグリップも弾倉もヘンテコなのだが、これがSFファンには何とも言えない。
そんなSFな銃をアサシンウェアに身を包んだ現役の美少女暗殺者たちがぶっ放す。
裏庭に集まったのはガールズとフレイ、それにトキマルやイスラントなどの野次馬、それにマネキンのフリードリヒくんだ。
フリードリヒくんは全身を海老蟹みたいに鎧で包んだアシスタントでオーディションに献身してくれることになっている。
つまり、的だ。
実際、PWDが鎧をぶち抜くのか興味がある。
「じゃあ、最初は――ジルヴァ?」
こくり。
ジルヴァはうなずくと、左足を前にして、ポリマー樹脂の銃床に頬をよせ、P90をしっかり持って、フリードリヒくんの胸を狙った。
パン!
最初は単発。
フリードリヒくんの胸当てに小さい穴が開く。
パパパ! パパパ!
三点バースト射撃が完璧な集弾を見せ、一発撃ちよりもひと回り大きな穴が開く。
パパパパパパパパ!
フリードリヒの胸当てが穴だらけになる。
ジルヴァは別に興奮するわけでもなく、クールにレバーを引いて、弾が薬室に残っていないことを確認して、次のマリスに渡す。
そのあいだ、おれと野次馬の野郎どもはフリードリヒくんの頭を外して、新しい、キズひとつない体と鎧につけかえる。
「頭領、これ、意味あるの?」
「ある。アンパンマンみたいなもんだ」
「アンパンマン?」
「あんこをパンのなかに入れる。そのマンだ」
「どーでも」
しかし、もしかしたらと思って、フリードリヒくんの後ろの壁にいらないマットレスを十枚立てかけておいたが、全弾が鎧を貫通して弾がめり込んでいる。
次はマリスである。
「参ったな。ボクがどんな武器でも得意だってことがバレちゃうかな。銃は趣味じゃないんだけど。ハッハッハ」
パパパパパパパパパパパパ!
フリードリヒくん無傷。
「ねえ、銃身曲がってる?」
「下手くそねえ。わたしに貸してよ」
ツィーヌが交代して、しっかり狙って、引き金を引く。
カチン。
「ん?」
ツィーヌがレバーを引き、戻し、また狙って撃つ。
カチン。
「すいませーん。マリスが壊したー」
「壊してないよ。失敬な」
野次馬たちはフリードリヒくんの蘇生という重大な任務が発生しないのをいいことに、用意したおにぎりビュッフェを囲み、むしゃむしゃやり始めている。
ジルヴァが銃を受け取り、引き金を引くと、パン!と軽快な音を立てて、弾がフリードリヒくんの膝を貫通した。
「……撃てる」
おにぎりに群がる男どもは、心の汚れたものには使えない銃だとか、何をどうしても機械が動かせないやつはいるがツィーヌがそうだったとは面白いクククとか、言いながらニンニク炒めほうれん草おにぎりやマグロと卵の黄身おにぎりにがっついている。
「はい。じゃあ、アサシンウェアとPDW。今回はジルヴァさんが主演に決定しました」
「ちょーっと、待ったあ、なのです!」
見ると、アレンカがぷりぷりしている。
「なに、どうかした?」
「どうかした、じゃないのです! アレンカがまだなのです!」
「無理だよ、アレンカじゃ」
「無理じゃないのです! 貸すのです!」
「あのね、アレンカ。これは大人の武器なの」
と、ツィーヌが言うのだが、大人の女性の武器がPDWと言った時点でツィーヌは大人の女性じゃない。
「だいたい、アレンカ、普通に魔法でこいつの火力を上回ってるでしょ?」
「むーっ、とにかく、貸すのです!」
「わかった、わかった。でも、アレンカ、銃を制御できるの? あ、待て、フルオートはだめ!」
ぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱ!
アレンカは銃にふりまわされ、おれは木片や漆喰片が降ってくるなか、必死になって這いつくばって、手で土を掘った。隠れる場所が欲しかったんだけど、そんなん無理だよな。
乱射事件はほんの二秒か三秒のことだが、三十分くらいに思えた。P90って確かに五十発くらい入るんだ。
ちらりと見えたが、おにぎりビュッフェのまわりにいた野次馬どもも撃たれた。
おにぎりが米粒にまで分解されて飛び散っているなか、トキマルとジンパチと赤シャツとイスラントと〈インターホン〉が狭いテーブルの下に自己の領域を確保しようと戦っている。
マリスはひらりと裏庭の壁を飛び越えて逃げるが、この弾の貫通力はフリードリヒくんの献身でご覧の通りだ。穴だらけになった壁の向こうから「うひゃあ!」と声が上がる。
ジルヴァは水が張ってない水盤の小便小僧のアラバスター像の後ろに隠れ、ツィーヌはというと、うつ伏せになったまま動かない。
おれは必死に土下座で草むしりをするみたいにツィーヌのもとまで這って行き(そのあいだ、ニアピン賞ものの弾丸が三回飛んできた)、意識を失っているツィーヌをかかえて、家のなかに引っぱった。
我ながらよくあのなかを中腰で立てたと思う。
もう一生分の勇気と甲斐性を使った気がする。
まあ、結局、ツィーヌは怪我はなく、びっくりして気絶しただけだった。
ハッと意識を取り戻したツィーヌのプライドのため、おれはまたツィーヌとは別のほうを向いて、ずっと前からここに伏せてますよってスタンスを保った。
この秘密は墓まで持っていくことにする。
あと、イスラントが泡を吹いていたが、これはいつも通りだ。
自分の指先をテーブルの破片で切ったらしい。
アレンカはと言うと――、
「快・感、なのです」
と、薬師丸ひろ子してました。
この後、かろうじて命を拾ったおれたちが「とりあげろーっ!」の大号令のもと、アレンカに飛びかかったのは言うまでもない。




